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げいまきまき『売ってナンボ買ってナンボ』は売春防止法違反? ~風俗のリアルイベントの未来を考える~(坂爪真吾)

◆風俗関連のリアルイベントの増加

ここ最近、風俗業界でリアルイベントの開催が目立つようになってきました。

2018年11月18日に新宿ロフトプラスワンで開催された「めっちゃ前向きな風俗放談」、11月20日(火)に鶯谷キネマ倶楽部で開催された「テメェらのフェス!」など、風俗店のキャストさんや店長たちがトークイベントを行ったり、ファッションショーさながらにランウェイを歩くなど、これまでにはなかった意欲的な内容のリアルイベントが行われるようになってきました。

池袋サイドラインさんのように、在籍しているキャストとお客様を集めて毎月リアルイベントを開催している店舗もあります。

こうした流れは「業界の健全化や活性化に資するもの」として、業界内外から歓迎されています。

私自身もいくつかのイベントに参加させて頂き、非常に楽しませて頂きました。

15年前=店舗型風俗店への浄化作戦の嵐が吹き荒れていた頃から業界に関わっている身としては、「ええ時代になったのう・・・」とお茶をすすりながら好々爺のようにつぶやきたい気分です。今後も時間の許す限り、積極的に参加していきたいと考えております。

◆どこまでやって大丈夫なの?

さて、こうしたリアルイベントの開催が増える一方で、「風俗のリアルイベントって、法律的にどこまでやって大丈夫なのかな・・?」「コンプライアンスとか、どうなっているのかな・・・」という疑問や不安が渦巻いている人も少なくないのではと思います。

ストリップ劇場やSMクラブ・ハプニングバーなど、外部から見通すことのできない閉鎖的な空間で、その場にいる客やスタッフ全員の同意があったとしても、個人が全裸になると「公然わいせつ」と見なされてしまう場合があります。

下着や水着であれば問題ない、パンチラ程度ならOK、という見方もありますが、生着替えやランウェイの最中で、一部の登壇者や参加者が独断で性器を露出したり全裸になったりした場合、「公然わいせつ」と見なされてしまうリスクがあります。

また風俗業界は、営業や広告宣伝の方法が風営法で厳しく規制されている世界です。お店のチラシを屋外で配っただけで経営者が逮捕される世界でもあります。

法規制により、デリヘル店は基本的に看板を出せませんが、事務所の郵便受けに店名を書いただけで「看板」とみなされ、警察からチクチク突っ込まれる、という世界です。

実際に現場で働かれている方はお分かりだと思いますが、デリヘルで事務所の扉や建物に店名を堂々と出しているお店は、まずありません。

同様に、チラシの配布もできません。看板やチラシの中に性的な表現や画像が入っていなくても、そしてそれらがたとえ誰の目にも触れなかったとしても、「広告宣伝をした」という事実だけで違法になってしまうのです。

そして言うまでもなく、売春防止法による規制(売春=本番行為の禁止)もあります。

18歳未満の未成年を雇っている場合や、在籍女性が本番行為=売春を行っていると見なされた場合、経営者は逮捕されます。

年齢を偽って応募してきた女性を採用してしまった場合、女性が店の方針を無視して勝手に本番行為をしていた場合でも、捕まるのは経営者です。「知らなかった」では済まされません。

未成年雇用や本番に関しては、店側の努力や注意だけでは100%防げないにも関わらず、問題が起こった場合は100%店側の責任になってしまうため、経営者は予防に神経を尖らせています。

◆リアルイベントはリスクでしかない?

こうした広告規制や営業規制、店側が100%管理しきれない採用リスクや本番リスクのある中で、「リアルイベントを開催する」「リアルイベントで店舗や女性の宣伝をする(店名やURLの入ったチラシや割引チケットを不特定多数に配布する)」ことに対しては、通常の経営者であれば、確実に躊躇するはずです。

「風俗店は、世間や警察から目を付けられないように、ひっそりと営業するのが正しい」という価値観は、経営者の間では昔から連綿と共有されていますが、風俗店を取り巻く営業・広告規制の厳しさとリスクの高さを考慮すれば、特段保守的な考えでもないと思います。

