コロナデルタ株と米金利

先週発表された8月の米国NFPの数字は市場サーベーを大幅に下回りました。Service&Hospitalityが0というのが大きな要因のようです。これは8月中にデルタ株への懸念が高まり、このセクターでの雇用が発生しなかったことが原因だと考えられます。

では、デルタ株がどのように金利市場に影響を及ぼしてきているかというのを考えてみようと思います。

まず、今回はコロナ感染者が増えるか減るかというのを、基本再生産数(R0)というのを使って見てみましょう。

イメージしやすいように日本国のR0を例としてプロットしてみましょう。

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指数の意味合いとしては、R0が1を下回ると、再生数が1以下という事なので感染者数は減少し、1以上の場合大ききれば大きいほど感染者が爆発的に増えるというものです。上のチャートで見て取れるように、青線(R0)はオレンジ線(新規感染者数)よりも先行している事がわかります。

では、同じように米国の推移を見てみましょう。

6月頃からデルタ株が米国で流行りだしましたが、そこからR0が上昇しているのがよくわかります。先日投稿した「米金利は低すぎる?」でも話しましたが、6月以降デルタ株への懸念でターミナルレートが押し下げられました。その背景の一つにTerm Premiumの低下というのがあります。Term Premiumとは、投資家が、より長い年限の債券を保有する際に求めるプレミアム(金利)です。1年後に債券の発行体が倒産しないという確信と10年後に同じ発行体が倒産しないという確信を比べた際、10年後の方が先の事なので不確定要素が増えるため確度が落ちるため、そこにプレミアムを求めるという概念です。米金利においては、NY Fedのエコノミスト達、Tobias Adrian, Richard Crump, Emanuel Moechという3人が作った通称ACM Modelが広く採用されていてるので、今回はこれを使ってみようと思います。

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6月頃から米国でデルタ株が騒がれ出した辺りから、R0が上昇し、ACMタームプレミアムが低下しているのがわかります。

なぜタームプレミアムが低下したかというのを理解するのが大事だと思います。個人的見解ですが、最近の株高が影響していると思っています。現在、債券を買っても大した金利を得られない低金利環境なので、世界中の投資家は株を買っています。2020年3月であったように所謂リスクオフ環境になった際に、債券を持っていると株低下時のヘッジになると考えている人が多いようです。そして、現在のタームプレミアムはマイナスです。つまり投資家は不確定要素が多い年限の長い債券を本来プレミアムをもらって買うべきところを、プレミアムを払って買っているという事です。それだけ将来が不安だという事なのでしょうか。。

直近の米国のR0が1近辺へ低下していることを踏まえると、デルタ株への懸念を大分減少していると考えられます。しかし株価は上昇を続けていて、それへのヘッジ需要は増加していると考えるのが自然だと思います。これらを考慮しても、現在のマイナスのタームプレミアムは低すぎるように感じられます。

下の回帰分析は、先ほどのチャートの6/1~のデータを取ったものです。この回帰分析において、現在のr0=1.05は、タームプレミアムが0.1を超えていてもおかしくない水準です。

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現在のタームプレミアムは、5y5yのインフレスワップとの乖離も顕著です。

今後の金利市場を見るにおいて、R0の動きに注目です。「コロナで始まった相場は、コロナで考えるべき。」という原点回帰した今日この頃です。

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