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ほろ苦いロマンスの豆

大学3年生の時、クラスメイトのあっちゃん(男♂)と「飯でも食おうか」と渋谷駅までの道を歩いていた。
「あっ…」
あっちゃんが道端に落ちていたかわいらしい財布を見つけ、拾い上げた。
「どうする?」
「うん。交番に届けるべきだよね。」
悪いとは思いながらも中身を見させてもらった。
いくら入っていたかは覚えていないけれども、定期券と学生証、それに緑のラインの入った免許証が入っていた。
「1年生の女の子のだ。千葉から通っているのか…。」
あっちゃんは最寄りの交番に行き「財布を拾いました。」とおまわりさんに告げ、事務的な手続きをし、再び渋谷駅に向かって歩き始めた。
「なぁ、可愛い女の子だったな。」
———なるほど。免許証の写真を見ての感想か。
その後のあっちゃんの足取りは軽く、渋谷駅までご機嫌な様子だった。

「ロマンスが始まる予感がしないかい?」
道中、あっちゃんは突然そんなことを言いはじめた。
「『先日は大事な財布を届けてくれてありがとうございます。これ、私の連絡先です。よかったら連絡ください』から始まる…恋…。」
あっちゃんはどうかしていた。妄想ばかりがふくらんでいるようで、顔のニヤケが収まらない。見ているこっちが心配になってくる。
「まぁ、お礼の手紙くらいはくれるんじゃない?」
あっちゃんは静岡の出身で、大学入学を機に田園都市線沿線の街に下宿していた。慣れない一人暮らしで「一人の夜は寂しい」と、よくぼやいていた。

おまわりさんには下宿先の住所を伝えたということなので、あっちゃんはその子からお礼の返事が来るのを心待ちにしていた。

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今週の写真:と言うか先週の写真。新潟市の青空。
今週は冬将軍が来るというが…こんなに雪が降らないのも不安。

そして財布の落とし主はすぐに見つかった。
あっちゃんに「落とし主からのお礼は何かあったの?」と聞くと、
「ようじろう、今日授業が終わったら俺の下宿先に来ないか?」
と、神妙な顔つきでそう言ってきた。
———ん?何か女の子からのリアクションがあったのか?
神妙な顔の裏には、困惑の影が潜んでいる。

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443字
進藤海/六月雨音/ようじろう/小宮千明/モグ。4人のライターがそれぞれの担当曜日に、ジャンル問わずそれぞれの“書きたいこと”を発信。

ボイスブックコンテンツ《Writone》より集まったライターによるリレーマガジン。

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