実際にリアルイベントをやられているお店や企業は、店舗や女性に対する様々なリスクや不測のトラブルなどの可能性を全て計算した上で、入念な準備と相当の覚悟を決めた上で開催されていると思います。

私も職業上、どうしてもそういった目線でリアルイベントを見てしまうので、先日の「テメェらのフェス」に参加した際も、ランウェイを歩く女性のパンチラ云々よりも(笑)、イベント全体のコンプライアンスの方が気になってしまい、「このフェスを無事に成功させるために、運営者の方々は多大な努力と苦労をされたに違いない・・・!」と別の意味で深く感動してしまいました。

◆「弁護士に確認すればいい」わけではない

風俗業界にあまり詳しくない方は、「法律的にヤバいかどうか、事前に弁護士に確認してから開催すればいいじゃないか」「事前に所轄の警察署にお伺いを立ててから開催すれば安心じゃないか」と思われることでしょう。

しかし、現実はそう簡単には行きません。

まず、弁護士は「ここまではセーフ、ここまではアウト」といったように、風俗店がやろうとしていることに法律的な「お墨付き」を与えてくれる存在ではありません。

せいぜい、「過去の事例では、ここまでやって摘発されたケースがあるので注意してくださいね」と言えるくらいです。

風俗業界は、法律的にも社会的にもグレーの世界です。

風俗店の相談に関わる弁護士さんからは、「よくお店の方から、サービス内容や広告宣伝・客引きなどについて、法律的にどこまでがセーフで、どこまでがアウトなのか、明確な基準を教えてほしい、と尋ねられますが、そういった基準や線引きを提示することはできないんですよ」という声をよく聴きます。

ある地方議員の方から、「風営法の世界って、公職選挙法と同じだよね」と言われたことがあります。

いずれの法律も、どこまでがセーフでどこまでがアウトなのかが、はっきりと明示されていない。

「あの時に、こうした行為をこの程度のラインで行って摘発された人がいたから、とりあえず今回はここのラインまでやってみよう」といった感じで、常にケースバイケースで判断や意思決定をしていくしかない。

「どこまで走ったら崖に落ちるのか(摘発されるのか)誰も分からないけれども、崖の手前ギリギリで止まることのできたヤツが勝者」といった、恐怖のチキンレースですね。

弁護士に聞いたとしても、「お墨付き」は得られない。

そもそも弁護士は、グレーな行為に法律的な「お墨付き」を与えてくれる存在ではありません。(ここ、メッチャ重要ですよ!)

◆警察に聞いても、教えてくれない

そして警察。

お店や企業が風俗に関する新しい事業やイベントを行う場合、所轄の警察署に「自分たちのやろうとしている事業・イベントが法律的にセーフかアウトか、教えてください」と尋ねても、警察はまず答えてくれません。

警察が「ここまではセーフ、ここまではアウトですよ」と明確に基準を提示してくれればいいのですが、基本的にはノーコメント、もしくは端的に「やめろ」としか言われません。

私も男性重度身体障害者に対する射精介助事業を開始した時、風営法の規制範囲に該当するか否か、所轄の警察署にお伺いに行ったのですが、メッチャ揉めました(笑)。

警察も、決して「お墨付き」を与えてくれる存在ではないのです。

「警察に聞いても明確にアウトだと言われなかったから、多分セーフなのだろう」と自己判断して事業やリアルイベントを始めた場合、ある日突然、売春防止法違反や風営法違反で摘発されるリスクはいくらでもあります。

警察の視点に立てば、リアルイベントは以前から目をつけていたお店や個人・団体を摘発するための、格好の舞台になりえます。メディアにとっても、話題性のある格好のネタになるはずです。

法的な立場が不安定であり、誰も「お墨付き」を与えてくれないグレーの世界。それが風俗の世界です。経営者、キャスト、メディア、支援団体、専門家を含めて、関わる全ての人に一定のリスクが伴います。

誰も「お墨付き」を与えてくれない世界の中でリアルイベントの文化を根付かせていこうとするならば、「石橋を叩いても渡らない」くらいの姿勢で、慎重に慎重を重ねて実施しなければならない。

一つでも「悪しき前例」ができてしまうと、それ以降のリアルイベントが萎縮してしまう可能性、場合によっては全て開催できなくなってしまう可能性がある。後援や協賛を受けられなくなったり、会場を借りられなくなったり、余計な法律や条例ができる可能性も大いにあります。

