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ウェストコースト・ラップのサウンドを形成してきた重要人物であるDJクイックの注目すべきレコード19枚

カリフォルニア州コンプトン出身のMC/プロデューサー、DJクイックは、80年代後半にヒップホップ・シーンにおいて、多才で多作なアーティストとして頭角を現した。弾力性のあるファンク・ビートでウェストコースト・ラップのサウンドを形成してきた重要人物である彼に、これまで影響を受けたレコードを挙げてもらい、音楽に対して科学的なアプローチを見せる彼のルーツに迫った。

Record Rundown

ファンクの源泉

DJ Quik

 「サンプリングする際に重要なのは」と、コンプトンの伝説、DJクイックが語り始める。「どういう楽曲を選ぶかだけではない。ターンテーブルで再生したときのレコードの歪みとか、ノイズも重要になるんだ。電力を帯びたダイアモンドの針が、炭素でできたヴァイナル盤に触れた瞬間、素晴らしく豊潤な音が生成される。そういうレコードやターンテーブルの仕組みが実現していることに、俺は驚きを隠せない。物理学的な奇跡と言えると、個人的に思っているよ」。

 DJクイックことデヴィッド・ブレイクが音楽の話をしているとき、科学や数学の用語が飛び出ることは珍しくない。それは彼にとって自然なことなのだ。20年以上のキャリアを誇るこのマッド・サイエンティストは、80年代のシンセ・ブギーからインドのボリウッド音楽まで、多種多様なサウンドを錬金術のように組み合わせてしまうだけでなく、自身の音楽に“共感覚”(「俺の音楽には“色”がある」とも彼は言った)や、音場理論といった概念も忍ばせる。Gファンクの作り手にしては、やたらと理系なアプローチにも思えるが、彼は2台のTechnicsとMPC60を操るカール・セーガン(註:アメリカの著名な天文学者)のような男なのだ。

 2011年6月7日(プリンスの53歳の誕生日)に、ロサンゼルスの大手レコード・ショップ、Amoeba MusicでDJクイックと話す機会を手に入れた我々は、この西海岸のキーパーソンに、隠れた名盤や懐かしのレコードなどを紹介してもらった。このときクイックは、今後リリース予定の自身の作品のネタ掘りもしていた。その作品とは、彼の弟子であるギフト・レイノルズのデビュー・アルバムや、コメディアン的なラッパー、シュガ・フリーとのリユニオン作、そして最後のヒップホップ・アルバムになるだろうと本人が話す、DJクイックとしての9枚目のソロ・アルバムのことだ。

1. Prince - The Hits/The B-Sides

(Paisley Park/Warner Bros.) 1993

 俺はプリンスが大好きだ。プリンスのアルバムは全て持っている。彼の最初の2枚(『For You』と『Prince』)は特にマストだ。ジェイミー・スター&ザ・スター・カンパニー名義でプロデュースした作品もね。彼のスロウな曲で一番好きなのは「Adore」だが、どのアルバムにも最高のバラードがある。当時はみんな、バラードを聴いていた。「Do Me, Baby」を最初に聴いたとき、俺はまだ思春期に達していなかったから意味がわからなかった。その後、意味を理解することになった(笑)。彼のアップテンポな楽曲で一番好きなのは「Erotic City」で、これも素晴らしい。「Head」とか「Housequake」もファンキーでいい曲だね。「Let’s Work」(『Controversy』収録)をサンプリングしようとしたことがあるが、速すぎてファンキーなものにすることができなかった。

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