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試される「愛の理論」

タイドラマ「Theory of Love/セオリー・オブ・ラブ」を見た。
(以下作品名は”セオラブ”と表記します。)

様々な恋愛模様を、素敵な音楽、印象に残るセリフの数々、あふれるほどの映画への愛とともに描いたこの作品を好きになった。

文系男子の恋愛

この作品の舞台は芸術大学の映画学部だ。スポーツするようなキャラクターが一切出てこないのは新鮮だった(卓球やビリヤードで遊ぶくらい)
子どものころから親の影響で毎週のように映画館に行っていたため今でもいろいろなジャンルの映画を観るし、実現はしなかったが映像系の大学も目指したこともある僕にとって、こんなに魅力的な舞台設定はない。

よく「映画みたいな恋がしたい」とか言われるけど、実際の映画制作の人たちが映画みたいなロマンチックな人生を送っているわけではもちろんなく、どちらかというとかっこ悪くて人間臭い。
でも、見ているうちにそんな彼らをどんどん好きになる。


「ギャングスターズ」と自称する4人組
下の画像、左から時計回りに
Third(サード)、Two(トゥー)、Khai(カイ)、Bone(ボーン)

(2021年6月から配信を開始した楽天TVの字幕表記に準拠しています。)

予告編

ワクワクしながら見始めたが、一話目から顔面パンチを食らうような衝撃を受けた。

まさか、視聴者の恋愛観(愛の理論)が試されるような話だなんて・・・


EP1を見た直後のつぶやきがこれ。

ヘビー級の片想い

 4人組でメインとなるのはサードとカイの2人だ。
親友同士の2人はプライベートはもちろん大学でも同じ制作グループを組んでおり、サードは脚本と演出、カイは主に音響担当だ。

サードは大学の新入生歓迎イベントで初めて会ったときから、ずっとカイに片想いをしている。

対するカイは会うたびに付き合う彼女が違うようなプレイボーイ。
とっかえひっかえするだけならまだしも、別れ方も上手くなく、その後始末をよりによってサードに押し付ける。しかも急なデートのために友だちとの約束を平気でドタキャンしたりする。弁解の余地のないやつだ。
しかも女子にモテる、めちゃくちゃモテてる。

「マジでこんな軽薄なヤツいるか?」
「何であんなやつのこと好きなんだろう」
「・・・それでも好き」


サードのこの想いに共感できないと、この作品を見るのは苦痛だと思う。


(演じる役者OffとGunは”オフガン”と呼ばれ、本国はもちろん日本でもファンが多く、すでにドラマやバラエティ番組などで何度も共演している大人気の2人組です。でも僕は2人について詳しくないので、あくまでもセオラブのサードとカイとして話します。でも"オフガン"の魅力あっての企画であることは間違いない作品です。)

"不愛想"な主人公、サード


サードはBLドラマの言い方で言えば「受」だ。他作品の多くの受キャラは「かわいい」「感情表現が豊か」「甘えん坊」「天真爛漫」「守りたくなる」などの要素を持っていることが多い。
でも、サードはこのセオリーに反してぶっちゃけ愛想はよくない。あまり笑わないし、人前で泣いたり声を荒げたりもほとんどしない。
つまり、他人に自分の感情をむき出しにすることがほとんどないのだ。
クールというより、自分をさらけ出すことを恐れている。
僕はそんなサードの様子に好感を抱いた。ものすごくリアル。
これは、自分に自信がない人の行動だ。

サードは自己肯定感の低い人だ。
劇中に何度も自分を卑下するようなセリフが出てくる。

「僕は、それだけの価値しかないのか」
「彼のそばにいられるだけで僕は幸せだ」


自信がないから、カイのような自信満々な人に憧れるし、少しでも自分に優しくしてくれたら心動かされてしまう。
「僕なんて…」って気持ちがあるから、どれだけひどい扱いを受けても、思ってることをバーンと言えずに引っ込めてしまう。
でも引っ込めたままだとしんどいから、服を着たままひとりでシャワーを浴びて、泣く。
誰にも見られないここでなら、自分の気持ちを吐き出せるから。
(このシーン、自分を悲劇の主人公にして浸る感じにめちゃくちゃ共感した。こんなとこ恥ずかしくて誰にも見せられない…。)


カイが「女子にもてる」っていうのがとても効果的だ。
サードはカイに彼女を紹介されたり彼女との話を毎日のように聞かされるたび、超えられない性別の壁を突き付けられる。
男の自分は対戦相手にもなれないんだって思い知らされる。
ただでさえ自信のないサードの劣等感をこれ以上刺激する設定は他にない。