◆「売ってナンボ買ってナンボ ~セックスワークを巡って~」

そんな中、2019年に大阪で「売ってナンボ買ってナンボ ~セックスワークを巡って~」というイベントが開催されることが決まりました。

主催者のげいまきまき氏は「カウパー団」と称するユニットで活動しており、「女優パフォーマー元セックスワーカー」という肩書で、セックスワーカーの安全と健康を応援するグループSWASHにも所属しています。

2019年に大阪市住之江区のクリエイティブセンター大阪で、2月22日(金)~24日(日)、3月1日(金)~3日(日)、セックスワークをテーマにしたパフォーマンスや映像や音の展示、トークのイベント「have a nice day sex worker 」を開催する、と記載されています。

大阪で活動するアーティストやクリエイターを支援するおおさか創造千島財団の助成を受けており、現代芸術のセックスワーカーへの配慮欠如から起こる問題に一石を投じる内容、とされています。

具体的な内容に関しては、カウパー団のサイトにも記載されていないため、これから決まっていくのだと思いますが、「売春の非犯罪化を求める当事者団体」のメンバーであり、自身がセックスワーカーであったことを公表している人間が「売ってナンボ買ってナンボ」というタイトルのリアルイベントを開催する、ということは間違いないようです。

「売ってナンボ買ってナンボ」、2016年8月に開催された「私たちは『買われた』展」(主催:Tsubomi/一般社団法人Colabo)と似たようなタイトルだな、と思われた方も多いと思います。

げいまきまき氏をはじめとしたSWASH関係者は、Colaboさんの活動や言動を長年批判し続けているので、おそらく同展へのカウンター的な意味合いを込めているのでしょう。

◆主催者の掲げている理念・目的・意図は伝わらない

「私たちは『買われた』展」は、主催者側が「買う側の男性を批判・糾弾することが目的ではなく、『買われる前』の背景があるということを知ってほしい」というメッセージを出していましたが、そうした意図はほとんど伝わらず、タイトル通りに「買う側の男性を批判・糾弾するイベント」と受け取られ、ネットでは開催前から炎上状態になりました。

今回の「売ってナンボ買ってナンボ」も、主催者側の意図はどうあれ、何も知らない世間の人から見れば、違法な売買春行為を肯定・実践している人たちが、自分たちの行為を正当化、あるいは新規の客を勧誘するために「売ってナンボ買ってナンボ」というタイトルのイベントを開催している、と見なされる可能性は極めて高いと思います。

実際のイベントの内容、主催者の掲げている理念や目的がどうこうではなく、「社会通念上」という曖昧な根拠に基づき、タイトルと印象だけで全ての善悪が判断されるのが、この世界です。

10代の女の子とおしゃべりやゲームをするだけの店舗型リフレが「児童買春の温床」とされたり、現役女子高生が誰も働いていない業態が「JKビジネス」と一方的に名付けられて叩かれる。

風俗の歴史を少しでも知っている人であればお分かりの通り、これが風俗の世界の現実です。

◆2019年、緊張感の高まる大阪

そして警察や行政は、そうした世間の空気に合わせて動きます。

特に大阪は、2019年6月にG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)、同年9月にはラグビーワールドカップ2019、そして2025年に大阪万博の開催を控えて、警察や行政は総力を挙げて&その面子をかけて、違法営業風俗店の撲滅を含めた準備に取り組んでいます。

大阪府警本部の生活安全部保安課からは、地元のビルオーナーや不動産管理者に対して、実態を隠して違法営業を行う風俗店に対して物件を貸さないよう、及び違法風俗店が摘発された後のスケルトン化(内装や設備機器等をすべて撤去すること)を徹底することで、居抜き物件としての転貸を防ぐように注意が促されています。

G20サミットの警備ルートと重なっているエリアでは、違法な風俗店(店舗型のマンションエステ等)の摘発も既に行われています。

歴史をさかのぼると、90年の大阪花博では、府内のソープランドが一掃されました。今回も、同じ様なことが起こる可能性が大いにあります。

働く女性たちの間でも、警察に目を付けられないために、写メ日記やツイッターに露出度の高い写真を出すのを控えよう、本番行為を匂わせるような書き込みをするのをやめよう、という動きも起こっています。

