矮小な深夜(コンコース裏)
「だから僕はこんな人間になっちゃったんだ…」
彼を想いながら、薄汚い部屋で呟く。僕は結局、なんの倫理もなく、ただ性欲だけを求めている目線と媒体に過ぎないんだ。
それに比べ、彼の、純白、純潔、純正の瞳、角膜、内斜視よ。全部が僕の背中に波として打ち付けている。
ああ、僕は部屋で一人、好きなロックナンバー(大昔の洋楽とか、長尺のテクノとかではない。少しマイナーな邦楽)を聞いてぼーっとしているとき、彼が泣いている姿を想像する。
そして想像だけで自慰が済まないか考え、済まず、結局AVを見始める。(女体がないと勃起のひとつもできない。)
けれど、脳みその裏側にはいつでもめくるめく彼の精神的な裸体がある。毎回決まった妄想。秩序のない僕のための。
──涙の粒が、薄暗いコンコースに落ちていく。彼は泣いていた。
「見るな」
そういわれるほど、僕はまじまじと彼の顔を見た。彼の一重で細い瞳が濡れている。
部屋と地下鉄と、筒状の意識が結びついてリンクして、僕の身体とひっつく。
一刻も早く正四角形のタイルの裏側に早く行かなきゃならない。そこで騒いでる蟻さん、微生物たち、それらと僕は全く同じ矮小な人間です。
「見るな見るな見るな────────」
僕の、浅はかな決意が、彼の涙を作ったのなら、僕は今役目を果たしてしまったのだから僕は矮小な人間です。
だから僕は早く矮小な人間になりたい。違う、なりたくない。また矛盾した。
ああ、ああ、彼のため、自分のため、今すぐに、一刻でも早く、「矮小な人間ぶっている崇拝するべきロックスター」にならなくちゃ。なる前に、夜が明けてしまう!!!!
(そう、夜は明けるんだ。窓の外から彼がやってくることも無しに。子供が僕たちよりも先に起きて僕たちより精力的に生きている)
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