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せい

樹海がこんなにも色音溢れる場所だなんて僕は知らなかった。
死のために用意されたような濃い暗闇の中、小動物、雑草、風、柳、それぞれが神々しく眩い。

樹海なんてものは、鬱屈とした、死だけを養分に生き長らえる樹木どもの奈落だとばかり思っていたのに。

足を止めて様々なものに視界を巡らせる。僕のスーツの周りを蝶が悠々と舞う。蛇が僕の足許に絡み付いて、その滑らかな曲線を蛸のようにぬめらせていく。

あの時漠然と感じた性が、今に至っても恋として顬の周辺をうろついていた。
溜息。

「結局君はさ、なんにも出来ないんだよ」

そう言った彼の嘲る微笑みを何遍も思い出す。それが理由だったかはさして覚えていないが、彼の笑いじわと項を撫でた感触は割と鮮明に記憶している。かたかった。

「そんな君を愛することは出来ないけど、俺の事が好きなのはやめるなよ」

彼の声が響く。

「ずっと。これからも。永遠に。何時までも。恒常的で莫大でちょっと馬鹿馬鹿しい愛をやめるなよ」

あの時、彼の、深い穴と繋がる正円に、何処までも続く葉脈に、鈍痛の潜む逆さの子宮に、涙に、興奮しなければこんなことにはならなかっただろう。

それがどうしたんだ?

暗闇の中は何処までも何時までもせいだらけで堪らない。

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