そうした緊張感の漂っている大阪という土地で、「売ってナンボ買ってナンボ」が開催された場合、「違法な売買春行為を肯定・実践しているセックスワーカーと名乗る人たちが、自分たちの客を勧誘するためのイベントを大阪で開催している」・・・と世間や警察に受け取られる可能性は、決してゼロではないはずです。

売春防止法では、「人を売春の相手方になるように勧誘すること」「広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること」を禁止しています。

第六条 売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 売春の周旋をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者の処罰も、前項と同様とする。
一 人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。

自身がセックスワーカーであったことを公表している主催者が、「売ってナンボ買ってナンボ」というタイトルのリアルイベントを開催し、各地でチラシを配布したり、SNSで参加を呼びかけたりした場合、「売春の勧誘」と見なされて、そしてある種の「見せしめ」として警察に摘発されるリスクはゼロではないと思います。

◆「売春の非犯罪化」を実現するための戦略?

げいまきまき氏がメンバーとして参加している団体・SWASHは、長年「売春の非犯罪化」を主張しています。

SWASHが悲願である売春の非犯罪化を実現するための最もストレートな方法は、「実際にSWASHのメンバーが売春防止法違反で逮捕されること」です。その上で、法廷の場で売春防止法が憲法違反であることを主張して、勝てばいい。

もちろん、実現は非常に困難です。拙著『「身体を売る彼女たち」の事情』(ちくま新書)でも、売春防止法違反等で逮捕されたデリヘル店長が、売春防止法自体が憲法違反だとして最高裁に上告の手続きを取った話を掲載しています。結果は、あえなく棄却。彼は今も刑務所の中に入ったままです。

今回の「売ってナンボ買ってナンボ」も、SWASHメンバーのげいまきまき氏が人柱となって売春防止法違反で逮捕され、その上で法廷の場で売春防止法が憲法違反であることを争うために、あえて警察の目が厳しくなっている大阪という場所で挑発的なタイトルを掲げて、G20サミットとラグビーワールドカップの開催される2019年という時期に合わせて開催したのだろうか・・・とも思ったのですが、カウパー団のサイトを見る限り、そうした狙いは無いようです。

げいまきまき氏の認識によれば、日本の現代芸術や社会学がセックスワーカーを題材にし、その際に現実のセックスワーカーに対して配慮が無く問題化したケースが複数起こっており、それに対する問い直しとやり直しをしたい・・・という、なんだかよく分からない抽象的な理由です。

実際に裏事情を知っている人間からすると、「現実のセックスワーカーに対して配慮が無く問題化したケース」とされるうちのいくつかは、げいまきまき氏をはじめSWASH関係者が火の無いところに煙を立てて、Facebookやツイッター上で様々なデマや虚言を交えて無理矢理問題化「させた」事案なので、自作自演感=「自分たちの頭の中で作り出した敵を、自分たちで叩いているだけ」が否めないのですが、それは一応置いておきましょう。

⇒詳細は、完全解説『セックスワーク・スタディーズとは何だったのか?』をご覧ください。

◆大阪のセックスワーカーを危険に晒すイベント

風俗や売買春に対する警察の目が非常に厳しくなっている大阪という場所で、「違法な売春行為を実践・肯定している人たちが、自分たちの客を勧誘するために開催するイベント」と世間や警察に受け取られかねないタイトルを掲げて、2019年という時期に合わせて開催した理由は、少なくとも地元・大阪の風俗店で働くキャストさんや店長・スタッフ、そしてセックスワーカーのためではないことは確かです。

「売ってナンボ買ってナンボ」が実際に開催された場合、主催者であるげいまきまき氏が実際に売春防止法違反で摘発されるかどうかは、分かりません。

前述の通り、弁護士に聞いても「お墨付き」は得られず、所轄の警察署に問い合わせても、「売ってナンボ買ってナンボ」がセーフなのかアウトなのかは、はっきりと答えてくれないでしょう。

確実なのは、万が一「見せしめ」として警察に摘発された場合、あるいは悪い意味で「売ってナンボ買ってナンボ」が世間の話題になった場合、大阪の風俗店で働く当事者やセックスワーカーに確実に悪影響を与える、ということです。

