トランスフォーマー キーを動かすために必要なものは者の中に
海外旅行なんて昨今は珍しくもないけど、一人旅になると話は別だと思う、それでも不安なので飛行機とホテルは旅行会社に頼んで取って貰った。
予定はなし、未定だ、というのもゆっくりと過ごしたかったのだ。
十日の休みともなるとちゃんとした会社ならともかく、バイトやフリーターともなると決して良い顔はされない。
だから思いきって辞めることにした。
チェーン店のパン屋といっても結構、忙しい、ランチのパスタを作ったり、冷凍のパン生地の入った段ボール箱を何度も往復して運んだりして、そのときに転んでしまった。
若い二十歳ぐらいの働き盛りなら難なくこなしていたかもしれないけど、そのとき転んでしまった。
元々、足腰、膝はよくなかったのが災いして歩くのが大変になってしまった。
杖を使えばと友人に言われて試しに使い始めると自分はおばさんなんだなあと改めて実感してしまった。
仕事を辞めて海外旅行に行こうと思ったのは人生の転と思ったからだろうか、付き合っていた男と別れたというのもある。
恋愛も結婚もしばらく、いや、当分はこりごりだ。
そんな事を思いながら飛行機に乗って海外に飛んだのだ。
ホテルについたのは昼過ぎ、飛行機って疲れるのか、それとも時差ぼけなのか、ベッドにごろんと寝転がっていたら、いつの間にか眠ってしまったのは驚きだ。
夜の外出は控えるように、旅行会社の人から特に女性の一人歩きは危ないですと言われていたのでトラブルになったら大変と昼間、外出することにした。
ホテルでだらだらと過ごすのもいいけど、散歩でもしよう。
スーパーでサンドイッチ、ベーグルサンドや飲み物を買って街を見て歩くことにした。
不思議なことに建物が崩壊というか、壊れているところもある、事故、もしかして地震、そんなことを思いながら歩いていると疲れてきた。
どこか休めるところがないかと思って当たりを見回す、そのとき、足下がぐらりと揺れた。
地震、驚いて周りを見る、このとき、気づいたのは周りに人がいないことだ。
少し前まで通行人はいた、だけど、店はあっても浮いている雰囲気ではない、それに半壊というか、修復中の建物が多い。
ただ、足の向くままに歩き回っていたのだ、来た道を戻ったほうがいいかもしれない。
そのとき、急に空が暗くなった、上を見上げると飛行機、いや、飛んでいる。
「キーを探せ」
日本語、えっ鳥の声じゃない、また地面が揺れて持っていた杖を落としてしまった。
まずい、拾い上げようとしたが、右足、膝がかっくんと崩れてしまった。
慌てて体勢を立て直そうとしたが、そのまま前のめりに倒れそうになってしまうが、同時に地面が割れた。
まるで、飲みこまれてしまうような感覚だ、思わず目を閉じてしまつた。
気がつくと自分は地下にいた。
痛みを感じた、足首だ、膝は少しじんじんするが、骨が折れた、骨折はしていないのでは思った。
運が良いと思ったとき、ふと、と気づいた。
少し離れた場所で何かがちかちかと光っているのだ、赤、青、なんだろう、ゆっくりと立ち上がり、歩こうとして周りを見た。
杖がない、仕方なく四つん這いで地面を這うようにしながら近寄っていく。
金属の塊、不思議な造形のものが光っている、はめ込まれた石が光っているのだ。
綺麗だなー、思わず人差し指で赤い石を突いてみる。
光が消えたと思った瞬間、まぶしいくらい光った。
文字というか、記号のようなものが。
ダウンロード、開始。
キーだけでは不完全。
始動させるには、もう一つ、それがなければ、しない。
しない、動か、な、い
(ダウンロード、完了)
自分は何をしていたのかわからなくなる。
はっとして周りを見まわし思い出す。
そうだ、地震だ、辺りは暗い、だが完全な暗闇ではない、ゆっくりと這うようにして明かりを目指して進む途中、はっとした。
自分の手が何かを掴んだのだ、なくしたと思っていた杖だ、だが、半分ほどの長さで折れている。
でも、ないよりはましだと思って、それを持ってやっと外に出たとき外は薄暗くなっていた。
どうしよう、ホテルまでどうやって帰ろう。
ここに来るまでの道順、方角は、思い出そうとしても周りが暗いとさっぱりだ。
そのときだ、妙な金属音がした。
