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巴里不思議<実話>物語

 A国人はどんな人かとB国人に聞かれたら、誰もが答えに窮するわけで、その国の国民性なんてうまくいえるわけがありません。イタリア人は女好き、日本人は礼儀正しい、アメリカ人はバカで天才だとかいった印象論は、薄く引き延ばした生地みたいなもので、その上に何が乗っているかでまったく違う料理=ピザ=人間になります。フランス人はどんな人かなんて、ぼくはわかりません。

 だからといって、このnoteで、幸福指数やら政治体制やらセックス頻度なんて話を持ち出しても、そんなものはいくらでもネットに転がっています。それなら求められるのは? やはり生の情報、体験談ではないかと思うのです。


 先日、信じられない光景を目にしました。

 夜10時頃、人影の少ないメトロの駅の階段を上っていくと、上方に下半身裸の女性が背を向けて立っているんです。コートのおかげで足までしか露出していませんが、パンツが下まで降りているので何も履いてないのはまちがいありません。

 ちょっとためらいましたが、帰るにはそこを通らなければならないので、ぼくは傍らを急ぎ足で上ることにしました。見てはいけないと思いつつも、好奇心でぼくの目は彼女に釘付けです。

 彼女のそばまで来たとき、彼女が何か言ったように聞こえました。おそるおそる「パルドン?(なに?)」と聞いてみると、紙を持ってないかというのです。そのとき、ようやく事態が飲み込めました。彼女は漏らしちゃったんだ、それでさっきから股の方をごそごそやっていたのか! ぼくは持ってないと答えながら、彼女の顔をのぞいてみました。

 彼女は見た目、普通の女性でした。20代後半、ブロンド、ベージュのトレンチコートに暖色のシャツ、ちょっとキツメのメイクですが、酔ったり薬をやっているようにも見えません。ぼくは愕然としました。こんな普通の女性が、人が少ないとはいえ公共の場で××をする、しかもぼくに紙を求めたときの彼女は、恥ずかしがりもせず、真顔でちょっと道を聞くだけのようなラフさなのです。

 ああもう、フランス人はいつもこうなのです。自分の尻拭いもせずに、平気で人にものを要求し、あとは知らん顔です。ぼくは、このショッキングな事件を忘れることにしました。そして、ここに書いておくことで、ぼくの頭がこの事件を記憶する必要のないことだと認識してくれることを望みます。

 みなさんは、これがこの街の通常の出来事ではないとお思いになるのでしょう。違うのです。このような奇妙な出来事は、日常茶飯事なのです。

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