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エールフランス-KLMが苦境のSASに19.9%を出資し主要株主に

昨22年7月に米連邦破産法第11条を申請して会社更生手続きを模索していたスカンジナビア航空(SAS)の再建案が10月4日、発表された。
発表によると、エールフランス-KLM航空(以下AFR-KLM)と、米投資企業で航空機リース業も傘下に持つキャッスル・レイク社、デンマークの投資会社リンド・インベストの3社によって構成されたコンソーシアムが、SAS向け早期再生融資(エグジットファイナンス)の落札者に認定され、SAS創設オーナーであるデンマーク政府とともに総額11億7500万米ドル(約1749億円)をSASに出資するというもの。

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今回、SASと業務提携する形で白馬の騎士役を買ってでたAFR-KLMはそのうちの19.9%の株式と転換社債の5%を取得する。額面では1億4450万ドル(1億950万ドルが株式、3500万ドルが社債)を出資することになった。
最大の出資者は32%を出資するキャッスルレイク社(転換社債の55.1%保有)となり、次いでデンマーク政府が株で約25.8%と転換社債の29.9%を持ち、リンド・インベストは株式の約8.6%と転換社債の10%を保有すると発表されている。残りの約13.6%の資本は特定の債権者に分配され、保有される可能性が高い。

一連の取引は来24年の第2四半期(4-6月)中に完了する見込みである。ただ、今回AFR-KLMが買い取ったSAS株式19.9%は“非支配株”と呼ばれるものだが、現地情報によれば、契約条項には少なくとも2年後にはAFR-KLMが支配株主になれるような株買い増し条項などが含まれるとされている。

また、SASは現在、航空アライアンスとしてはスターアライアンスに所属しているが、今回AFR-KLMグループの一員になったことにより、AFR-KLMが属するスカイチームに転籍することになる。スターアライアンスから創設メンバーが脱退するのはこれが初めてのケース。

SASのアンコ・ファン・デル・ヴェルフCEOは今回の再建への出資計画が固まったことについて、次のようにコメントしている。
「合意された投資は当社のSAS FORWARD計画における重要なマイルストーンであり、当社の今後に明確な道筋をつけてくれるもの。このプロセスの完了とスカイチームの一員として提供される機会を通じて、SASの明るい未来をAFR-KLMと一緒に築いていくことを楽しみにしている」

AFR-KLMのベンジャミン・スミスCEOも、「当社は、SAS理事会によって選ばれた落札コンソーシアムの一員であることを嬉しく思う。SASのスカンジナビアで確立した地位と強力なブランドはAFR-KLMに大きな可能性をもたらします。この協力によりAFR-KLMは北欧における地位を強化し、スカンジナビアとヨーロッパの旅行者の接続性を向上させることができる」と、SASとの資本提携によるメリットを高く評価した。

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SASスカンジナビア航空は1946年に、デンマーク/ノルウェー/スウェーデンの北欧3ヵ国の航空会社が合併し、3ヵ国政府が共同出資する形で発足した。創立からわずか5年後の1951年には日本にも路線を開いており、馴染みの深い航空会社である。
しかし、近年は経営難が続いており、再建方式についてもオーナーが3ヵ国にわたることから融資調整などが難しく厳しい財務状況が続いた。その後、ノルウェーとスウェーデンが追加の融資を断りSAS経営から撤退したことで、同社は昨22年7月に米破産法11条に基づく会社更生手続きの適用を申請していた。

このときには米投資会社のアポロが7億ドルを融資して救済していた。今回、この融資を株式に転換し、AFR-KLMを含むコンソーシアムがそれを引き受ける形で出資がなされると見ていい。この出資計画が固まったことで、SASの再建計画がようやく米チャプターイレブンの裁判所による審理に乗ることになる。

周知のように、ヨーロッパの空では欧州ビッグスリーが覇権を争っている。ブリティッシュエアウエイズやイベリア航空などを傘下に擁するインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)と、ドイツのルフトハンザ航空、仏蘭合弁のAFR-KLMという3大航空会社である。
このうち、ルフトハンザはつい最近、イタリアのITAエアウェイズを買収して傘下に収め、欧州南部での勢力を拡大した。それに対抗して今回、AFR-KLMがSASを獲得して欧州北部へのネットワーク強化を果たして一矢を報いた。欧州での航空三国志の戦いはまだこれからも熾烈になりそうで、次は民営化へ動くTAPポルトガル航空をビッグスリーのどこが取り込むのかが注目されているところ。

2023年10月10日掲載

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