旅行代理店が凋落する本当の理由
関西で街遊びに興味のある人なら誰でも知る人気の編集部で働いていたときのこと。
「藤田くん、誰かおもろいやつおらんか?」と社員さんによく聞かれました。
その編集部は当時とても人気で、求人でもすれば文字通り山積みの履歴書が届いていました。
一般的には、街でどれだけ遊んでも、クラブにどれだけ出入りしていても履歴書には載りませんから、雑誌作りに巻き込んで面白い人かどうか? は履歴書ではわからないわけです。会社の手順として旧来型の求人をしていましたが、その限界が見えていたのです。
本当に街で遊んでいる人、書くのが好きな人をしっかり選ぶようにしていましたが、 履歴書でよーいどんしたら、有名大卒で資格や課外活動に熱心な人が残るのは当然です。
いつしか、業界全体が変わっていきました。
・そんなに外食しない人が作る飲食ガイドブック
・独身の人が作る結婚情報誌
・本を読まない人が作る文芸書
・メールや電話の対応が荒いなど「丁寧に暮らし」てない人が作る生活情報誌
が世の中にあふれていきました。
結果として読者の信頼を失い、伝えたいメッセージが届かなくなって、凋落していきました。
その移り変わりを眺めていて、まぁ、自滅だよなぁと感じていました。
※かといってネットメディア自体に足を動かす真摯な編集者がたくさんいるのか? というとそうでもなくPVや滞在時間などのユーザーデータ解析ばかりに目を向けて「ローコストでいかに大量生産するか」しか考えてない人が大半なのですが、それはまた別の話。
僕が所属していた媒体は、その流れに必死で抗おうとしていた人ばかりの環境だったので、大変幸運でした。その姿勢が読者や広告主にも共感され、荒波にもまれながら今でも生き残っている理由になっているのだと思います。
で、旅行業界。大手旅行会社など、大苦戦が報道されています。数十年積み上げてきた利益がたった1-2年できれいに溶けてしまったり。 一見、ネット予約の進展やユーザー行動の変化、そしてコロナショックでピンチという報道をされていますが、内実は自滅しています。
本来は、接客サービスを180度転換することを大急ぎで進めるべきでした。
どういうことか。
お客さんがハワイ旅行を相談したいとします。
ハワイの現地情報をたくさん持っているのは、当然のことながら、その旅行会社のハワイ支店の人間です。
一方で、お客さんと接するのは、東京や大阪などの支店の人間です。当然のことながら、この人にハワイのことを聞いても、大した知識は持っていないのです。なぜなら、そもそも住んでいないわけだし、東京や大阪の旅行会社のカウンターを訪れるお客さんの訪問先リクエストは多種多様で、かろうじてハワイのことを答えられても、インドはどうか? 京都はどうか? となれば万全な対応は難しい。
ハワイ支店の人間に聞けば一瞬でわかることを、東京や大阪のカウンターのスタッフが必死になって本やネットでリサーチするという、冗談のような対応が「一般的な接客」だったのです。
お客さんからすれば「なんだ、プロでもネットで調べるのか」と期待外れだし、ハワイが好きな人や事前にリサーチしている人ならカウンターのスタッフよりも詳しい、なんてことが起きるようになりました。
つまり接客の仕方が完全にズレていたのです。
時既に遅しかもしれませんが、旅行会社は支店ネットワークを活かすのであればここを変革すべきだったのです。
つまり、
1)支店が持っている情報を全て吸い上げて、他の支店が情報として使えるように整備すべきだった。
→今までこれは支店間競争をあおりすぎて全くできていなかった。外部から見れば不思議でしかありませんが、たとえば京都支店が持っている京都の情報(観光地や取引先情報)は、他の支店にはほとんど共有されていません。
2)来店を受け付けて希望地が決まったら、現地の支店スタッフがバトンタッチして接客する
→ITツールを使えば実現できることも、今までの業務フローにとらわれてやっていなかった
に真っ先に取り組むべきでした。
今回のコロナ禍で旅行需要が一気に止まりました。本来はリストラ以外に、この2点の抜本的改革をやらねばならなかったのです。ネット予約シフトなどを慌てて進めたところで、社内にエンジニアを抱え、圧倒的スピードで開発を進める国内・海外のIT旅行社に勝てる見込みなどありません。
現地ネットワークと蓄積されたノウハウを生かした丁寧な接客を武器に、団体を含めた「失敗できない記念旅行」をしっかり掘り下げることが重要なはずです。
少なくとも、毎日各支店が持っている「地元情報」を、全国の支社にむけて提供するなどはできたはずです。
結局そこが成し遂げられず、表面的な「改革」に終始することになりそうです。
このようにして、一見外部要因でショックを受けているように見えても、もともと内在的にあった要因で「自滅する」というのが一般的な流れです。リスクは常に、外部ではなく自らの中にあります。
コロナを機に、自社の提供する価値とはなんなのか? そこに磨きをかけるにはどうしたら良いか? をゼロベースで見直すとても良い機会と考えます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?