「まえがき」 「いい支援」のために勉強は必要か?





「障害について考える」目次
https://note.mu/welfare/n/nd2adea37a86e

福祉って、本当に知識が必要なものなのだろうか。

いろいろな人と福祉や知的に障害のある人の話をすると
「資格がないと関われないのではないか」とか
「勉強しないと分からない」とか言われたりする。

多くの人が障害のある人と関わっていくには
「福祉の知識」が必要で、難しいと感じているようだった。

たしかに難しいとうなずく半面、
福祉ってそのようなものだっただろうか、
とひっかかるものがあった。

知識があればいい支援ができるかと言えば、そうでもない気がするから
「知識や資格」と「支援の質」を単純に結びつけてしまう考え方に
私は違和感を持ってしまう。

たとえばボランティアや新人の頃は技術や知識がない分、
情熱や意欲だけで関わろうとするから、
豊かな心の交流が生じていることがある。

純粋な関心は素直な態度として現れるので、相手に伝わるのだ。

そういう人はたぶん
「分からない」ことを理由に難しく考えたりしないだろうし、
「分からない」からこそ「知りたい」と関わっていくのではないか。

一方で熱意はなくとも技術があれば、それなりに関わることはできる。

しかし、
それがいくら「技術的で正しく見えるやりとり」でも、
表面的な態度かどうかを、見抜く人はいる。

技術に頼っても、関心の薄さが透けて見えてしまうと、
関係性は冷めたものになってしまうし、
正しいやりとりをしているのに
なぜか信頼されなかったり拒絶されたりしてしまうこともある。

技術は必要だとは思うけれど
「それは正しくとも幸せに繋がるやりとりだろうか」と考えると
技術だけでも足りないようだ。

あたたかな思いやりや愛情をもとにした関心の高さは、
その技術の未熟さを更新していくのではないか。

志を持って働き始めたら、
「この人のために」「あなたが大切だから」という理由で頑張ると思う。

しかし、慣れや忙しさによって初心が薄れ、いつの間にか
「給与のために」や「仕事だから」という理由になってしまっても、
「技術的なやりとり」と同じことが言えるのかもしれない。

愛情や信頼などの心理的にあたたかなものが基本にないと、
利用者との関係は続いていかないように思う。

障害のある人を「理解」し、「関わる」ことは、多くの人にとって難しい。
だから、それを誰であっても可能にするものが「技術」だと思っている 。
技術とは「相手のためにどう使うか」が大切なのだ。

ちょっとした自己紹介だが、
私は社会福祉士の資格を取得後、一年半ほど学童で働き、
障害福祉施設で現在に至るまで十年ほど福祉施設で働いて、
社内の従業員の研修を担当している。

従業員の中には、福祉を学んできた人もいれば、そうでない人もいる。
新卒や中途の従業員をはじめとして、
社会福祉士養成で実習をしにきた大学生にも
「いい支援ってなんだろうね」と投げかけている。

私が大事にしているのは、
福祉に関わっていく人が、自分なりの答えが見つかるように、
「どうしていきたいか」
「どういう関係を利用者と結びたいか」
に耳を傾けて、
その質問への答えを一緒に考えたいということなのだ。

でも、仕事であり、支援である以上は何らかの「回答」は必要だから、
いつも手探りでやっている。

教えながら、私も多くのことを学ばせてもらっている。

今ではSNSで悩み相談もしていて、
福祉とは全然関係のない人の話も聞いたりしている。
必要に応じてカウンセリングのようなこともする。

いきなり悩み相談を受けることができるようになったわけではない。

私はこれまで、本当にたくさんの失敗をしてきた。
そのたびに、たくさんの方に支えられ、いろいろなことを学びとって、
なんとか今日までやってきた。

SNSで悩み相談を受けるようになって、
私が経てきた全ての経験が糧となって、
誰かの力になっているのかもしれないと気づいたとき、
私がつくってきた轍(わだち)は、
きっとこれから福祉を仕事にしようと考える、
あなたの役にも立つのではないかと思ったのだ。

それで、私は心を決めて、本を出すことにした。

たくさんのものを与えてもらった私が、
今度は顔も知らない福祉を志すあなたに、
何かできることをしたいと考えて、言葉を届けようとしてみたのです。

この本の表記について。
ここでは福祉のサービスを提供する人を「支援者」、
福祉のサービスを利用する人を成人の場合は「利用者」、
児童の場合は「子ども」と呼ぶ。
成人の利用者は作業所や障害者雇用で働く、
または入所施設を利用する軽度から中度に障害のある人を想定している。

一章 児童の世界 1:福祉のきっかけ
https://note.mu/welfare/n/n9cb060be39c3

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