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二地域居住のススメ(つづき2)

サンフランシスコ(シリコンバレー地域)で20年近くを過ごしたあと、僕は90年代の終わり近くにマンハッタンに引っ越すことになった。それまでのサンフランシスコ~東京という二地域居住は、マンハッタン~東京へとさらに距離を伸ばすことになった。

米国の西海岸と東海岸は距離的にも離れているが、文化的にも別の国かと思えるほど異なる点が面白い。ちなみにサンフランシスコ(SF)とNYは飛行機で片道約5時間の距離。ところがこの東海岸地域と西海岸地域の間には3時間の時差があるので、NYからSFと移動する場合、朝9時にNYを発つとSFに着いたときにはすでに夕方の5時になってしまう。アメリカはデカイ。

引っ越し以前もマンハッタンへは仕事で頻繁に来ていたが、生活するのは初めて。まず住居を決めなければならない。あちこち探しまわったあげく、マンハッタンでの住居はアッパーウェストの72丁目にある(日本風に言えば)マンションの14階に決めた。セントラルパークもすぐ近くだし、何よりもジョンレノンとオノヨーコの住まいがあったダコタハウスの斜め向かいという絶好のロケーションが気に入った。(このビルの一階には昔日本のドラマで有名になったカニ料理の店「Side Walker」が入っていたが、当時すでにテナント替えの工事が進んでいた。)

西と東では街の色もファッションも違っている。真冬の地下鉄に乗れば、乗客の大部分が黒っぽい都会的な服装であるのに、僕一人だけがライトグリーンのダウンジャケットと超カジュアルなのでとにかく目立ってしまう。カリフォルニアではみんなニコニコ顔が当たり前だったスーパーのレジおばさん達も、マンハッタンではその多くが黒人の比較的若い女性で、なぜかいつでも怖いほど不機嫌なのだ。

気候も全く違う。サンフランシスコは一年を通して15~18度くらいで涼しく、毎日晴天、さらに空気は乾いていてすごくさわやかだ。ところがマンハッタンでは冬はずっと0°以下の状態が続くし時には大雪も降る。夏場は日本以上に暑く、おまけにものすごい湿気!サンフランシスコの乾いた気候にすっかり慣れてしまった身体にはけっこう辛い。さらに備え付けのエアコンはものすごい音を立てるのにまったく室内を冷やしてくれない。おかげで仕事は近くのスターバックスに資料やPCを持ち込んでするのが日常になった。

それでもマンハッタンが魅力的なのは、ここに世界の(あらゆる意味で)先端的な1%の人々が生活しているということ。その人たちが創りだす文化がマンハッタンにはギューギューに詰まっている。大都会という視点で東京とマンハッタンを比較すれば、それほど大きな違いは無いように思えるかもしれない。ところが東京ではその文化の大部分が若者によって創りだされ、そこからは「暮らし」「生活」という要素がほぼ欠落してしまう。それに対してマンハッタンでは、若者と同じくらいに大人がパワフルなので、そこに大人の「暮らし」や「生活文化」があるのが大きな魅力だ。しかもそれをリードするのが世界の先端にいる1%の人々だという事実はすごい!東京~マンハッタンという二地域居住は僕の中に新しい価値観を積み上げていった。

写真キャプション:ここがマンハッタンでの住居。入り口にはドアマンが交代で24時間詰めていて、入居からひと月くらいの間、あまりにもニューヨーク的でない半ズボンとTシャツの僕は「そこのチャイニーズデリバリー、勝手に入っちゃ駄目だ」としょっちゅう呼び止められた。

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