IoTを活用した予兆保全の検討 1st Step

1.はじめに

IoTという言葉が単なる流行語ではなく、実際のソリューションとして定着してきており、国内でも少しずつではありますがスマート工場の事例が発表されるようになってきました。

IoTの技術を使用し予知保全を行う事はコスト削減、作業効率の上昇、製品品質の向上に寄与しますが多くのコンセプトやプラットフォーム、ソリューションが提案されているため選定も大変です。

そのためなのかは分かりませんが、お客様より次のようなご相談を受ける事が多くなってきました。

・IoTシステムの導入の最初の段階としてセンサーからデータを取得できるようになったが、取得したデータから何が読み取れるのか分からない。

・IoT化(設備からセンサーで情報を取得)を進めて行きたいが、どのようなデータを取得し、どのように閾値を設定すれば良いかが分からない。

・そもそも何から手をつけて良いのかが分からない。

 今回はIoTを活用した予知保全を検討する段になった際、頻出される上記のような疑問に私自身がお客様に対してどのようにお答えしているのかを簡単にではありますが紹介させて頂ければと思います。

2.何から手をつけるべきか?

 IoTを活用した予知保全の検討を行うとなった際に何から手を付けるべきなのでしょうか。

ありきたりな言葉になってしまいますが答えは電子化とデータの整理です。

この場合の電子化とはエクセルやCSV、アクセス、ワードといった編集可能な形式で記録されている事を指し、PDFといった電子ファイルとして手書きの記録用紙を保存する事は指していません。これは他システムとの連携やその電子データに含まれる情報の一部を活用する観点から編集が難しい手書きデータをなるべく無くしていく必要があるためです。

 なぜ電子化が重要なのでしょうか。

IoTソリューションを提供する企業からこのような話はあまりしませんが、各社から提案されているIoTに関連するソリューション、プラットフォーム、システムは全て電子化され、整理された情報をコンピューター上で扱う事が前提になっています。そのため、電子化されていない情報ではそもそもの前提をクリア出来なくなってしまいます。

 また、IoTでは設備からデータを取得し、分析を行い、機器の寿命や健全性を判断しますが、この判断の指標を構築するには、ソフトウェアを使用した分析を行う方が効率的ですし、現実的です。

IoTを活用し予知保全を行うために必要となる電子化の対象は最低でも以下の4点です。

・設備台帳
・点検周期表
・故障履歴
・各種作業に発生する費用

上記の項目を電子化し、整理を整理できるのであれば保全カレンダーと呼ばれる形式で表現される事をお勧めします。
その場合は左側に設備とその設備に紐づく作業が階層構造で表現され、右側に作業内容の予定と実績、それにかかったコストが表現されるようにすると、現状分析でも活用ができるようになります。

この内、設備台帳は機器構成、設置時期、設置環境(工場やライン、屋内/屋外等)といった各設備を特定する情報と点検や故障の履歴といった実施した作業内容を含むことが要求されます。

また、故障履歴には故障部品の種類以外に
①故障発生により発生した事象
②復旧までの時間
③故障発生による設備orライン停止時間の発生有無
④故障の原因と対策
が記録されていると次の段階での検討作業がスムーズに進みます。

上記の4点に加えて、
・機器の稼働状況(生産条件)
・各種点検時の確認項目、判断指標
・点検にかかる人工/コスト
が電子化されているとより精緻な検討を行う事が可能です。

少なくとも設備台帳や点検周期表、故障履歴が電子化されていればセンサーで取得するデータとして何が必要なのか、は絞り込む事ができるようになります。

3.電子化の次に行うことは

電子化の次に行う事は故障情報の分析です。故障情報の分析では主にFMEAとFault Tree Analysis(故障の木解析、以下FTAと記載)、テキストマイニングを活用し、
・設備や装置の重要度
・設備や装置の特性(故障率と故障曲線)
・交換単位の部品の特性
・設備停止や品質不良に直結する故障の特定
・各故障に対する対策
をリストアップします。

リストアップされた情報から時間基準でメンテナンスを行うのか、センサーの情報を活用した状態監視を行うのかといった保全方式を決定していきます。

保全方式の検討を行う際には点検票等を併用し、現在の点検項目で設備停止や品質不良に直結する故障がカバーできているかを併せて確認していきます。

 点検実績と故障履歴に加えて設備の稼働状況(生産条件)を記録している場合、どのような作業を実施した後にどういった故障やトラブルが発生しているのか?他の同じ設備と比べて故障やトラブルが多く発生していないか?といった事が実績ベースで分かるため、どの設備に対して対策を打てば良いかが分かります。

実際にはFMEAのような帳票が最終的に出来上がるイメージですが、ここでは割愛します。

 よく全てのデータを取得し、網羅的に故障を予想しようとされている提案がありますが、受付の電灯が切れた事を1か月前に把握しても重要度や緊急度を考慮すると現実的ではありませんし、労力やコストという観点からも実現性は低いと思います。

 ここでのポイントは重要な設備の内、ラインの停止や品質不良が発生するといった重要度や緊急度が高く、現状では定期的な点検やTPM活動、メンテナンスの実施では捉える事が難しい故障をターゲットとする事です。

4.センサーで取得するデータを検討する

 FMEAやFTAで設備の重要度や特性を明らかにし、保全方式を決定した後に行う事は状態監視を行うと決まった設備に対してどのようなセンサーでデータを取得すれば良いかを検討します。

 この時、取り組みとして重要度の高い設備で、よく発生している故障や設備停止に関わる故障を対象にしがちですが、これはお勧めできません。

 一番最初は実績のデータが最も集まっている設備や故障を対象に行い、試行錯誤を行う中で必要な情報や検討結果、ノウハウを共有し、他の設備に対する監視に活かす事が近道となります。

 また、状態監視についても過去故障履歴や点検実績に振動や電流、温度変化といった情報があれば、記録された情報からどの故障を予測できそうかの見積もりができます。

 注意点として、センサーの設置場所や閾値の設定は最初から正解を求めるのではなく試行錯誤が必要となります。現状、弊社が感知している限りでは一度で正解を得る事は難しいのが正直な印象です。

 理由として同じ設備であっても企業により設備の使用状況や設置環境が違うため、すべてを網羅するような製品を提供する事は今の技術では難しいためだと考えております。

 IoTの技術を活用し、予知保全を実現させる事は保全業務の効率化はもちろん、設備の稼働率向上や長寿命化、不良品率の低下といった優れた価値を実現する事に繋がりますが、そのためには必要となるデータを電子化した上での検討と根気強く試行錯誤を行う事が重要となります。

また、状態監視だけでは全ての機器の管理を行う事は機器の特性等により現実的ではないため、リスク評価の考え方を元にし、点検作業の予定を検討します。

リスク評価では、予測された状況よりも設備の劣化が進んでいる場合は早めにオーバーホールを行う事を検討するなど、予知ではありませんが予防保全の観点から重要な役割を果たします。

このような検討の方法論はRBI/RBMという名称でいくつか書籍も出ておりますのでよろしければ参考になさって下さい。

 ここまでの検討でIoT技術、主にセンサーからの情報取得を活用する予知保全のシステム構築に必要な情報や基盤となる部分が揃う形になります。

 予知保全を行うための基盤ができた次の段階で実施する内容としては業務設計がありますが、これは別の機会に紹介できればと考えております。

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