インパクト加重会計の紹介と影響

インパクト加重会計とは、企業の社会や環境に与える正と負のインパクトを貨幣価値に換算して、財務諸表に組み込むことで、企業の真の価値を見える化する試みです。インパクト加重会計は、ハーバード・ビジネス・スクールを中心に開発が進められており日本でも一部の企業が実践しています。

インパクト加重会計の項目

インパクト加重会計は、以下の3点を考慮に入れています

  • 環境:企業による、主に水と排出物に関するインパクト

  • 製品:顧客による、製品の使用や処分に伴う社会や環境へのインパクト

  • 雇用:従業員や周辺コミュニティに対するインパクト

メリット

  • 企業活動が社会や環境にもたらす影響を直感的に理解できる

    • 会計上の各項目に分かれた上で金額として表示される

  • 業種や地域を問わず企業間の比較が容易になる

  • 投資家や経営者が、財務的な利益だけでなく社会的な利益も考慮した意思決定ができる

    • 大手航空会社などの赤字の環境インパクトを出している会社も含め2900社がインパクト加重会計公開している。ということは社会的インパクトを求める投資家のプレッシャーというのは既に結構効いていると言って良い

インパクト加重会計の実践例

日本では、エーザイと積水化学工業がインパクト加重会計を適用した結果を公表しています

エーザイは、「従業員インパクト会計」という手法で、従業員や労働者コミュニティへのインパクトを評価しました。その結果、2019年度には269億円の正のインパクトを創出したとしました。これは同社の利益(EBITDA)の44%増加に相当します。

積水化学工業は、「気候変動課題への取り組み」という手法で、製品やサービスがもたらす温室効果ガス(GHG)排出量や削減効果などを評価しました。その結果、包括的な利益は従来の利益(EBITDA)の1.5倍になるとしました。

これらの例からわかるように、インパクト加重会計は、企業が社会的な価値を創出していることを可視化することができます。

課題と展望

  • インパクトを貨幣価値に換算する際に用いる基準や方法が統一されていない(?)

  • インパクトの測定に必要なデータが不足している場合がある

  • インパクトの測定には主観的な判断が入る場合がある

    • 数値化するということはどこかで情報をそぎ落としていることがほとんどだということには常に注意が必要

  • インパクトの測定結果が企業の価値や配当に反映されない場合がある

    • 大部分の投資家がインパクト加重会計に基づいて投資をすれば企業価値は問題ないが、実際の利益とは違うので配当に反映されない確率は高い

考えうる解決策

  • インパクト加重会計の標準化

  • データの収集や共有

  • 第三者による検証や監査

  • 投資家やその他ステークホルダーの知識向上

    • 現時点でのインパクト加重会計で評価しきれていない部分、ハックできる部分などをある程度把握しておく必要がある

影響を受ける企業

インパクト加重会計の影響を主に受けるのはまずは超大企業からですが、インパクト加重会計の普及によりインパクト加重会計の数字が優秀な会社や事業への買収意欲も高まるぐらいになったら非上場企業がインパクトに目を向けるモチベーションにもなり得ります。そうすれば多くのスタートアップもExit戦略や資金調達のためにインパクト加重会計を重視しますし、既存のインパクトスタートアップもExit時に金銭的にもより報われる仕組みになると考えられます。

インパクト加重会計がもたらす新しいビジネス

  • インパクト加重会計を考慮に入れた監査

  • インパクト加重会計の財務諸表作成コンサル

    • 大企業から特に影響を受けると考えると会計のBig4などに取っては大きいビジネスチャンスになるのでは

  • インパクト加重会計の財務諸表作成ツール

    • 現在は主にSMBがターゲットであるマネーフォワードやfreeeなどがエンタープライズ向けサービスとして売り出すきっかけになるのでは


次回はインパクト加重会計の要素である「環境、製品、雇用」について少し書いてみます

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