それが口実として利用されて、地元の風俗店やセックスワーカーに対する一斉捜査や摘発が起こる可能性もあります。

これは、げいまきまき氏自身が「セックスワーカーに対して配慮が無く問題化したケースの共通点」として指摘している

・「他人のリスクを使う」(=自分たちの勝手な目的のために、大阪で働く当事者たちにリスクを押し付けている)

・「題材にはするが、事前のリサーチはしない」(=2019年の大阪の風俗業界が置かれている現状、当事者たちの思い、警察や行政の動きを全く理解していない)

・「セックスワーカーのリスクに直結している」(=結果として、大阪で働く当事者たちを危険に陥れている)

上記3点と、完全にリンクしています。

現代美術云々の前に、まず、げいまきまき氏自身のパフォーマー・活動家としての鈍感さ、セックスワークの現場に対する無知・無関心、大阪で働く当事者たちへの配慮の足りなさに対する問いなおし&やり直しを第一にすべきであることは、言うまでもありません。

「売ってナンボ買ってナンボ」が実践された場合、セックスワーカーの人権や権利、人命や個人の尊厳、職業の尊厳が侵害される可能性がある。

げいまきまき氏は、自分たちが「現実のセックスワーカーに対して配慮が無い」と判断したイベントを妨害・炎上させたこと(これ自体が違法=営業妨害や名誉棄損になる可能性もあると思いますが)を各所で自慢げに書いていますが、大阪で働く当事者たちを余計なリスクに晒しているのが自分自身に他ならないということを、残念ながら理解できないのでしょう。

げいまきまき氏が「売ってナンボ買ってナンボ」を通して大阪でやろうとしていることは、「展覧会のワークショップに『デリヘル嬢を呼ぶ』と公開した」人たちがやったことと、構造的には全く同じです。

本人に自覚が全くない分、そして自らがセックスワーカーだったということを主張の唯一の拠り所にしている分、よりたちが悪いかもしれませんが。

◆「伝える」イベントから「伝わる」イベントへ

風俗に関するリアルイベントは、ツイッター上のワラ人形叩きをオフラインでやる場でもなければ、パフォーマーや左翼活動家の玩具(オモチャ)でもありません。

リアルイベントは、「文化としての風俗」を確立する場です。

ここで大切なのは、「何が文化なのかは、お店でも、当事者でもなく、社会が決める」ということです。

自称当事者や自称アーティストが、いくら声高に「これは文化なの!」「アートなのだ!」と主張したところで、世間は一切聞く耳を持ってくれません。

私は現在、仕事で定期的に大阪に通っています。

先日、大阪のある風俗街の経営者とお話した際に「私は風俗は文化だと考えている。しかし、何が文化なのかを決めるのは、地域であり、社会である。だからこそ、私たちは地域や社会とコミュニケーションをとっていかなければいけない」というお言葉を聴きました。

個人的に、2018年で一番感銘を受けた言葉でした。

実際に大阪で長年営業・勤務している当事者の方々が考えていることは、げいまきまき氏の唱える「n=1(げいまきまき)」のセックスワーク論とは、180度異なるものです。

何が文化なのかを決めるのは、あくまで地域であり社会。

だとすれば、私たちがやるべきことは、独りよがりの正義を開陳することや、頭の中で作り上げた仮想敵を叩くためにリアルイベントを利用することではない。

法的リスクを伴うようなセンセーショナルなタイトルをつけて、世間の注目を不用意に集めて、当事者を危険に晒すことでもない。

当事者も非当事者も含めて、社会で暮らしている市井の人たちに伝わるようなやり方、理解してもらえるようなやり方で、丁寧にイベントを開催していく必要がある。

当事者原理主義の人たちは、「当事者に対して、非当事者や社会におもねった言動を要求すること自体が当事者への差別・抑圧である」と主張する傾向にありますが、そうした観念的な議論をいくら繰り返していても、社会は1ミリも動きません。

これからのリアルイベントのキーワードは、「伝える」イベントではなく、「伝わる」イベントです。

ほとんどの人が理解も共感もできないような、自分たちだけの正義やらイデオロギーやらを一方的に「伝える」場ではなく、きちんと社会に響く・届く言葉を使って、個人に「伝わる」場を作ること。

