思考の補助線 ~芸人岡村の発言の問題点について考える~

 芸人である岡村隆史がラジオで行った問題発言が炎上していますが、ニュースメディアの取り上げ方があまりに軽いのでちょっと掘り下げて書いてみたいと思います。

1.まず最初の問題点は「本人の意に添わぬ労働の肯定」
 彼の発言からすれば、「本来風俗で働く事のないはずの人たちが働かざるを得ない状況」が来る事を予見し、それを危惧するどころか楽しみにしている旨を発言したわけです。
 これは言わば「お金のない女性が仕方なしに体を売る」という事を肯定し、あまつさえその利益を享受しようと考えていることになります。
 沖縄でもこの手の問題はかなり大きく、貧困の問題とセットになっていることからも早急な対策が求められています。特に良かれと思って打った対策が裏目に出て更に当事者を追い込んだ事もあり、上辺だけでなく抜本的な対策が求められているわけです。
 そして、この問題は何も沖縄だけでなくて全国各地に多かれ少なかれあるもので、たまたま沖縄が早く認知されるようになっただけで特有の問題という訳では無い筈です。
 今回のCOVID-19関連の影響は得てしてそんな状況に追い込まれる人を生み出しやすく、被害者を一人でも減らすことを考えなければいけないときにむしろそれを期待している事を、悪気も無く発言したのですから救いようがありません。

2.次に問題なのは「女性蔑視」と「弱者からの搾取」の肯定
 金銭の為に本人の意思に沿わない形で風俗で働くというのは100%女性だけという訳では無いでしょうが、やはり圧倒的多数なのは女性な訳です。
 特に今回の発言は明らかに女性に対象を絞った発言であり、その事を期待している時点で女性がそのような境遇に追い込まれること自体に全然忌避感を持っていないことがうかがえます。
 これは明らかに女性の尊厳を無視した考えで、女性蔑視的な考えを持っていると捉えられても仕方ありません。
 本人はそこまで考えて言った訳じゃなくて軽く考えて発言してしまったと言うかもしれませんが、それならばむしろ女性蔑視的な考えを持っていることに無自覚であるという事であり、余計に救いがありません。
 また、発言の趣旨からすれば女性が本人の意思ではない形で風俗で働かざるを得ないだけでなく、更に低賃金でという条件もついているような発言なので、弱い境遇に追い込まれた人から搾取する事にも全く忌避感を持っていない(むしろそれが嬉しい)のでしょう。
 単純な格差社会の現れなんて生易しいものでは無く、「強者が弱者から搾取できる」事を喜んでいるという非常にグロテスクな発言であり、しかも恐らくそのことに対して無自覚という事が更に恐ろしい訳です。

3.それらの思想の行く末
 結局これらの考え方、思想の行きつく先は「奴隷制度の肯定」なのです。奴隷なんて言うとぎょっとする人もいるでしょうし、いくら何でも仰々しくとらえ過ぎじゃないかと思う人もいるのかもしれません。
 ですがそんなことは全くなく、むしろ今日での奴隷問題(人身売買あるいは人身取引の犠牲者)は労働の延長線上にある問題だと考えられています。
 ここからは普通の労働、ここからは奴隷等と奇麗に線を引けるものでは無く、様々な濃淡を持って「奴隷的な働かされ方」をしている人が多くいます。
 それらの人々をいかにして救うのか、多くの人がそこに陥らないためにはどうすれば良いのか、という事が今なお国際的に重要な問題の一つであり、それはどんな国だろうと例外では無いのです。
 今回のケースで考えれば、金銭的に困窮している人が風俗で働かざるを得ないという状況を考えてみても、「借金あるいは一定期間の拘束契約が実質的な拘束力の中心をなしている」とされる身売りと明らかに類似性のあるケースです。
 この状況そのものを奴隷制度あるいは人身取引とまで定義できるとは言いませんが、一般的な労働よりも遥かに「奴隷的な労働」に寄ったケースであると言える筈です。

 以上、大まかに分けて3つの視点から今回の問題について考えてみました。
 私の考え方が正しいだとか唯一の正解だなんていうつもりはありません。ですが、こういった考えを持つ人がどのように危険なのか、そして自分もそういった考えをしてしまわないかという事を考えてほしいです。
 私自身、本当に心の底から「清く正しい」考え方を出来ているかは分かりません。もしかしたら、彼とは大差のない醜い本音が隠れているのかもしれません。
 ですが、そういった醜さを持っている事を自覚し、本心で無かったとしてもそれを理性で律する事、そしてその理性をどんな状況に置かれても保てることこそがその人の人間性なのだと思うのです。


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