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【大分】vs広島(A)「トライしよう」

胸のすくような逆転。ミッドウィーク開催でもブレない、相手を見る、狙いがある。この日何よりも嬉しかったのは、我慢してトライして最高の形で報われたこと。そして報われるための努力を惜しまない姿勢。最高だったゲームを振り返りましょう!

スタメンの確認。
大分から。

3枚変更。
とりあえず生!くらいの鉄板だった松本がベンチにも入らず、香川と知念がベンチから。
替わりにまちだやまとくん(小3)と伊佐、田中達也がスタメンに。井上健太が2戦連続で出場。右WBに入った。

サンフレッチェ広島

大分と同じ3-4-2-1だが、守備では人にガツンと寄せて攻撃ではダイナミックなポジションチェンジ。似て非なるとはまさに。というか別モノ。
広島のキーワードは「人を見る!」みたいな。そんなチームでした。

前節の神戸戦で柏好文が負傷。替わって浅野雄也が入る以外は前節と同じメンバー。あっ!ドラゴン永井!お久しぶり!

相手を見て揺さぶって

共に3-4-2-1だけど全く違う広島。人にガツンと来るのが広島。そんな相手に大分がまずは揺さぶりを仕掛けました。
前半の流れをめちゃくちゃ雑に書くと、大分の守備
とビルドアップに変化をつけたが、広島がビルドアップ(プレッシャーの逃げ所とか、大分の守備の回避パターン)を複数持っていたためそんなに効果はなし。時間が経つにつれてビルドアップで大分が策士、策に溺れる状態になって……変えました!みたいな。
ちゃんと書いていきます……!

まずは大分の守備から。

広島の3バックに対して大分は伊佐、町田、渡の3人をぶつけずに、まずは伊佐の守備を最優先にしました。狙いは「青山に通さない」こと。DFラインの佐々木と荒木がボールを持ったら伊佐は一歩引いて青山のパスコースを消す。なんせ青山にボールが渡ってしまえば、一気に前線へと高精度なボールが供給されるから。うちでいう長谷川雄志のハイスペック版と思ってくれれば。そしてその先にはドウグラスやペレイラがターゲットマンとしている。せっかく中盤で上手いことボールを奪う準備をしてもその頭上を越えられたら元も子もない。ここが最優先。

基準がひとつ決まれば次は調整です。伊佐が佐々木と荒木を見て青山を背後に"感じる"タスクを背負ったら、広島はもう一人のDFで、フリーになる野上を起点にするからそこを抑えなきゃならん。だから町田を前に出して(1列上げて)伊佐と並ぶ形に。そうしたら次は町田と田中の距離が空くからハイネルに走られて裏取られたらヤバイよね、という事でWBの田中もちょっと前に行って後ろを三竿がケア。
ちょっと前に書いたトリニータの新戦術の予想に近い形が見られました。(こっちもみてね)
この日は「伊佐基準」で町田、田中、三竿を上げた左上がりの3-4-2-1がほぼ4-4-2に近い守り方になってました。

人に強い広島は、ボールを持てば自分たちから動く積極的なチーム。ならばその動きを先んじて封じましょう!というのが守備の狙いでした。

大分の狙いに対して広島の回避術

大分が青山シフトを敷いてきたなら、広島だって青山シフトのシフトを準備してます。なんせ広島のわかりやすい第一のキープレーヤーだから対策もされる。ならば対策の対策、というわけです。(それはそう
精度の高いロングボールで局面を一気に変えるには、まず前を向く事。ゴールに向かいたいのにそっぽ向くのはまずないです。だからどこでボールを受けてターンするか、が焦点。
だからといってキーマンの青山を正直に動かしても読まれるだけなので、青山のボール受けるポジションの基準はちゃんと隠されてました。
基準は2つ。①野上を外に逃がして②荒木と佐々木の距離を見る事。
基本の立ち位置はこれ。


からまず①。と言いたいけど①の前準備から。
広島の自陣でのボール回しはまずは3バックとダブルボランチ、そして「逃がし所」としてのハイネルの6人。GKの大迫はそんなにボールに関与せず。

ハイネルを下げる理由は、ボールの逃がし所という意味合いだけでなく、最終ラインからロングボールを出した時に、逆サイドの快速浅野をよりゴールに近い所で競らすため。また、ドウグラスをサイドに流して納め所も確保する狙い。

ここから①。
野上あげまーす。意図はサイドで馬力のあるハイネルを攻撃で生かすため。

このときの佐々木、荒木のアクションで2パターンに変化します。

変化(A)
・荒木も佐々木も右にズレる時

野上、荒木、佐々木の3バックが右にみんな動いて空く左のサイドに青山が落ちる。青山のコースを消す伊佐はサイドに引っ張られるため川辺がフリーになりやすい。

変化(B)
・佐々木、荒木が開く時

佐々木が左サイドを埋めてぽっかり空いた中央に青山が落ちるパターン。(あるある)
大分も小林、長谷川が入れ替わりでやってる。

相手FWが青山に寄せるなら距離を取りましょう……フフフのフーの図でした。

そんなこんなで一番ケアしたいところはうまく往なされてしまったが、伊佐はこの揺さぶりにも我慢強くチェイスして気持ちよくボールを蹴らせなかった。我慢強く我慢強く。この姿勢は後に効きます。

