二地域居住/Dual Habitationのススメ
40年以上昔の話。まだ学生だった頃、仲間が集まり信濃追分に家を建てた。廃材を利用して三角パネルをたくさん作り、それらをボルトでつなぎ合わせて円形の屋根に組み上げるドームハウスだ。計画立案者である造形大の友人が設計図代わりに紙で作ったペラペラな建築模型は、20才の僕にはものすごく魅力的に映った。
週末や夏休みを利用して建築作業は続けられ、夜は現場横のテントで寝た。2年ほど過ぎて完成した廃材ドームの外観はどう見てもバラックそのものだが、直径10mほどもある円形リビングの中心にはダルマストーブがあり、その半分の広さの二階が寝室、吹き抜けの壁は全面ガラス窓という、若者たちのアジト(もう死語だろうね)としてはなかなかの家だった。
常にどこからか雨は漏ったが、若者6~7人が暮らすには十分な環境で、年に数ヶ月間はそこで過ごすようになった。ドームがあったのは幹線道路から未舗装路を車で10分ほど奥に入った辺鄙な土地で周囲に家もなく、学生バンドの練習にもうってつけだったのだ。
この家が僕にとって最初の二地域居住(Dual Habitation/DH)体験となる。その後大学を出て米国に移住してからも、そして東京に戻ってきて以降も、DHはほとんど「くせ」となってとぎれることなく続いている。本当は多地域居住(Multi Habitation)が理想なのだが、何よりも経済的な事情から二地域になっている。
DHにおいて重要なのはそれぞれの土地で普通に生活し仕事もすること。日常生活をそのまま移動させて生活し、必要に応じて仕事もするのだ。僕の仕事ならネット環境さえあれば、何も困ることはない。避暑・避寒目的のいわゆる「別荘」とはその点で大きく違う。異なる環境と、そこでの暮らしに伴う様々な交流やそれぞれまったく異なる時間の流れが自然に視座を広げてくれ、両方の「暮らし」そのものを俯瞰的に見られるようになる。
学生時代に何も考えずにごく自然に始まり、その後今に至るまで半世紀近く続いているDH生活で積み上げてきたplural(多元的)な経験が、僕の価値観や発想のベースにあるのは確実だ。
人口減少の影響もあり、あちこちの別荘地に低価格な家が放置されているというニュースをTVが伝えていた。今こそチャンスだ!二地域居住、すべての人にオススメです!
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