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遭難して危うく死にかけた話し。

この内容をもしかしたら過去に書いたかもしれません。もし重複しているようでしたら再アップという形で上げさせて下さいw


あれは確か6〜7年前くらいだと思う。自営の仕事が上手くいかなくなり、もうここでは経営を続ける事が出来ない状況にまでいってしまっていた。この場所を離れる為の準備と新たな作業場を探す為に、僕は日曜日という貴重な時間を使って下見に行こうと決めた。前々から目星はつけてあった古い建材屋の跡地だ。場所は頭に入っている。なんせ僕のお決まりのドライブコースだったからだ。下手すれば目を瞑っていたとしても目的地に辿り着ける自信があった。まぁ半分仕事の合間の軽い息抜き程度だっただろうか…。帰りが遅くなろうが、ある程度の口実はつけられる。それにどうも家にいても気持ちが悶々としてしまうからだろう。しかしそれがまさかあんな経験をする事になるなんて、その時は一ミリも思っていなかったのだが…。

外は真冬の2月。鼻先をツーンとする程の寒さに見舞われたその日は、今年一番の寒波だとニュースで告げていた。
半分病んでいた僕にとって、少し遠くへ行く時間は何事にも囚われない自由の時間だったのかもしれない。

目指す場所は少し市街地から離れた山間地域。
地元は随分田舎だと思っていたが、そこはもはや田舎を通り越して過疎化が進んだ限界集落だ。車を走らせお気に入りのメタルをガンガンにかけて緑に囲まれた景色も相まって僕の心も自然と踊っていた。

真冬だというのに僕は窓を開け放って新鮮な空気を一杯に浴びた。寒さは感じるが凍える程ではない。山の中の空気は草の薫りや、少し乾いた土の匂いで一杯になり、まるで林間学校へ向かう道中を連想させる(林間学校は夏の行事だが…)。

僕は終始ご機嫌に鼻歌を歌いながら颯爽と車を飛ばしていた。普段商品の納品に使う保冷車はある意味僕の自家用車となりつつあった。外側から見えない様におどろおどろしいステッカーを貼り、俗に言うメタラー車と言うやつだろうか。親父からは趣味が悪いから剥がせと何度も怒られていたが今更貼っちまったものは剥がせないと、親父は手を焼いていた。

道中も中盤に差し掛かった所で、当たりが薄暗くなってきた。「しまったなぁもう少し早く出るべきだった。」下見に行くと言いながら、昼食後昼寝をしてしまったのが仇になったのか、細くなり片側車線になっていた道路に下手すれば車をこすりかけないと内心ヒヤヒヤしていた。

見渡す限り畑に囲まれた景色。草木は枯れていよいよ限界集落に輪をかけて少し気味が悪くなってきた。


「このカーブを曲がれば確か目的地に辿り着くはず」

カーブ曲がったあたりから気がつけば良かった物を、僕の曖昧な勘は明らかに目的地とは大きく道が逸れた方向へ走らせていた。見慣れない景色と、完全に闇に包まれた視界。ライトを上向きにした明かりを頼りにぐんぐんと進んでいるとあからさまなニ叉路に差し掛かる。

そこで僕はハッキリと気がついた…。

「やっちまった完全に道を間違えてしまった」

道は非情にもどんどん細くなり軽くパニックになりかける。

「大丈夫この先をUターンすればいい」

僕はその先に大通りでもあるだろうと信じて徐行をしながら進んでいく。

その辺りからなんとなくだけど、自分が自分ではない感覚になったのを感じた。自分ではない何かがハンドルを握っている様な気味の悪い感覚。

これはヤバいと感じたその視界に何かがチラついて来た。

「今年一番の大寒波」

そういや朝のニュースで放送していたよな…。辺りは一瞬にして白銀の世界に包まれていく。当時の僕は雪に慣れておらず完全にあたふたしていたのだと思う。そんな事に気を取られていると気がついたら急勾配の坂を登りかけていた。

