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おっさん、『マガジンロンド』を読む。

おっさんは如何にして『マガジンロンド』を手に取るに至ったか?

自分がマツオヒロミ氏の絵に出会ったのは、ヨドバシカメラのホビー売り場で何の気無しに商品を眺めていると、とあるパズルのボックスアートを視界に捉えたのがきっかけである。

理由はうまく言えないが、なんとなくこの絵が気に入ってしまった。
初めて見る絵だ、藤の色が綺麗だ、こういう髪型が好みだ、描いた人は誰だろうか…。
もちろん、購入しても良かったのだが、時間がかかりそうだとか、絵を掛けるスペースがないなとか、色々と理由をつけて結局は買えないでいる。
当然、このイラストが気に入ったので作者を調べて、他にどんな絵があるかも知りたくなる。
マツオヒロミ氏の名前を知ったのはそんな流れからだ。

昭和レトロ感、和洋折衷、こういう事を表す語彙に乏しいのが歯がゆいが、いつもゲームやアニメの絵に慣れ親しんでる自分の目にはお洒落で新鮮でとても魅力的に思えた。
やはりパズルを買って壁にかけたい欲に駆られるが、今はその時ではないと繰り返し葛藤する。
そんな事を思いながらweb上のイラストを眺めてるうちに、ついには「とりあえず画集でも買って代わりに眺めるか」という発想に至る。
そして地元のデパートにあるサブカルの聖地・ヴィレッジヴァンガードにて画集『マガジンロンド』を手に取るに至ったのである。


それはときめきの百年史

本書で語られる『マガジンロンド』とは架空のファッション雑誌である。
マツオヒロミ氏はファッション雑誌が大好きで、それを手に取ったワクワク感、読んでる最中は別世界に連れて行ってくれる気持ちをコンセプトに架空のファッション雑誌の体で本書を手掛けている。
『マガジンロンド』は1922年から刊行されたという設定の雑誌であり、それぞれの年代のイラストを漫画や解説を挟みつつ、2022年までの100年の歴史を辿るように構成されている。
それは画集でありながらその当時に触れられる歴史書であり、漫画であったり、ただの画集に収まらないアプローチで楽しませてくれる。
本書の言葉を引用するならば「あの頃のわくわくどきどきが詰まった宝箱」を体現する雑誌であり、100年の何処を切り取ってもそれは存在し、そして100年のどの時点でもそのわくわくを読者に伝えるというコンセプトを一貫して描いているのである。
小生、女性でもなければお洒落にも疎いおっさんなのだが、そんな自分が読んでも「わくわくどきどき」を感じ取ることができる素敵な本であると言えよう。

『RONDE』には、こんなお洒落で可愛くて時にキリッとしたイラストが溢れている。


女の子から小物まで

本書はマツオヒロミ氏の描くお洒落で可憐、時に凛とした女の子イラストが多数掲載されている。
が、その見せ方も様々でファッション雑誌の表紙のようなレイアウトのページもあれば、当時のコーディネートの紹介や掲載されていた広告のようなイラストも様々。
氏の語る「大好きなファッション雑誌への憧れを形にする」アプローチが随所になされており、ただの画集に収まらない楽しさを演出している。

さながらファッション雑誌、お洒落な女の子を演出する工夫はレイアウトに小物にと様々

中でも個人的に目を引いたのが小物の紹介ページ。
描かれた傘やバッグや靴、それぞれにどういう効果があって身につけるとどうお洒落にできるかという解説まで載っている。
女子のイラストにとどまらず、いや、お洒落な女の子を演出する為には小物の観察や描写にだって手を抜かないのだと改めて感服してしまった。

『マガジンロンド』はおっさんに何をもたらしたか?

自分は個人制作でゲームを作ることを趣味としているが、その中でも必要であればイラストを手掛け、そして絵心の無さや純粋な技術の無さに我ながら失望しつつ絵をこさえている。
(絵を描くことは嫌いではないものの、理想の欲しい物とかけ離れた拙い自分の技術という現実に辟易する次第。)
そんな半ば嫌々イラストを描いてるようなおっさんがこの本を取って何を思うのか、学んだことは様々である。
ああ、女子を描くには上述したように小物も大事なんだなだとか、脚はいくら長く描いてもシュッとしてるからかえっていいなとか、アレを際出せるためにこういう色使いをしてるんだなとか、美術の勉強してればこういう考え方・描き方ができるんだろうなとかetcetc…。
再三書いているが、この画集はただのイラストの収録に留まらず、マツオヒロミ氏がファッション雑誌への憧れをイメージし、そのわくわくを読者に伝えるというコンセプトで編集したものだ。
お洒落に疎ければ女の子でもないおっさんの自分が読んでもそれは伝わってくるし、己が内のときめきを世に放ち、相手に共感してもらうという事は自分がやりたいことにも通じる所があるので、こういうやり方もあるんだなと思ったのがとても勉強になった。
おそらくこれからも自分は人を、何かを描く事があると思うが、折に触れてこの本を手にとって、女の子を描く上で何があったらいいかを確認していきたいなと思う。

氏のファッション誌のこだわりは背表紙に至るまで抜かりがない。カバー裏にもアッと驚くこだわりが隠されていることもここに記しておく。

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