書評:「ネコばあさんの家に魔女が来た」

赤坂パトリシア著、「ネコばあさんの家に魔女が来た(202年KADOKAWA刊)」は、「第4回カクヨムWeb小説コンテストキャラクター文芸部門 特別賞受賞」作品です。

この小説を知ったきっかけが、以前のWENのアカウントを、著者の赤坂パトリシアさんがフォローして下さっていたことでした。最近になってこの小説を偶然実際に見つけることがあり、せっかくなので手に取って読んでみました。

この書評では、物語自体のネタバレにはならないようにしていますが、ほんのわずかなネタバレすら好まない人は、実際に本を読み終わるまで待つことをお勧めします。

この物語の主人公は高校生のユキノです。ユキノは、過干渉な母親を持ち、高校に行くことも、ろくに食事を取ることも出来ません。家で母親が作ってくれたお弁当を食べようとすると吐きそうになります。本当に食べたい者は、母親から禁止されてきたような、チョコレートやポテトチップス。

そんなユキノの家で、ある朝、弟が、近所の「ネコばあさん」と呼ばれる人の家に、「魔女」が来たと話します。そのネコばあさんの家に行ってみたユキノが出会った「魔女」は、ネコばあさんではなく、日本人の父親を持つもののイギリス育ちでイギリスの国籍を持つ、若い男性でした。ニワトコと名乗る彼は、ユキノのお好み焼きを食べていくか聞きます。そのお好み焼きは、なんと、ズッキーニを使ったお好み焼きなのです。

こうしてネコばあさんの家でニワトコの作った様々な珍しい料理を食べたり、「魔女」と交流することによって、ユキノは徐々に変わっていきます。

私が言うような意味での現代の「ウイッチクラフトの実践者としての魔女」とは無縁の小説だと想像して読み始めたのですが、まず、最初に出てきた魔女が「男性」だったということに驚きました。小説でも漫画でも、魔女として取り上げられるのは、やはり、「分かりやすく」女性の魔女であることが多く、男性の魔女がメインで登場するものは他には思い浮かびません。著者は女性の方だと思いますが、女性が描く小説だからこそ、男性の魔女というものへの偏見がなく、それを取り上げたのではないかとすら思いました。

さらには、これも想像はしていなかったのですが、「コヴン(カヴンのこと)」、「ウイッカ」などの言葉も少しですが出てきます。著者の方はイギリス在住とのことなので、恐らく、実際に魔女と触れ合う機会があるのでしょう。

ただ、厳密な用法としては少し違うと思いました。カヴンを、オープンな魔女の集会であるかのように語っていますが、実際は少人数で儀式を一緒に行う、魔術的な絆で結ばれた親密なグループとして使うのが普通です。「現代の魔女たちの多くは自分のことをウイッチではなくウイッカと呼ぶことが多い」という部分も、実際は必ずしも正しくありません。「ウイッカ」とは、実際は実践者ではなく、宗教の名前として使うことのほうが多いでしょう(これもまた、常にそうだというわけではありませんが、話がとてもややこしくなるのでここでは触れません)。また、魔女にも流行り廃りがあり、今では、ウイッカという言葉は以前より使われなくなっていると思います。

現代の魔女に関わる要素としてはそれくらいしか出てきませんし、魔女のことが学べる小説だと思っていると、期待外れに終わると思います。しかしこの本では、ニワトコの作る料理がいくつも紹介されており、それらが非常に面白いのです。アールグレイ味の自作ようかん、ルバーブのおむすび、発酵させるジンジャーエールなど(作り方も書かれています)。

現代の魔女の多くは料理好きです。料理と魔法は通じる部分がたくさんあるとも言われています。魔女の道に興味があるなら、この本の料理の部分にも興味を惹かれるに違いありません。

全体的に、おだやかトーンで書かれた、優しい小説になっています。さらっと読めますので、興味がある方はぜひ。

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