「ああコイツは二輪駆動だった…」

そう思った矢先。アクセルがキューンという音が鳴り響く。タイヤはスリップしてこれ以上車は登っていかなくなった。


当時の僕にもし出会ったならば平手打ちでもかましてやりたい位だ。山間地域舐め過ぎ、雪道を舐め過ぎ。バカバカバカ。


少しアクセルを緩めたが最後、車はゆっくりと後退していく。「ああこの先は崖だった…。」正に走馬灯を見るように次元はゆっくりと歪んでいくようだった。


まさか自分の人生ここで終わり!?おいおいまだやりたいことを沢山残していたのに…。神に願うように僕はただぐっと握るハンドルの力だけが強くなった。

「神様。こんな馬鹿げた人間を助けるに値しないだろうけど、どうか命だけは助けて…」


僕の無謀な神頼みが届いたのか。本当に崖からギリギリの所で車はピタッと止まった。車体が長めだったのが良かったのか、綺麗に斜め45度の角度でぴっちりと止まっていた。車から降りて眺めた光景はもはや芸術と呼ぶのに相応しい程の角度だった…。


取り敢えず携帯から救助を呼ぶしかないと画面を覗き番号を打ち込むと急に携帯がブラックアウトした。


「嘘でしょ?まだ30%位バッテリー残量が残っていたはずなのに」

使い物にならなくなったスマホをしばらく眺めて、僕は取り敢えず下山するしかないと思った。辺りはもうすっかり暗闇に包まれている。グズグズすればどんどん状況は悪くなる。ただ辺りを照らすための唯一のツールが死んでしまった。僕は徐ろにポケットを弄ると硬い金属の感触を感じる。ここに来る前に予め用意していたペンライトだ。町内会で毎度配られる趣味の悪いデザインの代物。もう二度とよこさないで欲しいと思っていたライトがまさかこんな所で役に立つ日が来るとは…。
ペンライトの明かりを目に近いところから構えて、滑り降りそうな斜面を下りながら、取り合えず集落を探すことにした。


およそ数分位下山した辺りで古民家を見つける。
他に隣接する民家がなく、雪に覆われた地域にどーんと佇むその古民家はまるで僕を導いてくれている様にだった。真っ白に染まった辺りの風景のお陰で一層存在感が際立っている。

「出来ればおじいさんであってくれ…」

今日の僕のファッションは完全にミスマッチだ。ダメージデニムにカンニバル・コープスのTシャツ。真っ黒いMAー1のブルゾンにデカデカとイカツイバックプリントが施されている。耳にはボディピアスをぶら下げて真っ黒いニットを浅めに被っている。下手すればただの輩だ…。

「これじゃ女性には警戒される」

だけどそんな不安よりも一刻も早くここから帰らなければ。グズグズはしていられない。僕は意を決して玄関の前に立ち、予め考えておいた話の内容を整理する。

「ただ電話を貸してくれればいい、電話が終われば車の側で待つので」

絶対に警戒されないように細心の注意を払うとして、僕は玄関のベルを鳴らした。ベルが鳴り数秒もしない内に家の中から声がする。高齢の女性の声だった。

「まずい…。完全に不審者だと思われるー」

扉が開いて隙間から女性が顔を覗かせる。案の定僕の姿を見るや顔面が引きつっている。でもそれ以上に顔面蒼白で余裕がない僕を見て、明らかに何か訳ありだろうとは察してくれたが、ここ最近相次ぐ高齢者の住む民家を襲う盗難事件などを考えれば僕の状況はさらに相手にとって恐怖を与えていたかもしれない。

「余分遅くに申し訳ありません。単刀直入に話すと車が近くの山道でスタックしてしまって、助けを呼ぼうにも携帯が使えなくなってしまいました。」

「もし可能であるならば電話を貸していただけると有難いのですが」

途切れ途切れにならぬ様、またハキハキとし過ぎぬように声量とテンポを抑えて出来るだけ理解してもらえる様に一語一句丁寧に話した。ここは敢えて怪しいものですがとは言わないでおく事にする…。

「あらそれはいけない!どうぞ中に入って」

明らかに女性の声が震えていたが、申し訳ない気持ちで屋内に入る。広々とした玄関。真ん中にテーブルでも置けば大人5〜6人位お酒を飲めそうな位のスペースだった。大きな大黒柱の前にヒノキで作られた小テーブルに置かれた最新式の卓上電話がミスマッチだった。

