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朧気な水中

漂っていた。辺り一帯シクラメンの香りが広がり、無洗米の彼は「そうじゃないなあ」と頻りに呟く。彼の着る麻布製薄ら寒いTシャツ、仏様が糸を引くように地上へと引き付けられ、背中側の布が彼の背骨から脇腹にかけてびっちりと張り付いていた。
陽光を透かすみなもが山岳のように揺蕩い、しかしある1点で裂けている。その中は光を全て吸収した夜闇。平面か空間か判別し難いほどの闇。むしろ黒。
私は私たちはそんな黒から落ちてきた、この水中まで、そして浮かびゆくのみ、一目散。

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