悩み相談「会話が苦手です」


せっかくなので、考えてみようと思う。


「相手の叶えたい要望」を福祉現場ではニーズと呼ぶけれど、

「相手の言葉を即座に理解する方法はないものだろうか。
自分の中に湧いて来た感情を、瞬発的言語化する方法はないものだろうか。
だれかいい方法があれば教えてください。その際、気の利いたコメントはお返しできないかもしれませんが……」

今回で言うと、ニーズは「理解と言語化」になるけれど、もう少し文章全体から拾ってみる。

もう少し整理してみよう。
現在の状態=「状態像」という言い方をする。
そして困り事=「課題」という言い方をする。

そうすると、こうなる。

「状態像」
・コメントが下手。
・会話のキャッチボールができない。
・質問して応えて、また質問して答える。ただそれだけのことができない。
 一方的に自分の話をしてしまう。
・瞬間で感想やコメントが湧いてこない。

「課題」
相手の言葉を理解することで、いっぱいいっぱいになってしまう。
自分の感想を考えるどころでなくなる。
理解して、咀嚼して、自分の感想を生み出すまでに時間がかかりすぎる。

「ニーズ」
・楽しく会話したい。
・相手が喜ぶ言葉を返したい。
・相手の言葉を理解しながら、自分のコメントを引き出したい。
・相手の言葉を即座に理解したい。
 同時に、自分の中に湧いて来た感情を瞬発的に言語化したい。

以上のことを踏まえて、福祉的観点から解決策と方法論を提示したい。
これはあくまでも、「このようなやり方が正解」というわけではなく、
「あなたの悩みに対して、私はこのような提案ができますよ」、という解釈の話だということを、押さえて読んでほしい。


 会話を楽しむためには、自由なキャッチボールができることが必要だ。スポーツもなんでもそうだけれど、球技はボールを上手に扱えないと楽しくない。「球技=言語」と捉えると、楽しむために必要な技術は二つある。

「相手の言葉を理解する力」
「言葉にして相手に伝える力」

その背景にある大きな力が必要になる。それが

「傾聴力」になる。

「傾聴力」は「共感力」と「洞察力」からなる。

会話は観察から全て始まる。目の前の人のことをほめようと思ったら、まずは観察しないだろうか、髪形や服装など、気にはしないだろうか。表情や語りから、その人の心の動きを考察しないだろうか。
そして相手の語りなどを受け止めながら肯定し、支持し、頷きながら話を促して、相手に気持ちよく話してもらう空気感を演出しはしないだろうか。

ここで会話を細分化する。

1.観察する
2.考察する
3・質問する(~ですか?)/提示する(~ですね)
4.共感する(受容/肯定する)
5.質問/提示する
(4と5は繰り返しながら、1と2を水面下で行う)

会話とは表面的にはボールを投げ合っているだけに見えるが、
内面的には複数の処理を同時に行っているように思う。

 コメントが下手とは投げ返すのが下手ということだ、相手が取れるボールを投げられなければ、キャッチボールは成立しない。

 まずは、「こんな感じでキャッチボールを始めてみませんか?」という提示=挨拶から始まることになる。

 自分が相手に質問し、相手が答える。そこに共感して、そして相手が質問して、自分が答える。そして、また相手に質問して、相手が答えて、また共感する。会話とはつまり、この繰り返しだ。

 おそらくは、会話への苦手意識があり、高度なものをいきなり求めているのではないか、と察せられる。

 相手が喜ぶものを知る一番の手がかりは「想像力」だ。
「自分が相手だったらなんて言ってもらえたら嬉しいか」という想像だ。

そこから、相手が答えたものについて、あるいはこちらが見つけた肯定のポイントを伝えていけばいい。

「そのネクタイいいですね」(どこで買ったんですか?)
「物知りなんですね」(ちなみにこれはどういう意味なのですか?)
「私はこうなんですよ」(あなたはどうですか?)