困った時はJAF。僕は過去にも色々とやらかしていたので、もはや事情を説明するのもお手の物だった。事故の大まかな内容を話すと、小1時間程到着までかかるという事なので、僕は女性に内容を告げてお礼をいい民家を立ち去ろうとした時。

「こんな寒空で小1時間も待てないでしょう?寒いから屋内で待っていなさい」

こんなどこの馬の骨かもわからない不審な見た目の若者に対して、ここまで優しい言葉をかけてくれるなんて…。僕がもし仮に嘘をついており、実際は民家を襲い金品を奪い取っていく様な男だったら?なんて事を考えるとこんな良心で満ち溢れた人の家を襲う強盗の気持ちが全く理解が出来なくなる…。

そんな女性の優しさに目頭が熱くなりかけたが、僕は同時に申し訳なさで一杯になった。結局玄関前に腰掛けて到着を待つことにした。「そんな所に座らずにこっちの部屋にいらっしゃいよ。そこじゃ風邪をひいてしまう。」彼女は気を利かせてくれたのだが、そうだとしても人様の家の中まで入っていく気にはなれなくて僕は遠慮した。

時折リビングにかかった時計を確認しながら僕は只管待ち続けた。問題はここからだ、どうやって家に帰るか?まさかこの女性に送ってもらうには余りにも申し訳ない。かといって今親父にかけたら死ぬほど怒られるだろう…。取り敢えずJAFが到着してから考えることにして、変にアレコレ考えても仕方がないと気を落ち着かせた。

再びリビングに目をやると笑点のテーマが流れてきた。
変な事を考えずに家にいたならこんな事にならなかったのに…。聞き慣れた笑点のテーマがまるで悪魔のテーマに聴こえてきた。今まで聞いた邪悪なメタルよりもブルータルに聞こえてしまった。

再び深いため息をつくと、どこからかいい香りがして来た。笑点が放送している時間から考えるとそうか、丁度夕飯時だろうな…。きっと今から夕食を食べるのだと思った。
少しかじかんできた手を擦りながら、今か今かと待ち続けているとふと後ろから声をかけられた。

「こんなものしか無いけれどね。良かったら食べて頂戴」

ご飯の上に沢山の野菜と肉が乗っていた。彼女が気を利かせて用意してくれたのだ。

「そんな!?まさか夕ご飯までは頂けないですよ!」

僕が遠慮しているのを見て、彼女は優しく答えた。

「これから色々と時間がかかるでしょう?何か食べとかないと力がつかないでしょうから。残り物で申し訳ないけど食べて下さいね」

僕はその行為に甘える事にした。そう言えば昼を食べてから何も口にしていない。肉体労働がメインの自営なので、当時の僕の食事量は凄まじかった。あれっぽちの昼食では満足していなかったから、正直夕ご飯どうしようと思っていた。まぁ食欲は全然湧かなかったけれど…。

そんな心配もすぐに吹き飛ぶような香ばしい香り。野菜と肉にたっぷりとかかった焼き肉のタレ。この匂いを嗅いだ途端お腹がきゅーっと鳴った。そこから僕は色々と話をした。何故ここに訪れたのか?仕事は何をしているのか?家族のこと等当たり障りのない内容だ。
まるで遠い地に住む祖母の家に遊びに来た孫の様にこの場所にすっかり馴染んでしまっていた。

時間も大分経った辺り。彼女の家の電話が鳴った。彼女が電話に出ると既にJAFのドライバーが事故の場所へ到着しているという報告を受けて、僕は深くお礼を告げて現場に向かった。

ドライバーは一通り車の周りをぐるっと見て回るが、どうにも車体が大き過ぎるのと、余りにも傾きすぎた格好のせいで、JAFの車では引き上げることは不可能だと告げられて、いよいよ事の重大さに気がついた。「ヤバいいよいよ親父にブチギレられるぞ」僕の全身の血の気が完全に引いてしまい。僕は軽く茫然自失になった。

