「指の綾子」考 #春ピリカ応募
昔書いた掌編小説で「指の綾子」という話がある。題名は覚えているのだが、内容をさっぱり思い出せない。「綾子」というのは、当時私の勤めていた食品工場の同僚の名前である。彼女は撹拌機に巻き込まれ、指だけを残してその他の体を粉々に砕かれた。親しい同僚の凄惨な最期を見た私は気が動転してしまい、綾子の指を隠し持って早退した。
その後医療の進歩と世界的な倫理観の崩壊と私の借金と引き換えに、指だけの綾子は培養技術により全身を復活させ、私の妻として家にいる。「事故」「工場」「切断」といっ