「包摂」とはなんだろう。ジャックアタリさんへの道傳さんのETV特集インタビューと、「誰かがプーチンの手を握ってあげに行く」について。

「ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」
初回放送日: 2022年4月2日

ウクライナ危機で揺らぐ国際秩序。世界は何に失敗し、どこへ向かうのか?国家に翻弄された旧ソビエト諸国の人を書いてきたノーベル賞作家スベトラーナ・アレクシエービッチ、フランス歴代大統領の政策顧問を務めたジャック・アタリ、新たな冷戦の始まりを警告するアメリカの政治学者イアン・ブレマーらに道傳愛子がインタビュー。いま、私たちは何を目撃しているのか?ソビエト崩壊から30年、過去・現在・未来を深く読み解く。


 道傳愛子さんジャック・アタリさんにインタビューをする部分について書こうかと思うのだが。三人の知識人のうち、アタリさんだけが、まあそういう言葉は使っていないのだが、「どうやってロシアを包摂するか」と言うことについて、一生懸命、語っていたのだよね。この戦争を、さらにひどいことにしないためには、そうするしかないって。

 アタリさんはフランス人だし、ソ連崩壊後からずっと、どうやってロシアを西側、民主主義側、市場主義側にうまく仲間入りさせるかの工夫をしてきたのに、結局、できなかったと。で、アタリさんは、その原因として、ロシアの支配層のたちの素行が悪いことにも原因はあるけれど、アメリカと言う国は常に敵を必要とする国で、冷戦当初はまだ中国が敵となるほど大きな存在でなかったから、アメリカは、EUがロシアを仲間に迎え入れようとすることにずっと反対してきた。アメリカは軍産複合体を抱えているから、ということをはっきり語ったんだよね。これ、NHKの番組としては、かなり画期的なことだと思う。


 これについてはこのnoteの後半で、ちゃんと、道傳さんとアタリさんの正確なやりとりを文字起こししてみようと思うのだけれど、いつものように。


 でもその前に、「ロシアを包摂する」っていうすごく堅苦しい、難しい言い方について、考えていきたいのですね。アタリさんは、プーチンについては許していないかんじなんだけれど、ロシアの人たちのことは、腕を拡げて受け入れなさい、というわけ。
 しかし、短期的に言うと、プーチンをどう包摂するか、という問題があると思うんだよな。包摂って言葉が難しいよね。

 ここから、戦争で人がいっぱい死んだり苦しんだりしているのに、お前はふざけているのかってお叱りを受けちゃいそうな話が出てきます。でも、全然、ふざけていない。僕も妻も、きわめて大真面目に、どうして戦争が起きたんだろう、どうしたら戦争を止められるんだろうということをずっと考えてきた。だって、僕は戦争が始まってからもう40日にもなろうというのに、毎日5000~10000字くらいの文章を、Facebookに投稿してはそれをnoteに転載するということを続けているわけで。真面目に勉強したり考えたり、していないわけがないでしょう。それを横で見て、私にいろいろ意見をくれる妻だって、僕と同じように真剣に考えている。

 のだけれど、うちの妻は、なんというか、直観的に、はじめに聞くと「え?ふざけてんの?」っていう、突拍子もないことを言うわけ。僕も初めは「だーかーらー」って否定したり、聞き流したりするのだけれど、ずっとずっと後になってから、「あれ、妻が言っていたのは、こういうことだったのか」って本当にずいぶん経ってから腑に落ちたりする。今日の、アタリさんの話を聞いていて、戦争が始まった直後の、妻との、そのときはトンチンカンな、よくわからないやり取りが、すごく大事なことに思えてきた。という話を前半に書いてから、後半、道傳さんとアタリさんのやりとりを読んでもらいたいなあ。というのが、この文章の目論見です。


 うちの奥さんが、この戦争の初めから、直観的に、思いつくままに僕に話してくれていたことで、今日のアタリさんの話を聞きながら、やっぱりうちの奥さんの言うことは、本質的なところで正しい、人の心の動きがわかるというのはこういうことなのだなあ、と思って、なんとか、その感じが、みなさんに伝わるように書いてみたいと思うのだな。