そのままJAFは営業所に戻るという話を聞いて、僕は取り敢えず家に帰る手段を考えているとドライバーは出来るだけ最寄りまで送ってくれると気を利かせてくれた。年回り的にはさほど変わりがない人だったので、なんだかとても自分の状況が恥ずかしくなったが行為に甘えることにした。人も良く話しやすい人だったので車内では打ち解ける事が出来たが、相変わらず真っ青な僕の顔を気遣ってか敢えて事故の内容には触れずにいてくれた。

結局の所家の真ん前で止めてくれて僕らは別れた。家に帰った途端そりゃもう殴られる一歩手前まで怒鳴られた。まぁ怒られても仕方がない事だろうが…。

一通り状況を説明し理解してもらい、親父と現場へ状況の確認の為向かう事になった。牙を抜かれた。まるで小さな子犬のように小さくなった僕は、現場までの道中が異様に長く感じたのは忘れない。

僕のナビによってすんなりと現場に到着して改めて車の状況を見た2人は生命があった事が奇跡だと実感した。本当に皮一枚の所で倒木にもたれ掛かる様にして支えられた車。もう少し勢いがついていればそれこそ奈落の底だろう…。

そして翌日親父のお得意先に車を余裕で牽引できるバカでかいクレーンを所持する業者にレッカーを頼むと、救出作業へ向かってくれるとのことだった。本当に感謝してもしきれない程だ。
現場にひと足早く到着し、僕らは業者の到着を待った。
しばらくして到着すると、豪快な笑い声で笑いながら

「ああ、この程度ならばカップ麺出来上がるよりも早く引き上げられるぞ」「よしクレーンに括り付けて引っ張ってくれ!!」

現場監督のおじさんが号令をかけるといとも簡単に車は宙に浮いた。その直後バリバリという大きな音と共に倒木は奈落の底へ真っ逆さま落ちていった。

「あんた本当にツイているよ。下手すりゃ本当に真っ逆さまにおっこってたなぁー」

ガッハッハと笑う声が胸に突き刺さって痛かった…。親父も様子を眺めていたが、目の奥がシーンと冷たかった。
結局外傷もなく、無事に自走できると判断した僕らは自分の足で自宅へ帰る事となった。

お世話になった女性に挨拶へ向かう為、僕は車を走らせた。畑仕事に勤しんでいた彼女は無事に自走している車を見て大きな笑顔を向けてくれた。

「本当にお世話になりました!!〇〇さんが居なかったら今頃僕はどうなっていただろうか…」

「貴方の生命が無事だったことと、明るい表情を見れただけでも本当に良かったわ!」

僕は再び深々と頭を下げて家路に向かう事にした。
明るくなって見ればいかにこの場所が入り組んでいたのか理解ができる。そりゃ迷子にもなるわなと…。

無事に家について僕は彼女の顔を思い出した。
何処の馬の骨かもわからない怪しい若者にあそこまで良くしてくれた事に、大してお礼が出来ていないと思い、僕はお礼の品を届けたいと再び彼女の家に向かった。

畑仕事を終えて縁側で休憩をしていた彼女にお礼の品を渡すととても喜んでくれた。
この場所が過疎化してから孫は殆どここには訪れてくれない事と、若者の顔すら見ることが少ないと言うことで、彼女はとても嬉しかったそうだ。お礼の品の代わりに干し椎茸を詰めてくれて、僕は感謝の気持ちを伝え再び家に戻った。

結局後部のライト部分。トランクのドアが凹んでいた為、その修理代は僕の給料から天引きされるとの事…。とほほ…。つくづくツイているのかツイていないのかわからない。だけど、僕はあの時の経験が頭から離れない。下手すりゃ死んでいたかもしれない状況も、また僕を助けてくれた多くの人もなんだかそこで出会う為に導かれた様に感じる。今思い出すと何処か現実を帯びていないような、まるで不思議の国のアリスの様に不思議な土地へ訪れたかのようなそんな不思議な体験。

