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都市は確率をコントロールする技術の連関ーアンドレ・ルロワ=グーラン著『身振りと言語』より

アンドレ・ルロワ=グーランの『身ぶりと言語』という本がある。

狭義の、つまりそのものズバリの「身振り」と「言語」の話だろうと思って読み始めると、いい意味で大いに期待を裏切られることになる。

この本で問われているのは「人類史」であり、人類史の展開を促した要因というか、きっかけを、身体とそれを拡張する技術の中に探り出そうという壮大な試みである。

目次をざっと眺めてみるだけでも、下記のような具合である。

 ・第一部 技術と言語の世界ー手と顔が自由になるまで
   脳髄と手/原人と求人/新人/社会組織/言語活動のシンボル
 ・第二部 記憶と技術の世界ー記憶とリズム
   記憶の解放/身振りとプログラム/ひろがる記憶
 ・第三部 民俗のシンボルー記憶とリズム その二
   表象の古生物学への序説/価値とリズムの身体的な根拠…/形の言語

しばらく前に『サピエンス全史』が流行したが、問題設定と仮説の大きさでは勝るとも劣らない、面白さである。

とはいえ『身振りと言語』は1964年の著作ということで、当時挙げられた人類の進化をめぐる「事実(についての説)」の中には、今日では客観的な証拠から否定されているものもあるという。ただ、それだからといって本書の面白さ失われるわけではない。

新事実によって否定されることは、科学にとっては至極まっとうなことである。逆に、ある時点で、すべてを解き明かしたと主張した挙げ句、その主張を揺るがす新事実や新説が現れない「ようにする」ことこそが非科学的な態度である。

過去に書かれた本を読むということは、ある時代、ある状況で、ある著書が書かれ読まれたという事実に思いを馳せることである。

都市という人工環境

こんにちの私たちが慣れ親しんでいる、ほぼ完全に「人間のもの」になった時空間。

そうした人間による人間のための人工空間は「都市」の誕生とともに数千年という地球史的には「一瞬のうち」に地表を覆い尽くした。

アンドレ・ルロワ=グーランは「最初の都市の建設」について、それが「遺伝的なきずなからは解放されてしまった”技術”との対話が始まった時点を示している」と書く(P.284)。

技術によって、人間は、自らの生存ための環境を作り出す。

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