雨の日のドミノピザ
近所の国道沿いにドミノピザがある。
雨の日、坂を下っていたら、両手にドミノピザ2枚を下げたおじさんとすれ違った。
雨の日のピザなんて秒速3℃で冷める。伸びられない未来を憂いてチーズが泣いてる。ピザとかポテトとかを見ると冷めることばかり考えてしまう。私はそういう冷めた人間。
でも、おじさんが下げていたその日のドミノピザはとてもキラキラして見えた。
たぶん。
おじさんはお父さん。
家にはドミノピザを待ってる小学生くらいの兄弟がいる。
ママ今日夜ごはんなに?
雨だし面倒だからピザにしちゃおっか。
やったー。
寒いからパパ買ってきて。
え〜誰か一緒に行こうよ。
え〜行かないよ寒いもんパパ行ってらっしゃい。
そうやってしぶしぶ1人家を出てきてゲットしたピザ2枚。家族の期待に満ちたピザ2枚。どっちか1枚は絶対てりやきチキンマヨなはず。
最初はすごいスピードでなくなるのに、最後2切だけ余って翌朝ママが朝ごはんにするんだろうな。
そういえば、一人暮らしを始めてまだすぐの頃、日曜の夕方に外を歩いていて「ミスった」と思ったことがあった。一軒家の小窓から流れてきた、醤油と砂糖の煮込まれた匂い。あれにやられた。
あれって、日曜の夕方だけの匂いだと思った。
せっかくちびまる子ちゃんやってるのにあんまり誰も見てない食卓の匂い。あんた先にお風呂入っちゃいなさいの匂い。お父さんもうビール飲んでるの!?の匂い。ちょっとお箸出すの手伝ってよ〜の匂い。
あれをダイレクトに喰らった時、
まだ味わえたかもしれない日曜の温もりを私は自ら手放したんだなと、本当に手放してよかったのかなと思ったのだった。
でも雨の日のドミノピザはもう、そういう淋しさを私に与えてこなかった。
あっちの問題じゃない。こっちの問題だ。
ドミノピザのパパにも、冷えたビールが待っていますように。
あとパパ、ちゃんと2人分のコーラも一緒に買って帰ってますように。
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