ⅰ 家出をする



二章:障害の世界 1:福祉の横断
https://note.mu/welfare/n/n4d90d9bc54ad

問題行動。その背景。心の動き。
それはどれほど関わろうとも簡単に変わるものではなかった。
自分の支援を責めても何もならないし、利用者を叱責しても、意味がない。どのように生活環境を設定して(枠を作る、という言い方をする)
その行いの重さを伝えていくのか。

知的に障害がある以上、
利用者が理解できる概念や言語には制限があることを前提にする。

約束事を書面(書面にするにも、漢字やひらがな、
行の長さに気を遣わなければ意図が伝わる書面にはならない)にしたり、
面談で気持ちを聞いたり、新しい仕組みを生活に取り入れてみたり、
それは生活全体の試行錯誤だった。

たとえば、利用者が家出をしたとして、
その利用者に「どうして?」と聞いても、「分からない」と返ってくる。

このような応答を何度したとしても
意味のある回答が得られるとは思えない。

むしろ「仕事どう?」とか「何にイライラしていたの?」
と聞いていった方が、その輪郭には近づける。

パターンを見つけ出し、問題が生じないように生活を設定しなおす。
本人の生活に楽しみがないようだと分かれば増やしてみる。

増やしたら次の不満が出てきて文句を言い、
本人は「前にホームを出て行ったら楽しみが増えた」
ことに思い至ったならば、また家出をするかもしれない。

そういう危うさと隣り合わせで生活を構成する。

本人に分かるように説明をしながら、
(それでも、何かの不満やつまずきで、家出をしてしまうかもしれない)

その繰り返しを延々とする。
知的障害の支援とはこのような構造をしている。

パターンの繰り返しは意味づけなどの認知を含む、
学習機能が阻害されているからだと、彼らを見ていて思う。

学習機能に応じて心理的な発達が緩慢であるということでもある。

物事の構造を理解し、改善をするまでに時間がかかり、
パターンを変えない限り、その結果はいつまでも繰り返される。
パターンによっては、人一倍物事に取り組める可能性も秘めている。

具体的に何を変えるか。どうやって行動のレールを敷くか。
そのために何を考えるか。

「そういうものだから」「みんなそうだから」
という当たり前のように共有できる考え方が、
利用者にうまく伝達されないもどかしさはついて回る。

さらに、実際に改善しようとしたときに、
心が変化を受け入れるだけの器がまだ出来上がっておらず、
混乱や怒りを誘発する可能性もある。

その一連の過程は「どのような言い方(伝え方)なら分かりますか?」
という試行錯誤によって、実践としてのパターン化をいかに図るか、
という取り組みに収れんされる。


ⅱ 買い物をする
https://note.mu/welfare/n/n8f30808df26d

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