時を同じくして!大分はビルドアップで策士、策に溺れる状態になってました。

策士、策に溺れる

この日のビルドアップのメニューは「奥行き作って」ズラす事。奥行き、大事。

大分のビルドアップの立ち位置はこんな感じ。

田中と井上をサイドの高い位置に置いて、シャドウの町田、渡が下がる。
狙いは「奥行きを作って拡げる」です。

奥行きのハナシ

人に強い広島。その強みを生かすべく、ガツンと当たれるように、守備でマンマーク気味につきます。
それと上記の大分のビルドアップの形を当てはめるとこんな感じ。

町田、渡が下がるから野上、佐々木も前に。田中、井上が上がるからハイネル、浅野も後ろに!って形。ザックリですが。
……となれば町田と渡がDFを引き連れた背後(伊佐の左右)にスペースができる。ここに田中、伊佐、井上の誰かが走り込めば一気にチャンスです。「ポジションのズレを作って裏を取る」。これが奥行きです。
大分はこの奥行きをDFラインでも準備してました。

鈴木が持ったら岩田が下がり……

小林が持ったら三竿が下がる。

これを繰り返してドウグラスと森島を走らせて疲弊させる。そしてついてきたら「拡がり」ができます。三竿と田中の間、岩田と井上の間に……

そこからの崩しはこんな感じ。
例えば小林がボールを持って三竿にドウグラスがついてきたら町田は川辺の前、長谷川の横まで顔を出します。

三竿と田中が空けたスペースに町田が「川辺の前」でボールを受けようとする。と、町田をマークする野上はどこまでついていってどこで川辺に預けるか、が曖昧になる。そうしてるうちに三竿が野上の裏にボールを落とせば田中か伊佐がボールを受けやすくなる!みたいな。

これが大分が広島に対して準備した策。だったが思ったよりドウグラスと森島がついてきてくれない。となれば町田や渡が下がってきてもドウグラスたちにパスコースが消されてしまう。サイドの田中、三竿の繋ぎ役の町田、逆サイドの渡が潰されると前の田中と井上が孤立する……という悪循環でした。

策士、策をさらに練る

そんなこんなでかなり高度な?つばぜり合いが行われてましたが、その間にミスから失点。前から積極的に追い込まなくてよくなった広島は、大分の誘いにより乗ってこなくなります。広島が「動く」ことが前提の大分は困る。

ならば、どうするか。それが顕著に現れたのは飲水タイム明けから。GKの高木をDFラインに入れてしまい、小林を下げずに中央のポイントを増やす!
そうすればサイドの孤立も防げる。つまりはこっちが先に動いて広島が動かざるを得ないシチュエーションを作ろう、と。

三竿、田中の中継役に町田だけでなく小林がヘルプに、逆サイドでは長谷川も中継役になった。
小林が一列上がったら、人にガツンと行く広島は近くの川辺を当てに行く。となると町田が下がってきたらマークの受け渡しができなくなるので飲水タイム明けから町田がボールに絡む回数が増えた。
しかし、その町田が前半40分でまさかの負傷退場。ツキもないかにみえたまま前半を終える。

「トライしよう」

ミスから失点。策はハマらず、策を変えたら生きた選手が怪我。にっちもさっちもいかない日だぜぇ……とか思ってた後半。大分は大きな一歩踏み出す。

後半から「奥行きを作って拡げる」のをやめて前から積極的に押し込むようになったのです。
人についてくるなら、こちらから動いて押し下げてやろう!って気概に充ち溢れた、ある意味大分らしくない、これまでなかなかやってこなかったカウンターの解禁です。
カウンター上等!というのは裏を返すと質的な優位に晒される覚悟。上手い、強い、速い。こんなバケモンを相手にするにはJ2から上がってきた我々は束になって迎え撃つしかないという発想から、バケモンが相手でも自分一人ひとりが対応する覚悟。一歩間違えばボロクソにやられます。それはしょーもないミスにみえるかもしれません。それでもやらないと広島には勝てない、という開き直りと「うちはそれにも対応できるだけの準備してましたので!」っていう自信をこの45分、それもビハインドの場面でやりました。

だからこそ、試合後のフラッシュインタビューで片野坂監督から「トライしよう」というワードが出たと感じました。

思いは形に、得点に

前から積極的に、トライをする。自分たちから相手を動かす。一朝一夕ではできませんが、トリニータにはそこに繋がる継続性を見せているチーム。
前半で敢えて広げていた三竿と香川(田中)、岩田と井上の距離感をグッと近づけて相手を押し込む。
押し込むために狙ったスペースは「サイド下がり目」の位置。相手の5-4-1のSB-SH間(浅野-森島とハイネル-ドウグラスの間)。

