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カピバラの死骸

結局のところ、世界は僕達の視界に映る分しか残っていなかった。どこへ行っても湿度は80パーセント。

ぐったりとするカピバラの毛並みは北へ先端を向けている。亡骸。僕達もそろそろだ。彼のあどけない横顔を見て感じる。

乾ききった土地。
いかにも荒廃といった様子の砂漠。

なんて開放的だろう。僕は思った。

地平線に囲まれているみたいな、天動説の証拠みたいな場所。

どこまで行っても変化が起きない。定期的にカピバラの死骸か白骨が落ちているのみで、それ以外は無い。生は過去。死は進行形。

取り残されている。

「セックスしようか」

不意に僕は言った。
何の狂いも無く僕は、性行為を提案した。

「うん、いいね」

彼は当たり前のように了承する。どこまでも付属品だった瞳の白い部分、結膜が潤いを取り戻し───どこまでも乾いた陸においてそこだけが水源であり、色気だ。

僕は彼を押し倒し、衣服を脱がし、全身に唇を落とし、中を解して、挿入した。

純真で、新品臭い、男二人が持っていた感情が下俗な行為で増幅する。白い糸で結ばれることは無く、体が繋がることのみで触れ合った。

世界の終わりを前にしてこんなものか、とどちらかが思う。

指先に暖かい息を吹きかけた。
熱波に犯されてそのまま死ね。

それだけが幸福。

マリーゴールドの匂いがする。死臭。

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