 まずね、北京五輪が終わってすぐ、直後にプーチンは、ロシア軍をウクライナに攻め込ませたでしょう。そのとき、うちの奥さんが何て言ったかと言うと、「ワリエワちゃんを、西側の国がドーピングだっていじめて、泣かして、あんな可哀そうなことに、よってたかってしたから、プーチンが怒って戦争を始めちゃったんじゃないか」って言ったわけ。ワリエワちゃんて、女子フィギュアの、あの、大会前は圧倒的金メダル候補だったのに、はじめの団体戦途中で「ドーピング疑惑」ってなって、精神的にボロボロになって、シングルではメダルにも手が届かなかった、あの子のこと。


 妻がそんな突拍子もないことを言うので、そのときは僕も「いやいや、そんなことじゃなくて」って、僕がそのとき(まだにわか勉強前だったんだけど)知っている限りのウクライナとロシアの様々な経緯を説明したんだけれど。

 でも、今、戦争始まって40日ほどたって、その間、ロシアがウクライナに攻め込む、何百年の歴史から宗教から冷戦後の混乱からガスパイプラインを巡る何からNATO EUとの関係からまあ勉強できることは一通り勉強した上で言えるのは、「ロシアの、プーチンの、西側先進国から疎外され、バカにされ、下に見られ、いつのまにかアメリカのライバルと言う座も中国に取られ、軽く扱われ、どこにいっても敵役にされた悲しみと恨み」というものがプーチンにも、ロシア国民にも深く共有されていて、そのことが象徴的に表れたのが、北京五輪にもロシアと言う国としては参加させてもらえず、それでも参加したROC選手の中で、いちばん強くて可憐なワリエワちゃんのことを、ドーピングだなんだと西側諸国が寄ってたかっていじめて、実力が発揮できず泣いてしまったあの姿に、そういうロシアの悔しさと悲しさが集約されているという、うちの奥さんが直観的に感じたことというのは、間違っていなかったなあ、と思ったわけ。


 話は飛んで、この前再放送されたBS世界のドキュメンタリー、2016年12月に放送されたものの再放送「プーチンの道 その権力の秘密に迫る」というアメリカWBGHというところが2015年に作った番組。若きプーチンがソ連崩壊直後、KGBをやめてサンクトペテルブルグ市役所の役人になったところからの、汚職と暴力と権力者へのためならどんな汚いことでも平然とやる、チェチェンと戦争をする口実づくりにロシアのアパートで死者がたくさん出た爆破自作自演テロまでする、政敵や邪魔なジャーナリストは毒殺する、そんなこんなであれよあれよというまに権力の頂点に上り詰める手口を追ったすごい内容だったのだけれど。

 その中で「プーチンの屈辱と寂しさ、西側への怒り」が、それは人間だから感じたろうな、俺でもあんなことされたら、恨みでなんでもしちゃうな、というシーンがあった。


 2014年、クリミア侵攻、東部ドンバスの戦争、そして7月にマレーシア航空機がウクライナの戦闘地域の上で撃墜され、オーストラリア人がたくさん亡くなった。で、それはロシアの仕業とされた。
 その直後のオーストラリアでのG20。プーチンは、首脳20人の記念撮影ではいちばんはじっこに追いやられ、屋外でのランチパーティみたいなところでは、誰も一緒にご飯食べてくれないで、丸テーブルに一人で座って一人ぼっちごはん。小学生の「あいつ無視な、無視」といういじめだって、いまどきこんなに露骨にやらないっていうくらいの無視、いじめ。で、プーチンはこのサミット、途中でひとりだけ帰っちゃうの。一人で飛行機のタラップを駆け上がる映像。いじめられて、ひとりぼっちで給食食べて、悲しくて昼休みに家に帰っちゃういじめられっ子、みたいな感じだったわけ。

 
 なんていうか、「ワリエワちゃんをみんなでいじめたから戦争はじめたんじゃないか」というのも、「あのサミットで、みんなが露骨にプーチンを無視して、ひとりだけ誰もランチ一緒に食べてくれなくて誰も話しかけてくれなくて」っていうのも、(それはクリミアとドンバスとマレーシア航空機撃墜があったから当然と言えば当然なんだけれど)、そういう西側先進国は、ロシアを下に見て異分子と見て、ロシアの金と資源にだけはしっぽを振るが、仲間だとはひとかけらも思っていない。という恨みと怒りと屈辱、というものが、プーチン個人だけでなく、ロシア国民にも共感共有されてしまっているのだよなあ、と思ったわけだ。