でも少し引っかかる部分がある。いくら入り乱れた道だったとしても幾らでも引き返す事は出来た。何度も通った道だ間違える事はない自信もあった筈なのに…。それから途中僕は夢中になりながらハンドルを握った。僕の意識ではない何かが僕のハンドルを操作した…。そんな事を考えると背筋が薄ら寒くなる…。

人生には数多くの運命という付箋があるというが、まさかやはり僕はあの土地へ行くという運命であっていたのだろうか?とも思えてくる。そしてある日を境に僕はあの場所への行き方をすっぱり忘れてしまった。記事にした辺り朧げに覚えている以外はまるで記憶がすっぽ抜けてしまったからだ。

そうなるとそこで出会った高齢の女性とは、僕の遠い過去で繋がりがあった人物なのだろうか?そう言えば彼女と隣同士、縁側に腰掛けて座った時、妙に懐かしさを覚えた気がする。あった事がないのに関わらず何処か懐かしい様な、故郷に帰ってきたようなそんな曖昧な感覚。

優しそうな横顔も口調も僕にとって心の底から安心できる雰囲気があった。人は常に生まれ変わり、そして生まれ変わる数だけ記憶を置いていく。全ての記憶も財産も全てリセットされ新たな人生をスタートさせるが、実はその多くの記憶というのは、魂は全て記憶しているのだろうか?何かをキッカケにその記憶が朧げに思い出させられる。そして人は懐かしさや、心地よさを感じるのだろうか?

あの体験の後から、僕はそういう感情を強く意識する様になった。少しでも感じる心の動き、違和感。その直感というのは自分の脳裏にしっかりと刻まれた記憶なのだろうと。だから僕はその直感を信じようと思う。身体や産まれが違ったとしても、魂は常に自分という道を歩み続けている。自分を取り巻く環境も、大切な人たちも皆、遠い過去に関わった魂との結びつきを共有するかけがえのない存在なのだろう。

「人は死に直面した時、魂は覚醒に近づき、時に大きな使命を告げられる事もある」という言葉を知り合いのスピリチュアリストが話した内容を覚えている。その彼もまた過去に生死を彷徨う経験をしたのだそう。とは言っても僕とは大分スケールが違うものなのだが。今ここでこの記事を打っているこに現実もまた、生死を彷徨う手前、僕は生かされるという選択が下されたのだろう。

人は絶望的な状況から生還すると、生かされている現実を有り難いと実感できるのだそうだ。生きているではなく「生かされている」それを気がつくため、僕達は幾度も輪廻転生を繰り返していくのだという。


今はもう多分彼女と僕は再び巡り合う事はないのかもしれない。僕と彼女との出会いというイベントは完了してしまったからなのだろうか?今どこで何をしているのかもわからない。こういう表現はおかしいかもしれないが、もしかすると僕は幻でも見ていたのかとも思うくらいだった。

そして今僕がこの身体を使って関わる多くの出来事や人達全て。僕はその付箋を回収しながら、また次の転生先。僕とまた再び出会えるだろう人々の記憶の為に、僕はその一瞬を生きていこうと決めた。

そしていつか再び転生をし全く違う形で偶然出会う。そのキッカケの為に僕はこの人生を歩んで行こうと思った。

そう考えると今こうしている時間も、退屈な毎日でさえも重要なものなのだろう。

しかしこんな間抜けな経験のおかげで魂の覚醒だ気づきだなんて美談で語るなんてなぁ。今思い出すといかに間抜けで愚かだったか恥ずかしくなってくるw


彼女は今元気に暮らせているだろうか?あの時の出来事を思い出しているのだろうか?あの広い民家に人が沢山集まって、幸せそうに笑っている姿を想像してみた。
優しそうな笑顔がうんと優しく微笑んで、彼女を取り巻く多くの人達がまた笑顔になる。

そんな場面を一人想像しながら僕は今、何処までも広い空を眺めていた。ふっと爽やかな風が吹いたと同時に微かな笑い声と同時に囁く声が聞こえた気がする。

「あの時はありがとう。お身体に気をつけて貴方は貴方らしく生きて下さいね」


僕はふとその声の方を振り返る。風は僕の頬を撫でて過ぎ去っていて行った。


ありがとうございます…。


その声もまた風にかき消されて消えていった…。

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