ダンゴムシは丸まる間もなく


中央線に乗った。日曜お昼、あせらなくても座れるくらい空いていた。

私の席の足もとに、ダンゴムシがいた。虫は決して得意じゃない。席を変えたが、また自分の方に寄ってきた。そんなことはよくあるけど、お前またこっち来たんか、くらいには心を通わせた。

中野駅に着いた。電車の扉が開いた。何組かが降りて、何組かが乗ってきた。目を離したその十秒のうちに、ダンゴムシは動かなくなっていた。踏まれたっぽかった。
思わず目を逸らせずにいると、また踏まれて、今度は原型を留めない、ただの濃い灰色の汚れになった。

私の心はそんなことでいちいちクヨクヨしない。でも何となくそのまま、その汚れから目を逸らせなくなってしまった。

三鷹駅に着いた。終点まで乗ってしまった。
濃い灰色の汚れは、その間に三度は踏まれて擦れて伸びて、いよいよ元に命があったはずなんてないくらい、ただの汚れになっていた。

三鷹駅のホームから見えるオオゼキは、遠くからでも分かるほど賑わっていた。日曜の食卓まであと3時間。
そういえば、目的地は新宿だったんだった。

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