くだらない

  罪の告白。

 愛に、執着していた。そしてその基盤は、無償の愛 アガペーであった。神格化された愛の形を本物の愛と呼び、しばしば他人に対してそれを求めていた。

 彼の名前は笹木と言った。彼は、お調子者で、快活そのものだった。しかし、私は彼の内面を感じ取り、彼のうちに秘められた哀愁、彼は、道化を演じているのだ、と気付いた時、彼を心の底から愛慕した。

 彼との時間は実に意義深く、恍惚として彼の話に聞き入った。彼は実に理知的であり、自身が求める人間の在り方そのものであった。私は熱心に彼と接触し、彼のことをより深く知ろうとした。そして彼もまた次第に、私に対して理解を示し、互いに敬愛する仲となっていった。私達は、唯一である。そう確信を持っていた。

彼も、時折愛について自分の考えを口にしていた。やはり彼もまた、理想の愛があり、それはアガペーに基づいていたのである。

互いに惹かれ合い、私は彼に強い信頼を置いていた。同時に、彼もそうである、そうであって欲しい、という願望、私が願う本物の愛とは程遠い、実に欲深く、醜悪な感情を持っていたのも、事実であった。


邯鄲の夢。

何かが違う。何かが、今までの彼と。

私は、やはり、と思った。茫然自失、まさにその状態である。薄々感じていた 嫌な気 その予感が見事に的中した。私は自らが置かれたこの境遇を自嘲し、ただその行末を傍観することしかできなかった。

 果して、無垢の信頼心は、罪の原泉なりや。

 無垢の信頼心は、罪なりや。

 ああ、そうだとも。神は罪だと仰っていた。そうに違いない、そうでなければ、何故こんな仕打ちに?考えれば考えるほど、今や汚されてしまった信頼心が憎らしいと思えた。沈痛なる人生。もう、ここから先は坂を転がり落ちるのみであった。

彼は見透かしていたのだ、私のこの醜い欲望を、見透かしていた。見透かし、そして言及する事なく、嘲笑していたに違いない。

その程度、やはり私も所詮人の子であり、神の持つ無償の愛とは程遠い、醜い欲だらけの愛情しか抱けない。煩い、煩い、そして私が本物だと思っていた彼からの愛もまた、やはり所詮、所詮なのであった。


やはり私は孤独に生きなければならぬ、真白が無いのならば、真黒に生きねばならぬ。

堕落して、ただ死を待つのみであった。

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