何故、そう思ったのか分からない、だが、隠れなければと思った。
プロテークートが、かかっている、キー、そのものに、だが、か、完、全、ではない。
こわれ、かけて、いる、戦、とうに巻き込まれ、それで。
キーは、形を変えた、自分が簡単には見つけることはできないようにだ、形として現存すれば奪われる。
なら形のないものの中に隠せばいい。
記憶の中にだ。
どうやってホテルに帰ろうと思いながら歩き出すといきなり目の前が明るくなった。
車のライトだ、立ち尽くしてしまう、中から出てきたのは黒人の青年だ。
「こんな時間にどうしたんだ、ここは夜間、立ち入り禁止になってるんだぜ」
正直、英語はあまり得意ではない、だが、外国人とわかったのだろう、相手がゆっくりと喋ってくれたりでわかった。
「実は、道に迷ってしまって」
ウェストポートからホテルの名刺を取り出すと、青年は驚いた顔をした。
トランスワープキーは完成した、なのに動かない、どういうことだ、わからない、何が足りない。
主が完全に力を取り戻し、復活する為にはキーを動かなければ意味がないのだ。
スカージは焦った。
あの博物館付近で何か分かるかもしれないと手下に命令した。
だが、その結果は、はかばかしくなかった、ところが、散策中に爆発が起きたのだ。
原因は自分たち、ではなかった。
まさか、敵対するオートボット、オプティマスプライムたちかと思った、だが、それもはっきりしない。
「どんな些細なこと、異変でもいい、見逃すな」
トランスワープキーは奴らに取られた、だが、動かなかったことにオプティマスプライムは安心すると同時に不安を覚えた。
どういうことだ、何か足りないものがあるのか、しかし調べようとしても完成したキーはスカージ達が持っている。
「オプティマス」
「なんだ、アーシー」
「ビーが何か気になる波動、エネルギーを感じたみたいなの」
それも博物館の近くでと言葉を続ける彼女は調べてみる必要があるんじゃないと言葉を続けた。
大丈夫と思っていたのに、ホテルに着くとどっと疲れが出てそのまま寝てしまった、起きたのは翌日の昼近くだ。
ホテルまで送ってくれた青年に礼を言ったけど車に乗っている時に不思議なことに気づいた。
男性の声がするのだ。
車の中には自分と運転席の男性、ノアという名前だか彼しかいない。なのに、歌が聞こえるのだ。
これ聞いたことがあるような、有名なミュージカルのフレーズじゃないかと思って、思わずふんふんと口ずさんでしまった。
「ヘー、好きなのかい、この音楽」
陽気な男性の声に驚いて隣を見た。
「ミラージュ、おまえなあ」
これが、彼女とオートボットの最初の出会いだった。
「ドライブを楽しんでいたのに、一体、何だって」
集合場所にやってきたミラージュは一人ではなかった、もしかして、相棒のノアが一緒なのかと思った。
だが、車から降りてきたのは見たことのない女性だ。
髪や肌の色から外国人なのは一目で分かった、だが、その女性はミラージュから降りると地面に屈み込むように、目が回ると突っ伏してしまった。
「どういうことだ、ミラージュ、関係のない人間を連れてきて」
「ドライブの途中だったんだ、折角のデートの途中で」
何がデート、ドライブだ、少しきつめに文句をと思ったときだ。
言葉が遮られたのはビーが喋り出したからだ。
いつもなら、仲間内で分かるはずだ、なのに、このときビーは流暢な言葉で喋り出した、それも彼女に、人間の女性に向かってだ。
「どうしたんだ、ビー」
声をかけるオプティマスだが、返事はない、そのとき上空から金属音が聞こえてきた。
空を飛んでいる、鳥ではない、ナイトバードだ、何故、ここにと思ったとき、ドンッと音かがして目の前に何かが現れた。
いや、降りてきたといったほうがいいだろう。
「見つけたぞ」
それはスカージの声だ、彼はミラージュの側にいる人間に向かって手を伸ばそうとした。
「おい、何のつもりだ」
だが、掴もうとするのを遮ったのはミラージュだが、それはあっけなく振り払われてしまった。
「邪魔をするな」
逃げようとする女性に再びスカージは手を伸ばした、だが。
一瞬の差で奪われた、オプテイマスの手によって。
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