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2020


コーヒーから立ち昇る湯気が

雪景色に混じる朝から

夏の概念すら忘れて

微熱と勘違いしてしまった夜を経て

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1.春の風 - サニーデイ・サービス

愛し合うシーンでスピリチュアライズドが流れるモダン・ライフ・イズ・ラビッシュという映画では、主人公たちの恋はヴァクシーンズのライブで燃え上がる。4つ打ちはいつだって始まりの予感に満ち溢れている。

2020年1月4日、江ノ島で鳴らされた4つ打ちから始まった恋と激動があった。

"僕を目覚めさせて 君の匂いを嗅がせて" というパンチラインで、僕の春はフランクヴェーデキントの戯曲の追憶と共に完全に目覚めてしまった。聡明な人と恋に落ちた2020年、その真意を知るのはもう少し後。

2.Operation : Doomsday Love - PUNPEE

予想に反せずDoomsday Clock(終末時計)が最も進んでしまった2020年。なんてこった。終わりそうな世界と先行きの見えないパンデミックでも、この曲があったから生き残れた気がする。"SFプロトタイピング" - 未来を予見するにはフィクションを見ればいいなんて思想の旗手は、ケン・リュウじゃなくてPUNPEEだと思う。世界の終わりの1日はすべてのカップルの1日に。人生はアップロードされて量子的世界へ。

3.バイクを飛ばして - MIZ

パンデミックで一番精神がやられてしまったのは夏だと思う。外はこんなにいい天気なのに。いつもなら一番外にいるのに。人が逃避する場所には2つあると思っていて、1つは"憧憬とゴージャス"。もう1つは"追憶とデジャヴュ”。MIZの音楽は余りにも後者で、作曲者の思い出と受け手のデジャヴュと旅行自粛のムード、すべてのレイヤーが縫われて、突出した存在だった。2020年の最後に東洋館でライブを見れたという、カタルシスを伴う点でもMIZには本当に救われた。

4.Hymn to Love - SADFRANK

「NOT WONKの加藤くんの愛の賛歌が、氷魚くんと静河さんが出演するLevi'sの広告で歌われた」広告プランナーである私にとってこの上ない崇高な事実だし、「話題になるから」なんかじゃなくて、「こうじゃないといけない」という宿命じみた義務感に駆られて仕事が出来れば本望だと思う。加藤修平くんは、勿論パンクなんて言葉では言い表せない。その歌はソウルでありポップで、でつまり人生であり音楽だ。

5.ラムネにシガレット - さとうもか

ceroのcloud nineとかもそうですが、ずっとライブで聴いてた特別な曲が音源化されるって、なんて素晴らしい体験なんでしょうか。NOT WONKの加藤くんが、僕がずっと思っていたことを複雑なまま言語化してくれたのですが、一般的に男性性が好んできたものに嫌悪感を抱き、女性性が好んできたものに魅力を感じるようになっています。さとうもかさんの歌はいつだって、揺らぐ僕のクィアを刺激してくれる。名前が付いていないこの臓器は、中学生のころに告白されてaikoの"初恋"が浮かんだときから活動を始めています。

6.Dos Dos Dos - Los Inferno

冨士夫のようにプリミティブなドラム、西くんのように暴力的で吐き捨てるようなリフとコーラス。地獄の底からスウィートな天国へ直行で昇天するような曲の構成。その特徴は完全に毛皮のマリーズやないか〜!とツッコミを入れたくなるような2分53秒がドロップされてしまった。天邪鬼な悪魔が甘い音楽なんざ奏でるから、僕はずっと志磨さんに着いていくんだよなあ。

7.感電 - 米津玄師

奥山由之が「 同い歳の"米津玄師"という人物に、このタイミングで出会えたことが、僕は嬉しくてなりません 」と言っていたポストで、魂が震えた。 奥山さんは厳密には1学年上だが、平野紗季子と遠野遥と私は、同学年同大学同学部である。食事と写真と小説と、それぞれの分野で大き過ぎる飛躍をされるとアイデンティティが揺らぐものだが、そう来たら私は音楽か広告で同列になってやろうじゃないかと寧ろ焚きつけられたものである。

8.You Might Be Sleeping - Jakob Ogawa w. Clairo

あまりにも極私的で書けることが少ない。あまりにも思い出と直結していると、書けることが少ない。

9. 誰にもわからない - 横沢俊一郎

「○○みたい」なんてのはアーティストにとって嬉しい言葉では無いのだろうが、その愛が溢れすぎると寧ろ賛美に変化するのだと思う。アンファン・テリブルという表現が似合うのは横沢俊一郎の前には七尾旅人であろう。それも、「ルイノン」や「ブルーハンティング」の頃のような、抗えない若さと美しすぎるメロディの。批判も批評もなく、「君がそう言うなら、そうなんだろうな」と認めてしまうような世界観を感じるぐらいの。アルバムの名前「絶対大丈夫」にも、「カラコンベイビー」から伝わるピクシーズにも、何か救われてしまったな。

10.優しさ - 藤井風

田島貴男のデビューを、岡村靖幸のデビューを、久保田利伸のデビューを見届けることが叶わなかった僕には到底想像出来ないが、人は圧倒的なセクシュアリティの前には平伏すことしか出来ないのだなあと思った。一番の友だちとさとうもかさんと千鳥と藤井風と。僕の2020年は岡山に支配された。


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