昨年のベストゲームであるホーム横浜FM戦を皮切りにシーズンを通して抜群に効いてたこの策。久しぶりの試合ですし、おさらいをしましょう。

まずは大分のビルドアップの基本から。この立ち位置がスタートです。

小林下がって左右が上がる。見える形は4-1-5。

ここから相手SB-SH間を「誰が」「どうやって」スペースを作り攻略していくのか。左右で特徴が出ていたのでそれに倣って。まずは右からの展開。

見ての通りです。(わかりづらい)
渡が佐々木の前から青山の背後へと動き、井上が縦に走ってロングボールを呼び込みつつ浅野を押し下げる。すると……
後ろ4人が右にスライドして一番右の岩田が前に。浅野の空けたスペースを岩田が取る。近くの青山は渡も意識しないといけないから下手に寄せられないし、かといって森島が下がれば、長谷川が下がって鈴木が右サイドに入ったりGKの高木が上がって後ろ4枚をキープできるためボールを戻して作り直しができる。

次は左。

こちらは田中がサイドの角へと走って野上を引き連れて香川は少し下がり目の位置でハイネルをピン止め。大分のDFラインが左にスライドして一番左の三竿が香川の内側に来る。
三竿が上がってきた時に川辺とまともにマッチアップするように見えるが、野上-荒木の間にボールが収まる知念が顔を出す。となれば野上が空けたスペースのカバーを埋めるのが最優先。三竿を見たくても下がらざるを得ないから三竿フリー!みたいな。
これもうまくいかなければもう一度ボールを下げて作り直せば良い。

この形、みての通りかなり設計された(最近だとデザインされたって言うみたい)準備を持ってる大分。パターンはいくつもあるためキリがありませんが、選手の特長と噛み合わせをみてうまくポジションを循環させてます。
そしてSB-SH間の攻略をして三竿や岩田が上がりました。以上!解散!なワケはなく。この日の狙いは同点の形に現れたように、サイドの深い位置からのクロス。FWからしたら低い位置から斜めにボールが来るため頭で逸らして味方に繋ぐか身体を張って相手の背後でボールを納めるプレー、はたまた直接シュート!みたいなプレーが要求されます。そのためにHTに伊佐から知念へと変えました。

理想の形は昨年のゴールシーンにもちらほらとあるのでそちらと比較をするのも面白いです。

上二つが広島戦後半でまさに狙っていた形。もうひとつが応用編というか派生した形。
第3節 vs磐田 後藤のゴール
第10節 vs鳥栖 小塚のゴール
第19節 vs札幌 オナイウのゴール(1点目)

理想の形がこれ。得点に繋がれば最高だが、決まらなくても守る側からすると常に背後を狙われてるのを意識しながらなかなか捕まえられない岩田、三竿にどう対応するかに頭を抱えた事でしょう。

広島は森島とドウグラスの立ち位置を変えたりボランチを上げて大分の後ろの人数に合わせてみたり……全く無策!用意してなかった!ってワケではなく、広島がむやみに動いてしまうと三竿や岩田よりもっと深い、急所に近い位置でフリーな選手を作ってしまうから動く事ができなかった。そりゃ開幕戦で大分の3バックやボランチから低くて早いボールが一気にシャドウにズバズバ通されるセレッソを見たら動けない。詰まるところ、広島が落ち着いて守備の網をどこにかけるかを決めきらなかった。裏を返すと大分が決めさせなかったのだ。

もちろん、この策が卍最強卍卍全国制覇卍なわけではなく。どこかで優位に立てば必ずどこかに構造的な欠点を抱える。三竿や岩田が上がったタイミングで相手にボールが渡ったら……コーナーキックからカウンターを食らったら……一気に3vs3で守らなければならない。52分の鈴木の精密なスーパーブロックのシーンに象徴されるようにスプリント勝負、フィジカル勝負な状況になり、剥き出しの「質」と対峙するハメに遭う。その点、鈴木義宜ってスーパーなCBが鉄人でJ1でもバリバリに質で勝負できるのは本当に大きな強み。ここは卍最強卍。

えーと……なんやかんやで押し込んで、たまにカウンター食らって胆を冷やしてむかえたラスト5分。途中出場J1デビューで1stタッチで髙澤が決めて同点。最後の最後に三平が決めて逆転!どちらの得点も大迫のミスがフォーカスされているが、それ以上に大分が狙った形から決めきった。

去年であれば、我慢して我慢してやりたいことが上手く行かずとも信念と共に殉ずる事が多かった。それでもなお、愚直に、狙いを持って我慢して我慢して……もうちょっとだけ我慢したあとに最高のご褒美が待っていた。そして最後の布石になった伊佐や渡、井上のジャブがじわりじわりと効いたのも報われて本当に嬉しかった。

J1、2年目。新たな形のトライの1歩目が最高の形で、結果になって本当に本当に嬉しい。まだ3節しか消化してないけど、策の準備、ハマらなかった時の変更、新たなトライを全部合算したら今季のベストゲーム候補になると思う。自分にとってはそれだけ大きなゲームだったし、会心の勝利。最高だった。(語彙力)

この余韻にどっぷり使ってニヨニヨしたいが次の試合は待ってはくれない。次は神戸戦。って明日!?

楽しみだ~!

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