一閃藍「星屑すくい」

あの子がピンクでわたしは水色。
本当はピンクがよかったのに、それでも自ら水色を選んじゃうような捻れ方も、その指先でかわいいかたちに括ってもらえるだろうか。

祈るみたいに掬ったラメを瞼の上に散りばめて、手のひらの生命線を延長させるみたいに引くアイライン。ひかりの下でわたしの瞼がきらめいた時、かみさまに、あなたに、わたしの葬った祈りが届いたんだと思えるその瞬きが、わたしを完ペキなにせものの夜空に仕立ててくれる。

ペラペラの遮光カーテンに守られた部屋には月の光も届かない。薄暗い部屋の、にせものの温度のなかで服を脱ぎ、皮を剥いで、床に散らばるわたしの抜け殻を掻き分けた先で、ちょうど本当のわたしのかたちに沈んでゆく。

好きな人なんていないと言い張りながら、ツンと尖らせた口の中でずっとあめ玉とあのひとの名前を反芻し続けていたこと、少女漫画なんて読まないと言いながらブックカバーの中で恋焦がれていた携帯小説のこと、夕焼けで誤魔化した頬の火照り、雨粒に拭われていった涙、潤んだ瞳は花の疼きのせいにして、私はずっと、わたしを私の奥に隠し続けてばかりだった。わたしを開き、ぐちゃぐちゃの腑を見られることは、裸のもっと奥を覗かれるようなものだったし、わたしがもう夕焼けでは誤魔化し切れなくなった時、あなたの視線に焼かれて落ちた影と一緒に、わたしはきっと、一生その場に立ち尽くすことになってしまう。そこに落とされた磔の影がわたしの足枷になって離れないこと、私はずっと、わたしを殺したいんじゃなくて、はやく私ごと消えて失くしてしまいたかった。

本当は全部見透かされたくて、ずっと透明になりたくて、だけどあなたの瞳にきらめきたかった。そんなガラスの破片みたいな傲慢がわたしの肌を傷つける。わたしは宝石なんかじゃないから、傷がついたって光れない。いつだってAの貰えない、なりそこないのビー玉でもいい、あなたに綺麗だと言ってもらえるのなら。そんな想いで今にもパチパチと弾け飛びそうなくらいに膨れた感情を閉じ込めた夏、結局あのひとには何も届かずじまいだったし、今となってはとうに炭酸は抜け切って、もうひたすら甘ったるいだけのシロップが惰性で指先にベタつくだけだった。

わたしは本当の夜空にはなれないし、宝石でも、恒星でもない、だけど光れる、この指先で、掬うことばで、あなたの瞳に一瞬だけ光ってみせられる。
わたしの一閃。その視線に焼かれても、わたしがそこに立ち尽くし続けるためのことばをわたしはこうして遺し続ける。

ことばの足枷はことばで断ち切る。わたしだけはあの日のわたしのこと、忘れたりなんかしない。夕焼けの中で火照った頬も、雨の中で止まなかった涙も、記憶の中の透明は、わたしが全部覚えてる。

本当はとびきりのピンクになってみたかった。
とうにどこかへ葬ったはずの望みが、きらめきひとつであっという間に叶ってしまう、みたいな瞬間がある。チークでわざと頬を火照らせて、泣き腫らしたあとの瞳をつくる。きらめく瞼のその一閃が、あの頃のわたしに届く気がした。

(あなたといるのが好きだった。あなたのことが好きだったし、あなたといる時のわたしのことが好きだった。あなたを透かして見るわたしは上手にわたしを偽れたから。あなたといると、わたしはピンクになれたから。)

にせものの夜空を浮かべた瞳に泳ぐ傲慢は、ゆがんだ先で目尻を伝う流星になる。自分のほしいものなんて、自分でつくっていかなくちゃ。あんなにきれいな雪が本当は塵だらけみたいに、そのなみだの由来が傲慢でも、指先ひとつで星にも変われる。はやく消えたいし光りたい。わたしのぐちゃぐちゃの腑の中のめちゃくちゃな望み、そんな振れ幅の狭間に生きてるせいですぐに息が上がってしまう。この恋みたいな速度のこと、忘れたくない。これもわたしのひとつの墓標。ここに葬った祈りもきっと、いつかのきらめきひとつで簡単に救われてしまうのだろうね。どうかそのきらめきが、わたしの中から見つかりますように。

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