鴨、上総介

「鎌倉殿の13人」見終わっちゃった。
完璧だった。笑うとか泣くとかが全部詰まったその先の、脳みそがぐつぐつする面白さだった。面白いって本当はどういうことだったか思い出した。全然忘れてたじゃんって思った。最高〜。

三谷幸喜さん。最初に見たのは「古畑任三郎」だけど、私にはっきりと渦を作ってくれたのは「新選組!」。小学5年生だった。
終わってからもずっと好きで、東大入れたら「新選組!」のDVDBOX買ってあげるねって中学生の時母親が約束してくれた。東大には入れなかったから、社会人になって2回目のボーナスで自力で手に入れた。

小学生の記憶力って本当にすごくて、好きだった台詞とか印象的だった表情とか、今でもそのまま焼き付いている。その焼き付いている「新選組!」たちを、私は「鎌倉殿の13人」の中に何度も見つけた。

上総介広常。「鎌倉殿の13人」の第15話で殺される。
荒々しくて乱暴で、学がないから字も書けない。だけど勘はよくて、人を信じさせる奥行きがある。役者は佐藤浩市。佐藤浩市は「新選組!」にも出演していて、芹沢鴨という超厄介な浪士を演じていた。

上総介は斬られる最期の瞬間、あまりに悔しそうな、だけど全てを悟っていたような顔をした。翻ってその直前には、書き文字の練習をしながら、これまで見せなかった無邪気で活き活きした顔を見せていた。

鴨がいる、と思った。18年前に焼き付けた芹沢鴨が、確実にいた。

鴨は「新選組!」の第25話で殺される。かなりの悪態付きで酒癖も悪く、だけど不思議と悪者だとは思わせない威厳と懐がある。
鴨が斬られる瞬間の顔、そしてその直前、嵐山でめかけのお梅と紅葉を見る素顔。その両方と、何より粗野な人間の奥にあるあどけなさが、上総介と完全にシンクロした。

鎌倉殿にいたのは、鴨だけじゃなかった。トシも源さんも新見さんもいた。三浦なんてずーっとめーっちゃトシだった。三善殿と実朝の関係は源さんと総司みたいだった。運慶の意地悪なニヤリ、新見さん久しぶりってなった。そういえば観柳斎もお梅さんもいた。役者さん一緒ですねってことじゃなくて、その役自体が、18年前のおもかげを連れていた。

だけど、おもかげもまた、役者さんだけじゃなかった。悲しい事件の後にはなるべくほがらかな日常が描かれること。話が進めば進むほど「あの頃はよかったな」って思わせてくること。政子と実衣の「みんないなくなっちゃった」は、総司とみつさんの「みんな元気にしてるんだ」と一緒だったよね。作品そのものに、大きな大きなおもかげがあった。


作品の世界は600年遡って、役者さんや作家さんご本人には18年が経った。どちらも傑作なうえで、18年ぶん増した魅力って半端なかった。かっこいいとか美しいとかじゃない。強い。その魅力に気圧されて、この18年のことを考えた。

全然全部は見られてないけど、いろんな三谷作品にお世話になった。人生ではじめて見た演劇は「TALK LIKE SINGING」。人生で一番好きな演劇は「子供の事情」。ずっと憧れていた「ショウ・マスト・ゴー・オン」も今年ちゃんと見られた。
あんなに大きな舞台であんなに有名な役者さんたちが演じていても、三谷さんの演劇はいつも、人間の小さな可笑しさのことを言っている。何だかしょうもないことでモメたり慌てたりしている。

演劇だけじゃなくて、ドラマでも映画でもエッセイでも、三谷さんの視線はずっとやわらかい。きっと人間のこと大好きなんだろうなって作品ごとに思うし、人間のこと大好きな人が書いているからいつもちょっと、ちゃんと、さみしいんだと思う。
そしてそれってもしかして、大河ドラマでは特に際立つんじゃないか。だってどうしたって、人間が、次々に斬られて死んでいくから。


鴨と上総介が炙り出してくれたのも、そういうさみしさだったんだと思う。そして「新選組!」と「鎌倉殿の13人」に繋がって感じたおもかげは、つまりなぜ三谷さんの作品が好きなのか、という答えだったのかも知れない。

鴨が上総介になって、トシが三浦になって、私はこの18年でどんな私になっただろう。どうしても、そんなことも考えた。
だけど、作品を長く見つづけてきたことのごほうび、みたいなものは、ちょっとだけいただけた気がしました。


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