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PRの仕事が天職だと思うんです。

「まだ新卒なのに、よくそんな自信を持って言えるなって思ったよ。それで、俺はそうじゃないなーってずっと思ってた」

私のOJTを担当してくれていた先輩が退職する時に言いました。

というのも、

「PRの仕事が天職だと思うんです」

私は覚えていないのですが、先輩との雑談で、厚かましくもそんなことを口走ったのだそうです。
いや、どういう流れでそんなこと言ったんだ、私。

おそらく新卒1,2年目くらいの頃だったと思います。
まだがむしゃらに、提示された目標を達成するために頑張るしかなくて、PRのいろはも大してわかっていませんでした。

今だって、天職だなんて言えるほどの実績があるかと問われれば尻込みしてしまうし、社交性も低くて関係値を築くのに時間がかかるし、いわゆる世の中の人が抱くPR職のお手本になれている自信はありません。

それでも、この世界にPRという仕事があってよかったと思うことが何度もあって、飽きっぽい私がPRという職種から離れることなく10年以上のPRのキャリアを歩んできました。

コミュニケーションの世界の最前線にいたいんです。

大学でコミュニケーション学を学び、PR会社を片っ端から受けていた私は、企業選びの軸として「コミュニケーションの世界の最前線にいたい」と答えていました。

周りからは「それ、本当に思ってることなの?浅いんじゃない?」と言われました。
私も言われてみるとそんな気もして、安易かなーと思いました。

コミュニケーションを学んでるって言ったって所詮大学のゼミレベル。ちょっと専門書を読んで、「大学デビューという現象」とかいう大変ふざけたテーマで中途半端な卒論を書いたくらいです。

けれど実際にその業界に身を浸してみて、本当にその軸はブレてないなと感じます。

PR会社にいた時にも何度も思いました。

特に思い出すのは日本最大級のリアルクローズファッションイベントのPRを担当した時のこと。

この仕事がもうつらいのなんのって。
下っ端でもイベント一週間前からは毎日終電では帰れず、イベント当日のバックヤードは怒声が飛び交う壮絶な現場。キラキラした背の高いモデルさんたちに囲まれながら、ボロボロのスーツ姿でインカムをつけて駆け回る私は薄汚いコロボックルのようでした。

しかしながら、告知から当日の情報発信、そして実際のイベントの露出までの一連のコミュニケーションを全て目の当たりにして、流行がつくられていく過程や、立ち見席に前日から並ぶくらい女の子たちが熱狂する姿を見て、私はコミュニケーションの最先端にいたんだなと実感しました。

大した仕事は任されなかったけど、イベントの翌日、実家で母が用意してくれていたお味噌汁を飲んだら、涙が止まらなくなりました。

疲労と安心と感動とで頭がぐちゃぐちゃで、なんで泣いているのか全然わからなかったけど、この仕事をしなかったら、こんな世界は知らなかったんだなーとしみじみ思いました。

このイベントは全部で4回ほど担当しましたが、毎回生活の全てが崩壊するような激しさで、関わるたびにもう二度とやりたくないとも思いました。
先輩たちは2回目から、いろいろ理由をつけてメイン担当を外れていきました。

取り残された私は新卒2年目で200名のメディアが集まるイベントのメインのメディアリレーション担当になり、テレビもファッション誌も掲載を取りまくりました。

あんなにつらいのに、悔しいことに毎回、感動するんですよね。
人の心を動かすムーブメントの産みの苦しみと喜びが詰まっていて。広告、広報、メディア露出、SNSなどコミュニケーションメディアの全てが組み合わさって相乗効果が発揮されていくのは、語彙力を失うすごさなんです。

今の私の体力ではあのイベントは乗り切れないけれど、未だに同じような体験をするたびに、就活の時に私が話していたことは、あの頃は浅かったかもしれないけれど、変わらぬ軸として存在するなと思うのでした。

日本一や世界初でなくても誇りを持ってほしいから

数ヶ月先の新製品の発表に向けて今まさに準備が進んでいる中、代理店に言われました。

「この製品は尖った特長がないので製品軸で、テレビ露出をとるのはかなり難しいですよね。そこにチャレンジするには企業の見せ方をどうするか、あるいは出目が理想的でないことについて、社内を説得する必要も出てくると思います。その点についてどう考えてますか?」

まるで試すような質問です。

「もちろんわかっています。でも、だからといって諦めたくはないんです。ものづくりの現場にいるメンバーに日本一や世界初じゃなくても、自分たちの生み出した製品に誇りを持ってほしいからです。」

気付いたら語り出していました。

「もっと尖ったものの方が良いんじゃないかと、エンジニアは今なお葛藤していると思います。そんな中でも目指すコンセプトの実現のために、チーム一丸となり、ベストを尽くしてきました。それがつまんない製品だね、となるか、すばらしい製品だね、となるかは、伝え方によるところが大きいんじゃないでしょうか。
PRするには難しい製品なのは理解していますが、ここで私たちががんばることによって、さらにその先の良いものづくりにつなげていけると思うんです。だから、ぜひご協力お願いします。」

そんなようなことを熱く語った後にふと我に帰りました。何を話し出してるんだ、私は、と。
自分でもこんな言葉が溢れてくることに、驚いていました。

しばしの沈黙の後、代理店の担当者は言いました。

「そう言っていただけるなら心強いです。時に困難な調整もあるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう。」

オンラインの画面越しながら、少しだけ通じ合えたような感覚がありました。

そしてまた、思うのです。

私はPRのチカラを信じているんだなーと。そして、こんなに自然と語り出してしまうくらいにはこの仕事の意義を感じているんだと。

天職っていうと、その領域の仕事において才能を発揮し、突出した成果を出せるようなイメージがあります。

けれど、その仕事にはからずも心を動かされたり、思わず熱い気持ちが溢れてきたりするだけでも、天職って言ってもいいんじゃないかなと思います。

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