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ダンゴムシは丸まる間もなく

中央線に乗った。日曜お昼、あせらなくても座れるくらい空いていた。 私の席の足もとに、ダンゴムシがいた。虫は決して得意じゃない。席を変えたが、また自分の方に寄ってきた。そんなことはよくあるけど、お前またこっち来たんか、くらいには心を通わせた。 中野駅に着いた。電車の扉が開いた。何組かが降りて、何組かが乗ってきた。目を離したその十秒のうちに、ダンゴムシは動かなくなっていた。踏まれたっぽかった。 思わず目を逸らせずにいると、また踏まれて、今度は原型を留めない、ただの濃い灰色の汚

    • 書きたいことのメモ

      書きたいことずっといっぱいあるんだけど全然時間なくて、ちゃんと書くぞのメモ ・ボクシングと職能 ・ザ・ホエール ・おばあちゃん一周忌とボタンの星 ・体がどんどん弱くなっていく ・スカートのライブに行った ・終わってしまうものが怖いこととそのブーメラン性、花と犬

      • まだ予告編な今のうち

        自分のプロフィールの中で、生年月日が、一番好きです。 3月末生まれ。早生まれ中の早生まれ。自分のプロフィールの中で唯一、圧倒的にかわいい。 そういう私はもうすぐ30歳になる。早生まれでよかったなと思うのは別に人より遅く歳を迎えるからじゃない。早く歳を迎えた人から色んな話を聞けるから。どうしたって意識する30歳を、おかげさまで、かなり満を辞した気持ちで迎えられそう。 30歳になるその日とか、直前とか直後とか、そういう日に書くと肩肘を張るので、ギリ何でもないうちに思ったことを書

        • おやすみレビュー

          長いお休みが終わる。終わっちゃう。 こんなモラトリアムきっともう二度とないんだろうな。ありがたいねぇ〜。 やりたいことだけ決めて、どう過ごそうとかそういうのは何にも決めなかった。やりたいことをして、それ以外は何にもしなくて、いっぱい寝ていろんなこと考えて、そういう過ごし方はとってもよかった。何というか、自分を確かめられた。いいことも悪いことも、多分私はこうでしかないんだなって、その領域がよく分かった気がした。 毎日いろんな人と話した。働いてた時よりも人と会ったんじゃないか

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          7月11日のメモ

          昨年めちゃめちゃ苦しんでた時のメモが出てきた。 苦しみ過ぎててちょうかわいそう! 分からないことの数がここ数日で一気に膨れあがった。困った。 違和感を感じるのは当たり前だし正しい感情だけど、どうしてそうなっているのかが分からなくて、だって今まではだいたいは分かってたから、それがつらい。 どんなことがあっても明日はなるべく変わらずに生きていかなきゃいけないのは分かる。でも。その明日ってどんな意味があるんだろう。何のためなんだろう。自分じゃなかったからよかった明日なのかな。受

          7月11日のメモ

          鴨、上総介

          「鎌倉殿の13人」見終わっちゃった。 完璧だった。笑うとか泣くとかが全部詰まったその先の、脳みそがぐつぐつする面白さだった。面白いって本当はどういうことだったか思い出した。全然忘れてたじゃんって思った。最高〜。 三谷幸喜さん。最初に見たのは「古畑任三郎」だけど、私にはっきりと渦を作ってくれたのは「新選組!」。小学5年生だった。 終わってからもずっと好きで、東大入れたら「新選組!」のDVDBOX買ってあげるねって中学生の時母親が約束してくれた。東大には入れなかったから、社会人

          鴨、上総介

          あしたは正月

          いい年にしような、って毎年、とりわけ親しい人たちとだけ約束する。 おかげさまで今年もいい年でした。ていうかすごい年だった。もう二度は繰り返さなくていいくらい。わはは。 いろーんなことがあった。毎日けっこうがんばった。 決める。選ぶ。あきらめる。許す。飛びこむ。変える。いざなう。捨てる。毎日そんなことばっかり。そんなことにはいつも、考えるとか迷うとかもっと大変なことが付きまとうし。毎日たくさん心をつかった。がんばるって、大変って、体とか頭とかだけじゃなくて、心をつかうことなん

          あしたは正月

          夢の振り出し

          コントの批評家になった。 っていうのはすごく盛っていて、盛らないで言うと、ちょっと前にはじめて書いた批評が、先日ちゃんと掲載されたよわーい、です。 何でも言葉にしてる。誰かに話すためじゃなくて自分の頭を整えるために。気持ち悪い時吐いちゃえば楽になるみたいに、頭が気持ち悪い時は全部言葉にして吐いてる。そうするとちゃんと楽になるから、吐くっていうエグい言葉を充てがうのもあながち正しいのだと思う。 エグい理由だけど、だから、思ったことを言葉にするのは慣れている。 でも批評を書く

