1○1×の戦略について

2021年に『早押しクイズの正解率関数とその線型モデリング』という論考を公開した。

ここでは、早押しクイズにおいて全長$${L}$$文字の問題文が$${x}$$文字読まれたタイミングで押した時に正解できる確率を、定数$${q}$$を用いて以下のように表せると仮定したモデリングを考えた。

$$
p(x) = q\frac{x}{L}\quad(0<x<L)
$$

これと同じモデルを用いて、1○1×の早押し対戦を行う時の戦略について考えてみたい。


設定としては次のような条件を考える。2人のプレイヤーA、Bが1○1×の早押しクイズを行う。クイズの問題文の長さはL文字と分かっている。プレイヤーAの正解率は$${ax/L\;(0 < a < 1)}$$ 、プレイヤーBの正解率は$${bx/L\;(0 < b < 1)}$$になると分かっているものとする。

プレイヤーAが$${x_A}$$で押すと仮定した時、プレイヤーBは$${x_A-\varepsilon\;(\varepsilon > 0)}$$で押すと押し勝つことができ、$${b(x_A-\varepsilon)/L}$$の確率で正解する。押さなかった場合プレイヤーAは$${1-ax_A/L}$$の確率で誤答する(つまりプレイヤーBが勝利する)ので、プレイヤーBは

$$
b(x_A-\varepsilon)/L > 1-ax_A/L
$$

の条件を満たす$${x_A}$$の時Aに押し勝とうとする。すなわち、

$$
x_A > \frac{L+b\varepsilon}{a+b}
$$

の時にプレイヤーBは$${x_A}$$の直前に押すと考えられる。

プレイヤーAの押し戦略についても、同様に考えていくことで

$$
x_B > \frac{L+a\varepsilon}{a+b}
$$

となる。どちらも

$$
x > \frac{L}{a+b} + \varepsilon^\prime
$$

の形でギリギリ押し勝つことを狙うので、お互いに最善を尽くすならば、どちらのプレイヤーも

$$
x = \frac{L}{a+b}
$$

のタイミングで押して勝つのを狙うことになる。


$${a > b}$$のような実力差がある場合でも最善の押しポイントが同じになるのは一見奇妙なように見えるが、実力が高いプレイヤーAにとっては「プレイヤーBが分かるギリギリまで押さなくても良い」という条件があり、かつできるだけ遅らせた方が正解率が上がるようなモデルを考えているので、最善を尽くすと両者の押しポイントが一致することになるのだろう。

なお、$${x}$$には$${x < L}$$という条件が付いているので、$${a+b < 1}$$の場合は問題はスルーとなる。


2017年に伊沢拓司『早押しクイズの微分学 ~4文字でボタンを押す「最速の押し」が「最速ではなくなる」理由~』で、現代の早押しタイミングは従来言われていた「確定ポイント」より前に進み出した、という論考がなされていた。

この論考では「最適最速の押しは、それ自体が広まることによって最適最速ではなくなる」と謳って最速のポイントが早くなり続けるような書き方をしているが、実際にはこのポイントは「究極的には0に近づく」というような意味合いでどこまでも早くなるのではなく、$${\varepsilon}$$の改善が積み重なってもある下極限値に収束していくような形になる、というのが正しい見方なのではないだろうか。


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