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うぇいの哲学

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2020年10月の記事一覧

呼吸とは生命の営みであり、そして世界を開示する──テッド・チャン「息吹」から

このページを目にした「あなた」も(つまりこのページを読もうと意識した人だけでなくタイムラインで一瞬このページを目にした人も)、この記事を書く僕にも、現にいま、ある場所で必ず呼吸をしている。人間の生には、不可避的に呼吸という運動が含まれる。 人間は、意識的存在者ないし理性的存在者である前に、呼吸する存在としてまず存在していなければならない(眠っている間、物心つく前などは、自己意識がなくとも呼吸する存在者として存在しているだろう)。 けれども、おそらく多くの人は「呼吸」をふだ

開いている門には入ることができない──フランツ・カフカ「法の前で」(原題:Vor dem Gesetz)──

何か思い悩んでいる人の話を聞くと、実は本人が既に解決策に気づいているということがあります。そのことを指摘すると、 「そう、わかってるんだけど」 という言葉が漏れるのです。 「当人がわかっているにもかかわらず、行為できない、言い換えれば今いるところから進むことができない」という事態は、一見「不合理」であるように思われます。 けれども実は、彼(彼女)は、法(道理)の前で立ちすくむという仕方で、論証的思考の限界の経験をしているのです。 この、「法(道理)の前での経験」を、

言葉が過剰な時代に、どのように言葉を紡いでいくか

本記事は、僕のnote初期に出した記事のアップデート版になります! 論文として仕上げました😁 1. 言葉と人間の新しい関係 言葉と人間は、相互にその存在を支え合う関係にある。すなわち、言葉があるから私たちは現在のような生活が営める一方で、人間が存在し言葉に関わらなければ言葉は存在しないという関係である(1) 。  ところで、言葉と人間の関係は、従来の関係とは少し変わったものになってきていると言える。というのも、その関係がインターネットの影響を大きく受けているからだ。すなわ