リアルイベントの文化が地域や社会に根付いていけるよう、そして文化としての風俗が社会的に「公認」とまではいかなくても「否認」されずに「容認」されるレベルには持って行けるように、私もセックスワークサミットというリアルイベントを長年主宰している人間として、微力ながら努力していきたいと考えております。


PS:げいまきまき氏は、『セックスワーク・スタディーズ』(SWASH編・日本評論社)の中で、「批判や抗議は、攻撃ではなく『ツッコミ』です」と述べています。

現実の社会で何かを発表する以上、様々な人たちから「その見方はおかしい」「それは私たちの現実に即していない」といったツッコミを入れられることは免れない。

だからこそ、一つ一つに誠実に向き合うことで、多様な当事者が置き去りにされない社会に近づいていく・・・そう、げいまきまき氏は語っています。

げいまきまき氏が、これから各方面から寄せられるであろう「売ってナンボ買ってナンボ」に対する「ツッコミ」に、どこまで誠実に答えられるか。

他人や他団体のイベントにツッコミを入れることには熱心でも、自分たちのイベントにツッコミを入れられた途端、「攻撃だ!」「印象操作だ!」「脅しだ!」「アウティングだ!」「訴訟恫喝だ!」と都合よく「かわいそうな被害者」へと豹変する活動家はセックスワーク界隈では散見されますが、果たして、げいまきまき氏はどう対応されるのか。

まさに「女優パフォーマー元セックスワーカー」とやらの腕の見せ所だと思いますので、楽しみに拝見したいと思います。

*追記(2019年1月20日)

本稿に関して、げいまきまき氏に対しては、ツイッター経由で「私の意見に対して異論・反論があれば、カウパー団の公式サイトに掲載してほしい」と伝えました。

2019年1月23日時点で、げいまきまき氏からは何の反論も届いておらず、カウパー団のサイトにも何も掲載されていません。

助成元のおおさか創造千島財団事務局に問い合わせたところ、

企画のタイトルは「売ってナンボ買ってナンボ~セックスワークを巡って~」から「Have a nice day! Sex worker」に変更になったと聞いております。

とのご回答を頂きました。

*ちなみに、同財団の2018年度創造活動助成活動一覧のページにおいては、「売ってナンボ買ってナンボ ~セックスワークを巡って~」というタイトルが依然としてそのまま掲載されています。(2019年1月23日現在)

「売春防止法違反では」「大阪で働く当事者たちを危険に晒す可能性があるのでは」「セックスワーカーに対する配慮が欠如しているのは、他でもないげいまきまき氏自身では」というイベントの根幹にかかわる指摘・批判を受けた際に、何の回答も反論もせずに、しれっとタイトルだけを変えて、説明責任を果たさずに逃げる。

まさに、「他人のリスクを使う」「題材にはするが、事前のリサーチはしない」「セックスワーカーのリスクに直結している」という、本稿で指摘した通りの立ち振る舞いを繰り返したわけですね。

「反論も説明もせずにタイトルを変えた」ということは、

1.売春防止法違反になる可能性があることを、そもそも知らなかった

2.売春防止法違反になる可能性があることを知っていたが、自分自身が通報・摘発される覚悟までは無かった

いずれかになると思いますが、どちらの場合でも、げいまきまき氏にコンプライアンス(法令順守)意識が完全に欠如していることは明らかです。

げいまきまき氏に関しては、以前からSWASH要友紀子氏が弊社の出版記念講演を盗撮した動画、NPO法人ノアール理事長の熊篠慶彦被告が弊社の研修を盗撮した動画などを熱心にツイッターで拡散していた「前科」があるので、コンプライアンスに関しては、本当に何も知らないのでしょう。

そして仮にタイトルを変えたとしても、コンプライアンス意識の欠如した「女優パフォーマー元セックスワーカー」とやらが、地元の業界全体がコンプライアンスに敏感になっている2019年の大阪で、世間から違法な売買春行為を肯定・推奨していると受け取られかねないイベントを開こうとしている、という事実には変わりありません。

引き続き、動向を注視していきたいと思います。

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