伊丹の見合い 相棒の二次、書き直しました

 「どうかしら、いいお話だと思うのよ」
 婦人の言葉に伊丹は、無言のまま軽く頷いた。
 目の前の女性が知り合い、もしくは親族という多少でも面識のある人間なら自分は、もう少し愛想良くできたかもしれない。
 だが、母親の知り合いの、そのまた知り合い、つまりは赤の他人なのだ。
 しかも、初対面だというのに、まるで昔からあなたのことは昔から知っているのよと言いたげなな親しげな態度で、席に着くなり、いい人がいるんだけどと切り出してきた。
 おい、警察の自分に相談があるんじゃなかったのかと言いたいのを伊丹はぐっとこらえた、欺されたんだと知ったが、このまま席を立ってというのはいい大人のすることではないとぐっとこらえた。
 どうやって、この場をやり過ごそうか、いや逃げようかと思った。
 だが、相手は自分が返事をしないことに何も疑問すら感じないのだろう。
 自分ばかり、本当によく喋ると感心してしまうほどた。
 こういうタイプ、種類の人間は親戚には必ずといっていいほど一人や二人はいるものだ、お節介なおばさんを前にして伊丹は目の前の珈琲に初めて口をつけた。
 「それでね、もうすぐ、ここに来るのよ」
 話しが急に飛んだ、相手がここに来ると聞いて初めて伊丹は目の前の相手を見た。
 いきなり本人が来ると言われて、伊丹は珈琲と一緒に口から出そうになった断りの文句を考えた。
 自分もいい歳だ、見合いを勧められてもおかしくはない。
 数年前から何度か、こういうことはあったのだ、だが、仕事で怪我をしたり、いきなり呼び出されたりしてドタキャン、すると周りの人間もわかってくるのだろう。
 ここしばらく話がなかったのですっかり油断、いや、周りは諦めたのだろうと思っていた。
 恋愛に興味がないわけではない、結婚を諦めた訳ではない、人生、物事にはタイミングというものがあるのだ。
 だから、ここは演技をすることにした、上着のポケットからスマホを取り出し、呼び出しがと言うつもりだった、ところが。
 「あら、来たわ」
 口を開きかけた伊丹は遅れてすみませんという女の声に思わず振り返った。

 そろそろ、昼でも食べに行くかと伊丹は時計を見ながら饂飩、蕎麦、どこにするかと考えた。
 いや、今日の仕事が長引くなら夕飯は遅くなるかもしれない。
 それなら、しっかりと腹にたまる、そう、定食でも食べたほうがいいかもしれないと思って外に出ようとした。
 いつもなら二人を誘うのだが、そんな気分になれなかったのは先日の見合いのことがあるからだ。
 スマホを取り出して着信を見る。
 (駄目、か、やっぱり)
 上手くいかなかったという訳ではない、だが、自分の職業が刑事と知ると驚いて、そこからだ、少しぎこちなくなってしまったのは。
 「お仕事、大変ですね」
 「ええ、それなりには、美夜さんは」
 「今は無職、なんです」
 歯切れの悪い口調に、そうですかと頷いて、それ以上、聞くことはしなかった、相手の様子から聞かれたくないという感じがしたからだ。
 「実は、今、少し忙しくて落ち着いたら、こちらから連絡します」
 あのときの台詞を後悔した、そんなつもりはなかったのだが、もしかしたら向こうは駄目だと思っているのかもしれない。
 断られたと思っているかもしれない、スマホをポケットに入れようとしたとき着信音が鳴った。

 「い、伊丹ですっ」
 思わず叫んでしまった、まるで怒鳴るようにだ、ほんの少しの沈黙だが、相手が驚いているのがわかる、思わず馬鹿野郎と自分を叱咤した。
 「き、木桜です、今、いいですか」
 勿論ですと伊丹は返事をしながら周りを見た、誰に見られているわけでもないのに。
 「よかったら、食事を」
 相手の言葉に伊丹はほっとした、腕時計を見ながら昼、いや、こういうときは、頭の中で予定を立てた。

 少し緊張する、晩飯はどこで、頭の中で予定を立てながら署所を出ようとする伊丹の足が止まった。
 向こうからやってくるのはカメだ、いつもなら嫌みの一つでもというところだが。
 無言のまま、すれ違う伊丹の姿に亀山は呆気にとられた顔になった、どうしたんだ顔を見れば、「特命係の-」と悪態をつくのに、どうしたのだろうと思ったとき。

 「おい、伊丹っっ」
 それは三浦の声だ。
 「立て籠もりだ、行くぞ」

 何故、こんな時にと思った伊丹だが、三浦と芹沢の声に仕方ないと事件現場に直行することにした。
 
 コンビニの立て籠もり事件、しかも、犯人は店内の客を人質にしている。
 現場に到着した伊丹は驚いた、犯人はサバイバルナイフで客を脅し、逃走用の車を要求しているという。
 (どういうつもりだ、署近くのコンビニで事件なんか起こしやがって)
 腹が立つ、だが、犯人が店の外に言うことをきかなければ殺すと行って連れ出した人質を見て伊丹は驚いた。
 
 (美夜さんっっ)

 「先輩、変じゃないですか」
 芹沢の言葉に伊丹は何だと呟いた。
 「あの女性、腕、変です」
 三浦がぼそっと呟いた、あれは、折れてるぞと。

相棒の二次、伊丹さんです、突発的に以前書いたものを手直ししました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?