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『狂気の山脈にて』を“トラウマ構造”で少し読む。

先日の読書日記で書いたとおり、新潮文庫の『狂気の山脈にて:クトゥルー神話傑作選』をトラウマ構造≒ロザリンド・クラウスの図を参照しながら読む。
翻訳違いが青空文庫にあり、それは無料で読めるので、興味がある方は、そちらを参照のこと。
小説を精読したのは高校の国語以来、H.P.ラブクラフトを読むのも大学生以来な気がする。
やっぱり古典とはいえ怪奇小説なので、志村ぁ~後ろ後ろー的な不安がさざ波のように来て返す物語りの節回しが面白い。



『狂気の山脈にて:クトゥルー神話傑作選』H.P.ラブクラフト作/南條竹則編訳:新潮文庫刊
・私が口を開かねばならなくなったのは、理由を教えないと、科学者たちが忠告に従おうとしないからである。p114
・新聞が報じているように、一行は一九三〇年九月二日にボストン港から出帆した。p119
・十月二十六日の朝、はっきりした「陸映」が南方に現れ、正午前に私たちはみな、前方の視野を開いてどこまでも続いてる巨大な、高い、雪を戴く連山を見て、ゾクゾクする興奮をおぼえた。ついに大いなる未知の大陸と、謎めいた、凍てつく死の世界の前哨に出会ったのだ。p120
・それは何か潜在意識的な記憶に関わる理由で、私の不安を誘い、どことなく恐ろしいものさえ思えるのだった。その光景の何かが、ニコライ・レーリッヒがアジアを描いた、奇妙な心騒ぐ絵を思い出させ、また、狂えるアラビア人アブドゥル・アルハザードの恐ろしい『ネクロノミコン』に出て来る、悪しき伝説にあるレンの高原の、さらに奇妙で心を乱す描写を思い出させた。p121
#地質学の専門家である「私」は理性が強いが、一方で、陸映や蜃気楼など「幻」に心引かれ、“私vs幻”が対になっている。

・一九三一年一月六日、レイク、ボーバディ、ダニエルズ、六人の大学院生全員、そして機械技師四人と私は大型機二機に乗り、一気に南極点を越えて飛んでいった。p127
・この点で関していうと、初めのうちの飛行は期待外れだったが、航海中にささやかな前触れをあじわった、幻想的で人を欺く極地の素晴らしい蜃気楼を見ることができた。p127-8
・もちろん、外の世界は私たちの予定を知っていたし、また新基地へ大がかりな移転をする前に、西へ――いや、むしろ北西へ――試掘に行くべきだとレイクが妙に意固地に言い張ったことも伝わっていた。レイクは粘板岩についていた三角形の線紋のことを熟考し、驚くほど大胆な考えを抱いて、そこに“自然”と地質学で推定される年代との矛盾を読み込んだらしい。p129
・結局、私は計画を拒否しなかったが、私の地質学上の助言が欲しいとレイクが言ったにもかかわらず、北西部行きの一隊には同行しないことに決めた。p130
・出発は一月二十二日午前四時だったが、無線の第一報が来たのはわずか二時間後で、そのときレイクは、私たちから三百マイルほど離れた地点で地上に降り、小規模な解氷とボーリングを始めると語った。p131
・三時間後に短い報告があり、冷たい刺すような大風の中で飛行を再開すると言ってきた。私がこれ以上の危険を冒すことに電信で抗議すると、レイクはぶっきら棒にこたえた――新しく出て来た標本を見れば、いかなる危険も冒すに値する、と。p131
#“レイク”は、“自然”と地質学で推定される年代との矛盾を持つ「粘板岩」に心引かれ、身の安全を軽視している、と“私”は考えている。
肯定的矛盾、否定的矛盾が数多く現れ、南極という外部が出現し明らかになっていく。。

・それからさらに一時間ほど経って、移動中のレイクの飛行機からいっそう興奮した電信が来たが、それは私の気持ちをほとんど逆転させ、自分も同行すれば良かったと思わせたのだった。p132
・「こんなものは君たちには想像もできまい。最高峰は三万五千フィートを超えるにちがいない。エヴェレストも遠く及ばない。キャロルと私が飛んでいる間、アトウッドが経緯儀で高度を測定する。火山錐のことは間違いだったらしい。岩肌は層をなしているように見えるからだ。あるいは先カンブリア時代の粘板岩に他の地層が混入したか。山の稜線が奇妙な印象を与える――一番高い峰々に、立方体からなる規則的な部分がへばりついているのだ。低い太陽の金赤色の光の中で、何もかもが実に素晴らしい。夢に見る神秘の国か、未踏の驚異に満ちた禁断の世界の門のようだ。君も調査に来れば良かったのに。」p133
・これ自体、探検隊が手に入れた最初の脊椎動物の化石として重要だったが、そのすぐあとに、ドリルのヘッドが地層を貫いて空洞らしきものにぶつかった時、まったく新しく強烈な興奮の波が発掘者はたちの間に広がった。かなり大きな爆破の結果、地下の秘密が露わになり、直径五フィート、厚さ三フィートほどのギザギザになった穴を通して、浅い石灰岩の空洞の一部が貪欲な探求者たちのまえに口を開いた。それは五千万年以上昔に、過ぎ去った熱帯世界のしたたる地下水によって穿たれたものだった。p140
新聞を良く御覧になっていた方々は、あの日の午後の報告が科学者の間に掻き立てた興奮を憶えておいでだろう。――この報告がもととなって、歳月を経た今、ほかならぬスタークウェザー=ムーア探検隊―私がこんなにも必死になって、もくろみを思いとどまらせようとしている探検隊――が組織されるに到ったのだ。p142

#全てを読み終わったが、全体が思いの他、長かった。
本当の最初だけの検証だが、トラウマ構造はある種の「型」として有効そうだ。
転載するのに疲れた。
全体の1/6ほどで挫折である。
読書ノートは手間がかかる
これを楽にする方法がライン引きなのだが、読書ノートとして航海できる、もっと楽な方法は無いものか?

どっとはらい。
2023/11/04 16:14

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