「自分が好きになったらすべてを壊してしまうんじゃないか」

この気持ちを最大限に発動させられるのが“同性の親友を好きになる”設定なんだな。


途中から演劇公演の脚本チームに入ったサードは、恋愛以外に没頭できることができて彼の能力を認めてくれる人たちが現れはじめたら、すこしづつ自信をつけて生き生きと輝き始める。

カイ地獄の言動集(抜粋)

(注・すべて"親友"サードに対してのものです)

・「女子とは体のつながり。お前とは心のつながり」(EP3)
・(女子を口説くノリで)「そうだよ、お前はかわいいよ」(EP4)
・「お前だけいればいい」(その後脱いだシャツを手渡して“洗っとけ”)(EP4)
・「ほら、食べろよ。お前今日一日何も食べてないだろ。食べさせてやる。まだ残ってるぞ(完食せず拒否)・・・じゃ俺が食べる。大丈夫、お前の唾液は俺にとって毒にはならない」(その後ペットボトルも間接キスからの頬キス催促)(EP4)
・「もし好きな人の結婚式に出席したらどうする?」(EP4)
・「一緒に住んでるなら恋人みたいなもんだろ」(彼女しか載せないバイクの後部座席に乗せる)(EP4)
・泥酔した勢いでキス→他の女子の名前を呼ぶ(EP6)


(あまりの仕打ちにサードと一緒に拳を握り締めて泣きましたよ僕は…)

それでも嫌いになれない、カイの魅力

サードが書いたカイの悪い所メモによると
・スピード狂
・すぐあきらめる
・鈍感
・すぐ口説く、遊び人
・別れた後のごたごたに巻き込む
・罪悪感がない

人によっては「なんでこんなやつ好きになるのか理解できない」って人もいるだろう。

でも、たまにびっくりするほど思いやりのあるような言動をしてくれる。
その言動は「9回嫌なことされてもこの1回の言動で帳消しになっちゃう」
ようなものだ。
「いまこの幸せな記憶だけ残して、嫌な記憶を消せたらいいのに」
そう思ってしまうような魅力がある、それがサードの目から見たカーイだ。

僕はとくにEP4のエピソードが好きだ。
それぞれ好きな映画のタイトルを紙に書いて箱に入れ、もし同じ作品を書いた人がいたらそのペアに豪華賞品がもらえるというイベント。
「1本選んだ好きな映画を当てられる」って、映画好きからしたら何よりもうれしい出来事。自分のこころの深い部分を理解してくれてるって、身体が繋がるよりずっとずっと嬉しいし、身体がつながるよりも難しいことだなって思うから。

7、8話目から視点がサードからカイに移る。
今までの「愛の理論」が通用しなくなり、試行錯誤するカイ。
恋愛って一人きりじゃできない。それぞれの理論をぶつかり合わせていくもの。
そして、僕たちは次第にカイにも抱えてるものがあることに気づく。
彼もまた、自分をさらけ出さないように蓋をしていた。

「サードをまた好きになるのが怖くて仕方ない」

「嫌いになれない」サードとは正反対の視点だ。

不器用だけど好きになったら一直線で全力投球なカイは、なんだか嫌いになれない人間的な魅力にあふれている。

サイドストーリーも素晴らしい

サードとカイだけでなく、ほかのキャラクターの物語も素敵だ。まさに"登場人物全員片想い"といった感じ。

ボーンの恋愛
おしゃれなカフェでバイトし、ドラマのような出会いをし、大人な最期をむかえる彼の恋愛は、そのパートだけ取りだして1本の恋愛映画が作れそう(編集つながりだし)

トゥーの恋愛
高校時代からの片想いの彼女との近づきそうでなかなか近づかない関係からのまさかの急展開。人情に篤い彼の人への向き合い方は好感が持てる。

P’Un(アン先輩)の恋愛
これは見ていない人がいる可能性を考えると深くは言えないのだけれど、僕がこの作品でいちばん好きなキャラクターは彼かもしれない。
出会った瞬間から片想いどころか、存在すら認識されていない彼の恋愛を応援せずにはいられない。(「ウォールフラワー(後述)」が好きってくだりで絶対気が合うと思った。)

映画と恋愛は似ている

「映画はひとりで観るために作られたものではないと思うので。一緒に見たら、一種のエネルギーみたいなものが発散されます。」
「観客の感情が結びつくのね」
「そうです。だから一緒に見た方が楽しいんです」(EP4)


映画が素晴らしいのって、見た人が「あぁ、この作品のなかには自分と似ている人がいる。自分と同じようなことに悩んでいる人がいる。自分は一人じゃない」って思えることじゃないかなと思う。

