輝きだして走ってく

真空のような4分30秒だった。

私はポジティブなことを言われるのがそんなに好きじゃない。きれいごとに聞こえちゃうから。そんなにうまくいかないよって思っちゃうから。
「愛のある時代だ」と叫ばれるより、せめて「愛なき時代に生まれたわけじゃない」と歌ってもらうほうが楽。「日々は希望にあふれています」と励まされるより、むしろ「きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思います」と知らされるほうが、ずっと安心する。

でもサンボマスターだけは違う。あの人たちは絶対嘘をつかない。きれいごとなんて言わない。サンボマスターには、そうやって信じさせてくれる本当がある。

「輝きだして走ってく」は、ずっと私のファイトソングだ。つらい時だけじゃなくて幸せな時も、いつもいつも聞いてきた。
痛みと悲しみを歯をくいしばって抱きしめるキミにだけ起こせる奇跡がある。キミだけの花よ咲け。くじけないで笑っておくれ。負けないでキミの心。自分を責めないで。キミこそ待ち望んだ人だから。
こんなにまっすぐ過ぎる言葉たちを、山口さんの歌声にまかせて、私も一生懸命、まっすぐ自分に言い聞かせてきた。
いつかホンモノを目の前で聞いたら、どうなっちゃうんだろうと思っていた。

ホンモノを、目の前で、聞いた。

今日のライブで歌ってくれるといいな。叶ってほしいけど叶わないかも知れない告白みたいな気持ちで願っていた。だから、演奏が始まった時、嘘かと思った。

いっぱいのお客さんも、ライブハウスの騒音も、もちろんそのままだった。でも、まっすぐにまっすぐに、私にも届いてきた。
一言ずつの歌詞に頷きながら聞いた。ずっと聞いてきた言葉たちが目の前で進んでいった。4分30秒って本当にすぐ終わっちゃうんだ。目の前にホンモノがあることを捉えるだけで、せいいっぱいだった。

これまで、色んな道で色んなことを思い浮かべながらこの曲を聞いてきた。耳だけで聞いてきた。だからこの曲には、色んな景色があった。
でもこの日、私のなかの「輝きだして走ってく」を、ホンモノが塗り替えた。ホールの3階までまっすぐに届けてくれた「輝きだして走ってく」。
ずっとお世話になってきた曲は、目の前で、これまでよりもっと、大きな大きな大丈夫をくれた気がした。

人間が、心なんかに負けるかよ。

この世で一番好きな台詞だ。とってもシリアルな戯曲のキーシーンの台詞。シリアルだからこそ、真の意味が浮き上がるものだと思っていた。
でも、改めて「輝きだして走ってく」の歌詞を読んでいて気付いた。サンボマスターだって、ずっとずっと言ってくれていたことだった。

ポジティブがどうだとか、関係ないのかも知れない。
言葉ってやっぱり、本当かどうかだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?