          夢の振り出し

          神様に問い合わせる

          ファンシーなタイトルだけど、とても最低なことを書きます。 もうすぐ会社を退社する。この会社で私は、神様と知り合った。 神様はお友だちではないので、お話しするのは本当に行き詰まった時だけ。 進路に迷った時。板挟みでがんじがらめになった時。仕事全然関係ないけど、とある通り魔の供述に心を引っ張られ過ぎてどうしようもなくなった時。 突然の取り留めない超長文に、神様はいつでもすべて知っていたようすで、私が言われたかったこと、聞いてほしかったことを、すっと差し出してくれる。 退社にあ

          神様に問い合わせる

          ずっと分かりたかったこと

          コントを見るのが好きです。 映画もドラマも演劇もラジオも小説も漫画も音楽も好きだけど、漫才も好きだけど、だけどいまはやっぱり、コントを見られるのが一番うれしい。 「どうしてコントのほうが好きなの?」ってよく聞かれる。M-1は見るけどキングオブコントは見ないんだよねって人は多い。私は本当は、面白いものだったらコントでも漫才でも(演劇でも映像でももっと他のものでも)何だって好きなのだけど、でもたしかに、どうしてコントが一番うれしいんだろう、と思う。 物語が好きだからとか、演技が

          ずっと分かりたかったこと

          輝きだして走ってく

          真空のような4分30秒だった。 私はポジティブなことを言われるのがそんなに好きじゃない。きれいごとに聞こえちゃうから。そんなにうまくいかないよって思っちゃうから。 「愛のある時代だ」と叫ばれるより、せめて「愛なき時代に生まれたわけじゃない」と歌ってもらうほうが楽。「日々は希望にあふれています」と励まされるより、むしろ「きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思います」と知らされるほうが、ずっと安心する。 でもサンボマスターだけは違う。あの人たちは絶対嘘を

          輝きだして走ってく

          平倉さん

          たぶん私は、新幹線と相性がよくない。飛行機とよりも断然よくない。 たとえば、おばあちゃんのお通夜へ向かう東海道新幹線。のぞみとこだまを乗り間違えたことがある。人生でも指折りのしめやかなシーンで、優雅に小田原や熱海に停まっていた。 はなちゃんもそんな間違いするんやね、と岐阜のおじちゃんたちは笑ってくれたけど、はなちゃんはそんな間違いばかりだ。てかあれまだ半年前なのか。 新幹線とは、その後も順調に相性がよくない。 その日、私は遅刻していた。29歳にもなって、家に携帯を忘れて

          平倉さん

          20221111

          一応の、最終出勤日。

          有料
          10,000

          発券とマラソン

          私は週に一度以上観劇をする、観劇人間だ。 すべての観劇にはチケットが伴う。そしてほぼすべてのチケットには発券が伴う。そのため私はチケット人間であり、発券人間でもある。 発券人間には、公演直前まで発券しないという矜持がある。以前かなり高価なチケットをなくしたことがあるから。 2018年、ポールマッカートニー来日公演。¥18,500のチケットを2枚。全く別の公演のチケットと一緒に発券して、そっちの会場に置いてきてしまった。 当選メールも座席の分かるチケットページもあったけど、問

          発券とマラソン

          雨の日のドミノピザ

          近所の国道沿いにドミノピザがある。 雨の日、坂を下っていたら、両手にドミノピザ2枚を下げたおじさんとすれ違った。 雨の日のピザなんて秒速3℃で冷める。伸びられない未来を憂いてチーズが泣いてる。ピザとかポテトとかを見ると冷めることばかり考えてしまう。私はそういう冷めた人間。 でも、おじさんが下げていたその日のドミノピザはとてもキラキラして見えた。 たぶん。 おじさんはお父さん。 家にはドミノピザを待ってる小学生くらいの兄弟がいる。 ママ今日夜ごはんなに? 雨だし面倒だからピ

          雨の日のドミノピザ

          真ん中の人

          ブルーノマーズのライブに連れていってもらった。 10年来の友達がブルーノのTOで、存在はずいぶん前から知っていた。でもこれまで、ブルーノマーズ、と検索したことすらなかった。 私にとってブルーノマーズは割と声に出したいタイプのカタカナで、そして「とにかくすごいらしい」というだけの人だった。 ライブに連れていってもらうことになったと伝えると、TOの粋な計らいですぐにプレイリストが届いた。 検索したことのない人の曲を、私は6曲も知っていた。これって本当にすごいこと。きっとライブ

          真ん中の人