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競馬とボードゲーム

2022年のセプター競馬部は、新春金杯戦と (後付けで) 称して、1月5日、今年最初の重賞レースである中山金杯と京都金杯を対象にした勝負を行いました。

その結果、京都金杯では参加した15人中2人しか的中せず、中山金杯に至っては的中ゼロという結果でした。

どうしてこんなことになったのでしょうか。
レースが荒れたから?
有力馬が回避したせいで予想しにくかった?

違うと思います。
おれは選択肢の少なさ雑賭けが原因ではないかと考えています。

そしてそこから、競馬をボードゲーム的に楽しむこと、ボードゲーマーにとって競馬がなぜ楽しい遊びになりえるのかという話をとりとめなく考えてみたので、今回はそういう話を書きます。

金をリソースにしたゲーム

まず競馬というゲームの性質について考えてみます。

競馬は「自分の金」というチップ (リソース) を使って勝負し、戻ってくる「配当金の多寡」「収支の良さ」「回収率」などを争うゲームであると言えます。

どの数字を重視するかはプレイヤー次第ですが、一般的には百円が千円になって10倍になったと喜ぶ人よりも、1万円が2万円になって1万儲かったと喜ぶ人のほうが多いのではないでしょうか。

この「たくさんお金が欲しい」という身もフタもないゲーム目的に対し、もし掛け金に上限を設けずに複数人で勝負してしまったら、金持ちが有利になります。なにしろ使えるリソースが最初から違います。ゲーム外の要素で有利不利が決まるボードゲーム、最悪ですね。

だからセプター競馬部では、GIレース限定の勝負を行い、1レースにつき3千円という上限を設けて、その枠をはみ出さずに買った馬券で勝負しています。皆が上限を守って馬券を買って、そこから得られた配当の合計が一番多い人がシーズン勝者となる。そういうルールです。

もちろんその3千円だって、ある人はお小遣いギリギリかもしれませんし、ある人は余裕の端金かもしれませんが、それでも金持ちが無制限に注ぎ込めるルールで勝負するよりずいぶんマシでしょう。

この縛りを作ることで、セプター競馬部では、競馬をボードゲーム的に競う楽しい遊びとして成立させることができているのではないかと考えています。

ボードゲームの楽しさ

楽しいボードゲームとは何かを考えるために、逆にどんなボードゲームが楽しくないかを考えてみます。軽く考えてみて、こんなものが浮かびました。

  • 運だけで決まる

  • 反射神経だけで決まる

  • 遊ぶ時間が数秒で終わるくらい短い

  • 他人の手番を待っているだけのダウンタイムが極端に長い

  • ルールが不公平である

  • ゲーム外の要素で有利不利が大きく変わる

  • 最強の手が決まっていて、毎回それを選べるので、毎回引き分けになる

  • 攻略され尽くされていて、先手後手が決まった瞬間、実質的な勝負がついている (MoMaの冬)

上記のほかに、プレイヤーに起因する理由もあります。

  • 暴力で物事を解決するプレイヤーがいる

  • 協力ゲームなどで、他人に指図し、自由な行動を妨げる

  • ゲームを放棄し、適当な行動しか取らないプレイヤーがいる

などなど。まあもっと沢山並べることもできますが、それが目的じゃないのでこの辺で。

これらを逆転させれば、面白いゲームになるでしょうか?
ちょっと考えてみましょう。

  • 運や反射神経だけでなく、思考が必要になる

  • 遊ぶ楽しさを感じられる適切な長さの時間がある

  • 他人の手番を待つダウンタイムが短い

  • ルールが公平であり、ゲーム外の要素で有利不利が変わらない

  • 最強の手が決まっておらず、幅広い選択肢がある

  • 攻略に終わりがなく、常に研究を続ける余地がある

  • 暴力や他人への指図など、非協調的なプレイヤーがいない

  • 全てのプレイヤーがゲームに積極参加している

まあ上記だけで「イコール、必ず良ゲー」とは言えないとは思いますが、すくなくとも真っ当なゲームが備えていてほしい要素ではあるかと思います。

上記のうち「ゲーム外の要素で有利不利が決まる点」は、セプター競馬部では上限金額を定めることで解決しました。

他の要素はどうでしょうか?

遊ぶ長さは、おれは短いとは思いません。各自が独立して同時にアクションできるのでダウンタイムはなく、ルールは公平です。そしてセプター競馬部には、変な買い方をする人はいますが、他人に変なことをする人はいません。恵まれたコミュニティです。

ではあとはゲームとして優れているかどうか、ですね。
優れていると思うので、その理由を書いていきます。

競馬は優れたボードゲームだ

セプター競馬部のような手段で金持ち有利という点さえクリアしてしまえば、競馬は実に優秀なボードゲームとして、仲間同士で一緒に遊ぶことができます。

まず、複雑な要素が絡み合う競走馬という「コマ」のあらゆる属性を材料に推理して、その実力を評価します。そして競馬場という「フィールド」の特性を考えて、実力をどの程度発揮できるかを計算します。

