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アクセントの魔物

このリレーエッセイは「writone」という音声コンテンツを楽しむフィールドで出会った仲間たちで綴られている。
「writone」を簡単に説明すると、作家(ライター)がネット上に小説などの文章をアップし、声優(アクター)がその物語に声を吹き込み、音声コンテンツとして多くの人の目に、耳に届けようというものである。
様々な作品に目を通すのも楽しいし、声を吹き込んでいく作業も面白い。どう表現しようか、こんな読み方はどうだろう?と試行錯誤を繰り返しながら、作品に命を吹き込んでいく。

「writone」を楽しんでいく中で、当初はICレコーダーに声を吹き込んでいたが、それだけでは飽き足らず、安価なコンデンサマイクを購入した。簡易的なミキサーの機械も導入した。
そして、もう一つのアイテムを手にいれた。
「アクセント辞典」である。

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NHKが発行している「アクセント辞典」はいわゆるNHKが番組を放送するうえで「標準」としているアクセントを網羅している。正しいイントネーションを表した辞書だ。

「アクセント辞典」を購入したことは、私にとって少々屈辱的なことであった。なにせ私は東京生まれ東京育ち、自分に染みついた言葉のイントネーションはすべて「標準語」であるという自負がある。
だが、さまざまな物語を音声化させていく中で、「おや?」と思う場面が多くなってきた。
自分のアクセントが「新潟化」しているのである。

簡単にアクセントの種類について記しておこう。
アクセントには『平板型』と呼ばれるものと『起伏型』と呼ばれるものがある。『平板型』は、「時間」や「油」といったようにフラットに読んでいくもの。『起伏型』と呼ばれるものには、「親子」「若さ」といった最初の音が高くなる頭高型。「あなた」「めまい」と言った真ん中が高くなる中高型。「明日(あした)」「刀(かたな)」という最後の音が上がる尾高型と3種類ある。

「たまご」というときは「たま」までフラットに読み「ご」で下がる。
「ミツバチ」は「ミツ」までがフラット。「バチ」が下がる。
「ハンカチ」は「ハンカ」までフラットに読み「チ」で下がる。
「あご」「靴」は平板で読み、助詞の「は」や「が」が続くときはその音が下がる。
ところが新潟の人は、これらすべてを頭高で読む。
「たまご」は「」「まご」、ミツバチは「」「ツバチ」、ハンカチは「」「ンカチ」、あごは「」「ご」、靴は「」「つ」と、すべて最初の1文字目にアクセントが来る。

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今週の写真:司会者の台に用意していただいた水。
ストローが沈んでいく…

最近、自分のイントネーションに不安を覚えるようになってきた。決して新潟の人のイントネーションをどうのこうの言っているつもりはない。しゃべることを生業としている者としてはやはり「標準語」をしっかりと心得ていなければならないという己のプライドなのである。
だが、自分の言語中枢に確実に新潟のイントネーションが入り込んできていることも確かなことなのだ。

ちなみに新潟の人の良く使う言葉に「しねばいいのに」というのがあるが、これは「死ねばいいのに」ではなく「しなきゃいいのに」という意味である。
アクセントは「しねばいい」までフラット「のに」で下がる。

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進藤海/六月雨音/ようじろう/小宮千明/モグ。4人のライターがそれぞれの担当曜日に、ジャンル問わずそれぞれの“書きたいこと”を発信。

ボイスブックコンテンツ《Writone》より集まったライターによるリレーマガジン。

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