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【No.4】ボウモア ダーケスト旧ボトル(1990年代流通)

オフフレーバーという言葉があります。
一言で表すならば飲食物における《違和感のある香味 》というもので、飲食物ならば大抵、有り得るものです。
特にビール・ワイン・ウイスキー等の酒類、煙草や葉巻等、香味を楽しむことが主である嗜好品ではよく聞かれます。

その中でウイスキーにおけるオフフレーバーは製造工程の段階で発生するものと、リリース後の保存・管理状態によって発生するものと、言わば先天性・後天性の2つに分けられます。オフフレーバーの代表的な例をいくつか挙げると・・・

・サルファリー(火薬や硫黄)
・パフューム(化粧香、フローラル、石鹸)
・こもりやヒネ(古い書物や濡れた布巾、加齢臭とも)
・コルク臭(コルク、渋みやネガティブなウッディ)
・プラスチック臭(溶剤、ケミカル)
・金属臭(金属、錆、硬貨)

今回はその中で、あえてネガティブなイメージの強いパフューミーなボウモアをテイスティングしてみました。
なお、その原因(当時のコンデンサーの使用方法?)や歴史については、研究書のような先達の方々が数多くいらっしゃるので、こちらでは割愛させていただきます。

ボウモア ダーケスト 43.0% (1990年代流通)

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【スペックおよび概要】

日時(Date):2019/11/27 16:58
場所(Place):お酒の美術館 神田店
銘柄(Brand):ボウモア ダーケスト(1990年代流通)
ボトル種別:オフィシャル
蒸留/瓶詰/熟成年(Distilled/Bottled/Age):NAS(熟成は15年?)
樽種別(CaskType):バーボン&シェリー
度数(Strength):43%
種別/国(Category):シングルモルト・スコットランド(アイラ)
所有会社(Owner Company):モリソン・ボウモア社
ボトル残量:20%ほど

【プロフィール(Profile)】

色調(Color):Clear(0)~Dark(10) 
甘味(Sweetness):Dry(0)~Sweet(10) 
ピート(Peat):None(0)~Heavily(10) 
ボディ(Body):Light(0)~Heavy(10) 
バランス(Balance):Bad(0)~Good(10) 

【香り(Aroma)】

雨が降った後の磯・フローラル・レモン石鹸・海水を含んだ黒土・ややコショウ・火薬のヒント・汚れた暗い海辺

【味わい(Flavor)】

ラベンダー・手を洗った後の石鹸水・青竹・溶けたプラスチック・徐々に主張が強くなる香水・人工甘味料にケミカルな苦み・濡れた藁半紙・塩キャラメル

【余韻(Finish)】

舌にべた付く甘さ・人工甘味料に漬けたジンジャーシロップ・余韻は長く、喉から立ち上る石鹸

【総合評価(Total)】

色々な意味で「ダーケスト」の名の通り、暗澹たる磯を思わせる。パフュームの中にシェリーのネガティブ要素も重なっているボウモア。

42/100


最初にお断り申し上げますと、こちらはオールドボトルを多く取り扱う「お酒の美術館」のマスターに「今ある中で一番、パフューミーなものをください」とあえてオーダーした上でのテイスティングですので、ご承知おきください。

また、このウイスキーノートのルールのひとつであり、最優先項目の「楽しむ」に従い、こちらを「不味い」と断じたり、徒に貶めたりする意図はないことはご理解ください。


樽はバーボン樽に12年・シェリーに3年の後熟。
「ダーケスト」というシリーズ自体は現在も販売されておりますが、所謂パフューム香がするのはこの年代のボウモアです。
ボウモアでは免税店向けに「ブラックロック」というシリーズがありますが、ある意味こちらの方がブラックでは・・・と、ボウモア社の苦難の歴史を彷彿とさせます。

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シェリー樽による後熟をしておりますが、こちらがあまり良い方向に働いていない、もしくは良さが石鹸で消えてしまっているようです。
シェリー樽による、ポジティブなコーヒー・チョコレートやベリー系の香味は抑えられ、ネガティブな火薬やコショウの香りと、余韻に残るべた付く甘さはシェリーの効果なのではと考えてしまいます。

個人的に興味深いと思ったのが、少し前に台湾のボトラーズであるウイスキーファインドよりリリースされていた、ソーピーを売りにしたボウモアとの違いです。こちらは公式のテイスティングコメント発表時に、ウイスキー界隈が少しざわついた事は記憶に新しいです。

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ボウモア 1985 33年 46.8% コニャックカスクフィニッシュ / 三国志 「小喬」
※赤坂「バーエスパスラシュラン (Bar Espace Rassurants)」様にていただきました。以下、テイスティングコメントは公式からの転載です。

【香り】:ソーピー、ハニー、フローラル、潮風、ピート、ブドウ、バター、トフィー、ウッディ、バニラ、アップルパイ、プロポリス、キャラメル
【味わい】:パッションフルーツ、ネクター、プロポリス、ラム、マーマレード、リンドウ、燻製ハム、エレガント、非常に上品なソーピー、ほのかに潮風
【フィニッシュ】: ブドウ、ウッディ、ソーピー、蘭

【香り】
【味わい】
【フィニッシュ】
そのいずれもソーピーを大々的に謳っております
まさしくソーピーのジェットストリームアタック

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こいつぁ連邦の新型でも苦戦するぜ・・・と冗談はさておき、こちらのテイスティングコメントにある「非常に上品なソーピー」の意味が両者を比較すると浮き彫りになった気がします。

「ダーケスト」も強い石鹸の香味を感じるものの、それと同時に暗さと湿度・・・心象風景としては雨が降った後、まだ灰色の雲が残る磯の湿度と潮気を感じました。その中での石鹸はまるでシーズンオフの寂れた海の家のシャワールームのよう。

それに対し「小喬」ボウモアはこのラベルの印象に引っ張られている気もしますが、潮の要素よりも、所謂パフューム(石鹸・香水・化粧品)が主体で、女性の化粧箱を思わせるものでした。またコニャック樽の影響か葡萄やジャムのようなフルーツのニュアンスもあり、とても面白いボトルです。(買いますか?と尋ねられたら静かに首を横に振りますが)

結論、同じパフューム・ソーピーでもこうした違いがあるというのは実にユニークな体験でして、これからも機会があれば、こうしたものも試していきたいと思いました。

また、あるインポーターの方から伺うと日本では抵抗感の強いパフュームも、欧米ではあまりネガティブには捉えられておらず、かつ現在はリリースすることが至難の香味ですので、熱狂的なファンが一定数いらっしゃるとのことです。(勝手なイメージですが、欧米は香水・香料が日本よりも一般的に使用されていますので、この辺りの事情もあるのかと)

その人気については、かつて以下のような「パフューム」を売りにしたボトラーズがあったことからもうかがえます。

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温故知新とはまた違うかもしれませんが、あえてネガティブな評価を受けているボトルのテイスティングも面白いと思います。これもまた嗜好品の楽しみ方のひとつなので・・・。


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