そしてレースがスタートしたら、どんな「ゲーム展開」になるかを推測します。性能の違うコマが同時にスタートした時、序盤はどの馬が先行しやすいか。騎手はどんな作戦を実行することが多いか、ゴール前ではどの馬が最後まで粘れるか、などなど。

それらの予測を基に、馬券の買い方という「戦術」を考えます。1着を当てるだけでなく、3着までに入りそうな馬を予想して、様々な馬券の種類があるものを組み合わせて購入します。

この時重要なのは、ゲーム目的はあくまで自分のリソースを増やすことであり、決して勝利する馬を予想することが目的ではないということです。

競馬には、3着以内に入る1頭を当てる「複勝」や、同じく3着以内に入る2頭を当てる「ワイド」などもあります。必ずしも1着を当てるだけの買い方しかないわけではありません。

予想が絞りにくい場合、1着2着になりそうな何頭かを選んで、その組み合わせを全部買うという買い方もあります。戦術はひとつではないのです。

そして大事な点。賭け系のボードゲームは世の中に沢山あり、制御できないダイスやカードなどのランダム要素に頼るものがほとんどですが、競馬は違うというところです。

競馬のレースは、あらゆる事象が生物の行動や物理現象として決定され反映されます。極端な話、すべての要素を正確に把握する「神の目」があれば、完璧な推測によって全てのレース結果を当てることができるでしょう。

残念ながら人間の知能ではそこまで及びませんが、それでも長年の研究によって知識と経験を蓄えている人は、全くの直感で勝負する人より、長期的に見れば勝っています。競馬は運を実力でねじ伏せられるゲームなのです。

どれだけ攻略しようとしてもしつくせないほど複雑な要素が絡み合う。しかも毎週新しいコンテンツパックが追加され、どんどんデータが更新され、同じレースは二度とないのです。こんなゲームはなかなかありません。

あなたも良かったら、ぜひ一緒に競馬を楽しんでみませんか。

金を賭けずに競馬を遊べるか?

メインの話題は書きつくしました。
最後に、新春金杯戦の反省に絡めながら、競馬で金を賭けずに予想合戦した場合に楽しめるか、考えてみます。

冒頭に書いた通り、両金杯があまり良い結果にならなかったのは選択肢の少なさ雑賭けが原因ではないかと考えています。

まず、レースに使える上限金額を1千円としたことで、いつもの3千円では最大30通りの買い方ができるのに、今回は最大10通りの買い方しかできませんでした。

選択肢が少ないことと、使う金額が少ないことで負けても懐の痛みが小さいことで、いつもより真剣に予想せず「おみくじ感覚で新年の運試しをしてみよう」という人もいたのではないでしょうか。

競馬の楽しみ方という点では、楽しみ方は人それぞれなので、雑に賭けるのも自由です。ですが「同じ卓を囲んだ対戦相手と真剣勝負するボードゲーム」として楽しむなら、自分のできる範囲で予想を立ててくれたほうが、より楽しめるんじゃないかと思います。

誤解してほしくないのは、全員に「競馬専門グリーンチャンネルを契約して丸々1週間使って全出走馬の調教動画と過去戦績と血統を研究して真剣に予想せよ」と言っているのではありません。そんなことは誰にもできません。

おれは単に、競馬というコンテンツをボードゲーム的に楽しんでくれる人が増えてくれたら嬉しいだけで、ギャンブルとして楽しみたい人、運試ししたい人もそのまま付き合ってくれてくれて全然オッケーです。

そもそも両金杯が散々な結果に終わったからといって、別に楽しくなかったわけではありません。みんな盛大に爆死して、ああ愉快。今年もひどい年になりそうですねと笑いながら、酒のツマミにさせてもらいました。

そして思ったのは、やはり身銭を切っているというヒリつきは、この競馬というコンテンツを楽しむスパイスとして大きいのだなということ。

1千円ではヒリつきが足りず、かといって1万円では皆の眼球の毛細血管が心配になる。3千円というのは、スパイスの面でも、そして最大30通りの買い方ができるというボードゲーム的側面からも、良い落としどころだったのではないかと改めて思いました。

世の中にはきっと、お金を賭けずに競馬を楽しめる人もいると思います。たとえば麻雀。某検事や某警察官のように図書券を賭けなくても、ゲームとして楽しんでいる人は沢山います。

それに何よりボードゲーム。周囲の同世代であまりゲームしない人には何度説明しても納得してもらえないのですが、われわれボードゲーマーは賭けたりせず、酒も飲まず、いい年の大人がシラフで真剣勝負を楽しんでいます。

だから競馬もお金を賭けずに楽しむ道があるんじゃないかと思います。思うんですが、おれは多少のスパイスが効いている楽しさを既に知ってしまって、今のところ賭けずに楽しむ境地には戻れない気がしています。

沼にハマってしまったことを嘆きながら、今年も競馬を楽しんでいきたいと思った新春金杯戦でした。

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