人は自分の好きな物を受け入れてもらえると嬉しい。
そして、えてして好きなものは語りたくなるものだ。

その二点を踏まえて「あなたの好きな物に、私は興味があります」という関心を示しながら、それについての質問を重ねれば、自然と相手の話を聞くことが増えていく。そういう時間が得られただけで、相手は嬉しい。

気の利いたことを言うなんて、その後で。
大事なのは「あなたと話せて私も楽しかった/とても有意義な時間でした」
という尊重と感謝を伝えることだ。

キャッチボールはあなたのボールを私は受け止めますよ、という姿勢から始まる。

自分が話をするのが大事なのではなく、相手の話を聞くことが、大事だ。
関心が高い水準であれば、その前傾姿勢な態度が質問へと自然と繋げてくれる。

極端な言い方だけれど、相手の言葉は最悪理解しなくてもいい。相手の語りの中で要点となる部分を「繰り返し」たり、そこについて「もう少し聞いてもいいですか?」と関心を示していけばいい。その中で段々と明るくなってきた情報をまた「私はこのように理解しましたけれど、あってますか?」とまた繰り返して言葉にしていけばいい。

相手の話を聞く。質問する。肯定する。感想は、最後。

基本的に、相手への肯定の態度さえ伝われば、言葉は何でもいいと思っている。すごいでも素敵でもなんでも。


ここから先は、ちょっとシステマティックな話。

人によって感情が言語になるまでの時間は差がある。

その差を埋めるには、トレーニングが必要になる。

 まずは相手の言葉を理解するまでの時間を埋めるために、質問をして、情報を得る時間を作っていく。話のディティールではなく、流れに耳を澄ませる。問いは常に「ポイントはどこだ?」
 自分の湧き上がる「分からない」、に耳を澄ませて、その点をまた新たに質問していく。

次に、自分の感情が言語になるまでの時間を埋めるために。
感情は大きく分けて喜怒哀楽。
自分の感情に自覚的になることが必要だ。自分の感情について常に観察し、「今はこう思っているな」と気づいていく。
日記やこのようなノートなど、ツールを上手く使ってもいい。
 感想とは、考えるものではなく、感じ想うもの。つまりは感性の話。
だからロジックではうまく扱えない。映画、音楽、日常の様々なものについて、これはこうだああだと、自分で感じることを丁寧に扱うことがその訓練になっていく。
 感想の反射神経を得るならば、すごいおいしいたのしいうれしいなどの表面的な感想が口をついて出るようにして、その瞬間に「どこか?」とディティールや内容を問う問いかけを自分にして、倒置法的に「こういう部分が」と掘り下げていく。こういうところが身に付くと、頭の中で「すごい」など思った瞬間にタグ付けされる「こういう部分が」が言葉に出しやすくなる。
それを言語的に文法を調えて述べたら、それは感想だ。

つまり、訓練。思考と、試行錯誤と、反復練習。

そして意識すること。

キャッチボールで例えたけれど、いきなり全速力で投げる人はいない。
まずは手を抜いてボールから。優しいボールから。ゆっくりと。
そういうゆっくりとした人とコミュニケーションができるといい。
低速度の中で、じっくりとやっていく。まずは。
そういう会話のできる人がいればいい練習相手になる。

また、「こういえばよかった!」という後悔も大切なことだ。
つまり振り返り。
 振り返った時に、「どのタイミングで言えたか」を考える。
「こういえばよかった」は「こう言う」ための視点や物の考え方がある。そこに気づくのが大切なのだ。情報が一通り知れて、自分の中に降りてきて、それが深まってきたからこそ、「こういえばよかった」に気づくのである。ならば、いかに早い速度感で深めるか、つまり早期の情報収集が大事になってくるのだ。

かなりメジャーな考え方だけれど、本を読むのも大事。言葉に触れること。ここでは量より質だ。自分の中でこういう言葉が素敵だな、こういう考え方いいな、というものを落し込むような読書=努力が必要になる。それがある人とない人の語彙の差は大地と月くらいの隔たりがある。

と、こんな風にまとめてみましたが、参考になりましたでしょうか。

何かヒントになれば、幸いですし、


「え、じゃあこれはどう思う?」
「これだったらどうなるの?」

など、聞きたいことがあれば、どうぞ。


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