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ワクチン:22年は輸入量・額とも過去最高に

今、動きのある航空貨物の品目を様々な視点から解説する”エアカーゴ専科”。
今回のテーマは「ワクチン」。

温度管理が厳密で短時間で輸送しなければならないワクチンはほぼ航空で運ばれている

日本の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、2020年4月に同ウイルスのパンデミックに対する緊急事態宣言が発出されてから現在まですでに3年が経過した。この3年間に8回の感染拡大と縮小を繰り返しながら、本23年5月には感染症法上の位置付けが5類に移行し、マスクの着用も個人の判断が基本となるまでとなり、徐々に社会は回復軌道に乗りつつある。

そしてこの間、重要な航空貨物として急台頭してきたのが新型コロナワクチンである。20年末に米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した同ワクチンが世界で初めて英国で承認され、大規模接種が開始された。21年以降は、ファイザーのワクチンを含め、WHO(世界保健機関)が英アストラゼネカ、米モデルナなどの新型コロナワクチンの使用を承認したことで、世界各地でワクチン接種が進むことになり、緊急性の高いエアカーゴとしてコロナワクチンが世界の航空路を縦横に輸送されることになったわけだ。

日本で使用する最初の新型コロナワクチン(ファイザー製)がANA機によってベルギーから輸送された

日本での接種について

日本では、ファイザー製のワクチンが21年2月に薬事承認され、同月より接種が開始となった。
また、モデルナおよびアストラゼネカのワクチンも同年5月に薬事承認されて接種が開始されており、これら3種のワクチンの合計でこれまでに3億8963万回も日本人に接種されているという(23年5月30日時点)。
1回目接種は1億471万回で接種率81%、2回目接種は1億340万回で同・80%、3回目は8652万回で69%となっている。季節性インフルエンザの予防接種の接種率が小児で50~60%程度、高齢者で40~70%程度というくらいなので新型コロナワクチンの接種率はきわめて高いと言える。

日本の輸入相手国と貿易統計

主要なワクチン供給国の輸出が軒並み増加したのは21年からだったが、22年の日本のワクチン輸入相手国を見ると、1位がベルギーで6000億円・101.8トン、2位がスペインで3545億円・64.8トン、3位が米国で362億円・51.5トン、次いでアイルランドが253億円・38.6トン、フランスが89億円・103.8トンとなりこの5ヵ国で輸入額全体の98%を占めている。

この5ヵ国で全体の9割以上を占めている

ベルギーにはファイザーとモデルナなどの欧米製薬企業の拠点があることから、コロナ禍以前から主要なワクチン供給国であった。21年に入り新型コロナワクチン生産がベルギーで急ピッチで進んだため、同国からのワクチン輸出額を押し上げている。同じく、スペインにもモデルナの製造工場があることから2位につけたもの。

税関の貿易統計としての日本のワクチン輸入について見ていこう。
19年は394.7億円・200.7トン、20年は548.7億円・215.9トンだったが、21年になると6794.8億円・252.8トンと跳ね上がり、さらに22年は1兆413.8億円・361.1トンと数量・金額ともに過去最高となった。

2021年から急激に量、金額が増加した

統計上のワクチンについては「人用ワクチン」と括られているため、上記の統計はインフルエンザを始め、全疾病のワクチンを含んでいるので、新型コロナワクチンだけを取り出したものではない。
ただし、新型コロナワクチンの開発は20年に開始されているから、上記の統計では21年以降の前年より増えた数字、すなわち額面で12倍になった分のほぼすべてがコロナワクチンであると判断して良いのではないか。

今後のワクチン輸入について

冒頭で触れたように、日本では5月8日から感染症法上の5類に移行し今後の新型コロナワクチン接種については、厚生労働省は無料での接種を2024年3月まで継続し、重症化リスクの高い人などは5月からと9月からの年2回の接種を行うほか、重症化リスクの高くない人も9月から接種を行う方針で、本年9月からのスケジュールや使用するワクチンの種類については今後、ウイルスの変化なども考慮して決定するとしている。

世界的には、コロナ後の経済再開と通常生活への復帰がすでに軌道に乗りつつあり、日本でも5類への移行でワクチン接種する人が減少するのではと観測されているため、今後、新型コロナワクチンの輸入量自体は減少する傾向にあるかもしれない。しかし、例えばユニバーサルワクチンと呼ばれる、様々な変異株に対しても有効性を持ったワクチンの開発なども行われているほか、新型コロナはワクチン接種や自然感染によって免疫を獲得しても、しばらくすると免疫力が低下するという特徴があるため、まだ極端に減少することはないはずだ。
今後も引き続きエアカーゴの重要な品目であり続けるだろう。

2023年7月4日掲載

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