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アラスカ・アンカレッジ空港、2億ドルかけて貨物施設の拡張へ

北米大陸最北の航空貨物拠点として知られる米アラスカ州アンカレッジ空港が最近、その地政学的な立地と潜在的な貨物ハブとしての成長性によって、再び脚光を浴びていることをご存じだろうか。
ロシアによるウクライナ侵略戦争以降、西側諸国と歩調を合わせる日本はロシアのシベリア上空通過ができなくなったことで、ヨーロッパへ向かうのに南アジア回りか、あるいは逆回りのアラスカ・アンカレッジ空港経由で北極回り(ポーラールート)で行くしかなくなったためである。

一方、貨物機に関しては、上空通過料を取られるシベリア経由よりも、昔からのアンカレッジ経由が主流であり続けたのだが、国際貨物便が増加傾向にあったところへ加えて、上記の理由で旅客機の寄港も増えてきたことで、同空港の手狭感が高まったのは致し方のないところ。

そうした傾向に背中を押されてか、米連邦政府はこのほど、アラスカ州のテッド・スティーブンス・アンカレッジ国際空港の南端キンケイド・パーク近くに、2億ドル(約290億円)を投じて新たな貨物ターミナルを建設することにゴーサインを出した。
地元紙によると、この計画は「ノースリンク・アビエーション・プロジェクト」と呼ばれ、世界最大の貨物空港のひとつであるアンカレッジ空港に新たな雇用とジャンボ貨物機用の駐機スペースを追加する重要な開発とされている。同空港ゼネラルマネージャーのクレイグ・キャンベル氏は、「このプロジェクトはここ数年で最大規模の当空港の新規開発となるだろう」と述べた。

計画では、80エーカーの駐機場、貨物の保管と仕分けのための9万平方フィートの上屋施設、15基のハードスタンド(燃料を補給したり電源を接続したりできる貨物機用のスポット)が建設される。
すでに滑走路からノースリンク・プロジェクト区画までの誘導路Zの延長工事が開始されており、アクセス道路建設のための測量作業も8月下旬から始まった。ジャンボ機用の駐機場は来2024年10月までに運用開始する予定。貨物施設は25年10月までに完成を見込んでいる。

ジャンボ機が集結する“北のフレイター拠点”として名高いアラスカ州アンカレッジ国際空港

この貨物施設の拡張は、急増する電子商取引(EC)貨物と特急貨物の輸送需要に対応することが主な目的とされる。したがって、フェデックスがアラスカ地域の仕分け施設を追加するために事業を拡大したり、アラスカ・カーゴ・アンド・コールド・ストレージが米国郵便局の西側に大規模な貨物輸送と冷蔵施設の建設を進めたりする計画などが、このプロジェクトに含まれている。そのほかにも、貨物施設の使用に関して大手の国際貨物運送業者と複数年契約を結んだとしている。

ほぼすべての先進国から10時間以内の飛行距離にあるアンカレッジ空港は、コロナ・パンデミック中に貨物出荷量が増加するにつれ、世界の貨物ハブとしての地位を急上昇させた。昨22年、香港とフェデックスが拠点を置くテネシー州メンフィスに次いで、世界で3番目に通過貨物が多いハブ空港となったのである。

ノースリンク新貨物施設が完成・稼働すれば、アジア諸国からのラップトップなどの家庭用電化製品や特急貨物について、同施設内で通関手続きができるようになることを期待して、関係者がもっか米国税関・国境警備局と協議している。ここで通関が済めば、そのままアラスカ州内はもちろん、ロワー48(アラスカを除く本土48州のこと)へ国内輸送が可能になる。
「それによってロサンゼルス国際空港などの主要な米国ゲートウェイ空港の混雑が緩和されるわけです」と関係者は語っている。

米連邦航空局(FAA)は今回のゴーサインを出した決定の中で、「同空港は現在アンカレッジ市で7人に1人の雇用を提供し、18 億4000万ドル(約2670億円)の経済利益を生み出している」としたうえで、「この貨物施設の追加は恒久的な雇用機会を創出し、アラスカ州に長期的な経済成長をもたらすだろう」と期待した。
このノースリンク貨物施設が完成した暁には、アンカレッジ空港は単なるテクラン(燃料補給や乗務員交代のためのテクニカルランディング)のための空港ではなく、フレイター運航ビジネスのためのフルサービス拠点として活用されるようになるとFAAは指摘している。

2023年8月29日掲載

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