映画作品の中には、弱かったり格好悪かったりしてもそれを抱えて懸命に生きてる人がいる。
作品になることでその人物は肯定され、それを見る自分まで肯定される、救われたような気持になる。

(サードにとっては映画が逃げ場所だからこそ辛いって側面もある。「1人でも幸せ」「恋愛しなくても幸せ」って言ってくれる映画は少ないから。「ステイ・フレンズ」を持ってくるのはニクいセレクト)

「愛は心だけを使うんじゃない。頭も使うんだ」(EP6)

恋愛と映画は似ている。
どちらも心で受け止めたあとで、頭で考える。

結局「好き」って相手に何かして欲しいとかじゃなくて、「この人に傷ついてほしくない。寂しい思いをして欲しくない」って自然と思ってしまうことなのかもしれないな。

きっとサードは後々「あの片想いの時間もいい思い出だったな」って振り返るのだと思う。
どんな目にあっても「自分が誰かを本気で好きになった」って記憶は幸せなものだと思うから。

そして「共に生きる人は選べる」それは希望なんだって思った。

(キザだけど、映画好きはかっこいいセリフで終わらせたくなっちゃうものなんです!笑)



おまけ:劇中に出てきた個人的に好きな映画作品


「ラブ・アクチュアリー」(Love Actually)
*EP2ほか

 イギリスに住むさまざまな人の恋愛模様を豪華キャストで描いた群像劇。
「フリップ告白」は今でも世界中のたくさんの作品のパロディーになり続けているほどの名シーン(ややネタバレですが、本家でもフリップを使うのは告白成功の可能性がほぼ無い人物です。)
余談ですが、僕はこの作品と同じ監督の「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(About Time)という作品が人生ベスト5に入るくらい好きなので、よかったらそちらもお見知りおきくださいw


「ウォールフラワー」(The Perks of Being a Wallflower)
*アン先輩のお気に入り

 親友が自殺した心の傷を抱え、自身も居場所がないと感じている「壁の花(ダンスパーティーのとき中心から外れて壁際にいるような人)」の主人公が、2人の特別な出会いを通して成長していく物語。単純な恋愛ものではなく、セクシャルマイノリティや高校生のころ誰もが抱くような"これから生きていくことへの不安や葛藤”みたいなものを描いていてグッときます。
主演3人の存在感と初々しさも素晴らしいです。(見たら確実に3人の誰かに恋に落ちます。僕はローガン・ラーマンでしたw)


「はじまりのうた」(Begin Again)
*EP10

 彼氏とすれ違ってばかりの受身の主人公が、偶然音楽プロデューサーと出会ってすこしづつ自分を見つめ、前向きになっていく物語。
とにかく音楽が素晴らしいです(サントラもおすすめ)。
恋愛映画でありながら、安易に男女が別れたりくっついたりすることをゴールにしていないストーリー展開が好きな作品です。
劇中の「二人でイヤホンをつけてお互いのプレイリストを聞きながら夜のニューヨークを散歩するシーン」が最高すぎて真似したくなり、二股イヤホンジャックを購入しました(現時点で実現していませんw)


「エターナル・サンシャイン」(Eternal Sunshine of the Spotless Mind)
*EP6 

 突然の失恋を引きずる主人公が、あまりのつらさに「記憶消去サービス」に依頼して別れた恋人との記憶を消去しようとするプチSF設定の恋愛映画。
奇想天外な設定をほぼCGを使わないアナログな工夫で映像化しています。
新しい記憶(別れ間際)からさかのぼって消されていく記憶。当然だんだん出会いはじめのころの幸せな記憶が増えていって、「辛くても、やっぱり彼女との記憶を消したくない」と思い直すナイーブな主人公はまさにサードと重なります。
たぶん「セオラブ」制作チームにこの作品の熱狂的ファンがいるはず・・・僕も1年に1回バレンタインのころに必ず見るほど好きな作品ですw
大好きな俳優ケイト・ウィンスレット(タイタニックのヒロインで有名)の数ある出演作のなかでも僕がいちばん好きな役はこの作品のクレメンタイン。
(きちんとした予告編が見つからなかったのがとても残念・・・!)

2021年6月現在、楽天TVで配信中。
(セオラブ本編と元ネタ映画を特集配信しています!)

Theory of Love/セオリー・オブ・ラブ | 動画配信/レンタル | 楽天TV 
https://tv.rakuten.co.jp/special/theoryoflove/

画像は楽天TV公式Twitter(@rakuten_asidra)のものを使用しました。

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