サヨナラ工学


この気持ちは忘れちゃだめだ、そう思った。

かっこいい文章じゃない。ありのままの今の気持ちを忘れないうちに書き綴りたかった。

ちょうど24時間前に起きた出来事。俺と彼女の間に起きた出来事。


約3日間、連絡が取れない日々が続いてた。その日まで違和感なくLINEは毎日続いていた。前のデートは一週間前の日曜日。それなのに連絡がとれない。LINE以外にも、メール・インスタで繋がっていたから全ての手段を使って連絡を試みる。一向に連絡がない。

俺は心配になって(事故に巻き込まれたのか、連絡手段がなくなったのか)一人暮らしの彼女の家に向かった。

24時前。あと一駅が長かった。ホームについたら走って改札を通り抜ける。彼女宅前。胸の高鳴りを抑えつつ階段をかけあがる。ドアの前。

いろんな展開が頭の中を巡った。別れるのか?男がいるのか?無事、いつもの通り家にいるのか?仕事でいないのか?

でも俺は、「連絡できなくてごめん。来てくれてありがとう!会いたかった!」の返答を信じていた。だってこの前まで普通にデートして、エッチもして楽しい時間を過ごしていたのだから。

ドアを開けると二重ロックがかかっていた。ガツンと夜中に響く音。それと同時に今まで見たこともない彼女の顔。悲しそうな顔。俺は部屋に入れてもらえず、そのまま外で話すことになった。

無言で夜道を歩く。二人で夜中アイスを買ったコンビニ。あの時はどんなアイスを買おうね!パピコにしよう!そんな会話をしていた。いま隣にいる彼女はなにも言わない。浮かない顔。それだけで俺にとっては十分ほど伝わってくる。楽しい記憶が余計に俺を苦しめる。

しばらく歩くと公園についた。雨あがりのベンチの水滴を丁寧にふいて腰掛けた。


「別れたい。」


彼女はそう告げた。無言で歩いてるときに覚悟は決まっていたから動じなかった。「話を聞かせてほしい」そう告げると彼女はしばらくの間を開けて口を開いた。

「実は彼氏が家にいるの」

「人としては大好きだけど、彼氏としては見れなくなった」

「UCがどんなことを考えてるのか、いまもよくわからない」

全てのことばが重く、深く突き刺さる。

この子は俺のこと知ってくれてる、そう思ってた。複数恋愛を開示して付き合った子で、そのあと一度別れたが再び付き合うことになった。一度別れを乗り越えたんだからもう平気だ、そう思ってた。

でも俺のことがよくわからない。男として魅力が劣った、少なくともいま家にいる彼氏と比べて。good geneではなかった自分。

将来子供のことを考えると俺じゃない。俺との未来は考えられない。突き刺さる言葉。

それからたくさん話をした。恋愛工学に出会って初めての失恋。これまでの俺とは違う。感情を抑えて丁寧に彼女の話を聞いて、強がって、カッコつけてそれに答えていく。でもなんか違った。いまこの場でもカッコつけて、スカした態度で動じずに話し合いをして別れることになっても俺は後悔しないのか?

俺は他にも女がいるから大丈夫。星の数ほど女はいる。この子に執着するべきじゃない。

頭ではわかってるのに本心じゃない。全く違う、俺はここで強がったら後悔する。思いの丈を伝えないと。言いたいことを言わないと。

思いつくままに言葉をだしていく。かっこよくない言葉。文章になってない言葉。でも伝えたいことはこの先も彼女と一緒にいたいこと、いまも大好きであること、それだけだった。それをいろんな言葉で伝え続けているだけだった。

俺の話を聞いてる間、彼女はうん。うん。と聞いてくれていた。

俺はこんな状態でも、彼女の考えが変わるかもしれない、そんな期待をせずにはいれなかった。

複数恋愛に少し傷ついていた彼女。別れたあともう一度会えた時、この子を大切にしなきゃ、そう思った。彼女がきっかけで複数恋愛をやめた。俺だけが楽になって、大切にしてる子を傷つけたくなかった。確かに裏では遊んでるけど、会っていない時間も考えてしまうのはこの子だけだった。見た目が好み、一緒にいて楽しい、そうやって言葉にできるものだけじゃない。言葉を超えて彼女の存在が好きだった。

感情に対して、痛いほど向き合うとこんな気持ちになるんだ。そう思えたのは初めてだったかもしれない。俺は傷つくのが怖かった。だから言葉で、理論で、恋愛工学で武装して自分を守った。裸で向き合うのは怖かった。裏切られるのが怖かった。女の言葉は信じない。行動だけを見ろ。そんなの分かってるんだけど、目の前にいる彼女の言葉を聞いて、その言葉を信じない、なんてことは出来なかった。だから俺も本気でぶつかった。きっと、恋愛工学を学んで以来はじめて。「その彼氏と別れて俺だけを見て欲しい。」こんなダサいこと、人生でも言ったことなかったのに。でもそれが本心だった。スカしてる場合じゃないから。

三時間くらいかな、それくらい話し合いをした。

それでも彼女の気持ちは変わらなかった。分かってる。いままで女が別れ話をしてくる時は、鉄より硬い意思で決断して男に伝えていることを。それでも俺は最後まで信じていた。やっぱり私にはあなたしかいない。そんな言葉を。。。

もう今日ここで別れたら、それがお別れ。

二人でそう決めた。

そう決めると彼女との思いが走馬灯のように思い出された。

はじめて会った日。はじめていったデート。二人で行きたい街を決めて、行きたいレストランも決めて。土曜日は彼女の家で目覚めて。歯磨きをして、支度して。キスがしたくなったらキスをして。二人しておしゃれして手をつないで家をでた。仕事が遅くなっても待っててくれた彼女。二人で遅めの夕食をとろうとしたけど、もうラストオーダー終わってて。ビールしか飲めなくて。それでも二人で家に帰って身体を重ねて。どちらかが旅行の時は、テレビ電話して長電話して。すっぴんの彼女をいじって。笑いあって、お互いの顔をみて、声を聞くと安心して、そんな日々が本当に幸せだった、別れるなんて考えてなかった。これからもずっと一緒にいるつもりだった。。。

これを書いてて涙が止まらない。楽しかった時間が俺を苦しめる。情けないくらい彼女が好きだった。苦しい。

次の恋愛はまだ考えられない。




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