 うちの奥さんは、そういう「プーチンと言う個人とロシアと言う国民の、心の重なりとしての、西側先進国に、大事にされていないこと、仲間外れにされていることで、ひがみうらみ頑なになった心」というものを、直観的に感じたんだと思うんだよね。

 で、妻が考えた解決策と言うのが、本当に突拍子もなくて、怒らないでほしいのだけれど、「安倍元首相か森喜朗元首相と一緒に、アンミカさんか、叶姉妹に、プーチンのところに行ってもらって、プーチンの手を握って、『西側は、別にプーチンさんのこともロシアのことも、軽んじてもいないし、仲間はずれにもしていないですよ』って、言ってもらうのがいいと思う」って、これは本当に、初めは全く理解できなかったんだけれど、うちの奥さんははじめっからそう言っていたんだよな。

 別に「色仕掛け」っていう意味じゃないと思うわけ。叶姉妹なら色仕掛けだけれど、アンミカさんだと、あんまり色仕掛けじゃないでしょう。そうじゃなくて、「親身になって、誠心誠意、心から、あなたは悪くないよ、私たちは敵じゃないよ」って伝えるなら、妻のイメージとしては、アンミカさんが最適って思ったようなわけ。そのことを、西側が、日本が仲介になって、ロシアに伝えてあげないと、この戦争は終わらない、解決しないっていうことを、うちの奥さんなりの言い方で言っていたんだと思うわけ。「包摂」っていう言葉が政治とかの文脈で使われることを妻は知らないと思うのだけれど、それを妻なりに思い浮かべたら、そういう解決策が浮かんだ、ということだと思うのだよね。

「包摂」っていうと、言葉として難しいけれど、心のありようとして、アンミカさんになって、手を握ってあげて、「あなたの敵じゃないのよ、味方なのよ、仲間なのよ、」そう、風の谷のナウシカが、敵意をむき出しにして毛を逆立てているキツネリスがかみついても「敵じゃないのよ、怖がらなくてもいいのよ、」って言って上げる、あれが、包摂なんだ。戦争を止めるために、今、必要なのは、どうやって「ロシアを包摂するか」なんだ。もちろん、今もロシア軍はひどいことを続けている。本当にひどい戦争をしているとしても、それでも、包摂しかないんだ、ということを、妻は、こころで分かっていたのだと。そう、アタリさんの話を聞いていて、思ったわけだ。もちろんそこにたどり着くために、ウクライナの軍隊が、国民が、命を捨てて勇敢に戦って、ここまで戦線を押し戻したことがとても大切なことだったのも、わかる。でも、これ以上武器を送って、とことんロシアをプーチンを追い詰めて、核兵器を使うかっていうところまで追い詰めてはいけないと思うのだよな。それから、プーチン万歳ってなっているロシア国民のことを「プロパガンダで洗脳されているバカ国民、しょーがねーなー」みたいに上から目線でバカにしてもいけないと思うのだよな。だって、バイデンに、アメリカのメディアに洗脳されて「プーチン●●せ」ってなっているのも、やっぱり「洗脳されているか鏡合わせのバカ国民」なんじゃないの。

 そう、今日、久しぶりに90歳の札幌の父と電話で話したら、案の定、NHKを熱心に見て、日経新聞を隅から隅まで毎日精読する父は「プーチンをこ〇さないと、戦争は終わらないんじゃないか」、と見事に米国メディア→日本マスメディアのプロパガンダ、「プーチン悪魔」をこ〇さないといけない思想に染まっていたので。

 まあ、僕の見立てを小一時間話して。やっぱり普通にテレビ見ていると、プーチンをなんとか始末しちゃわないと戦争は終わらない思想に染まるのだよな。

 で、その父との長電話の後に、アタリさんの、ロシアをいかに包摂するか。という番組を見たわけだ。

 ここまで読んでも、妻のアイデア「アンミカさんが手を握りに行く」は、包摂のイメージとしてはわかったけれど、具体的にどうなんだ。真面目な言葉で説明してくれ。と思っている人がほとんどだと思うので、アタリさんの言葉を、そのまんま、読んでみてくださいね。


では、ここいらから、ETV特集アタリさんのそのままの言葉を見ていこうかな。

番組、60分のうち、アタリさんパートは真ん中20分。前後のスベトラーナ・アレクシエービッチさん、アメリカの政治学者イアン・ブレマーさんパートもそれなりに聞くべきものがあったので、できれば再放送とか(6日水曜の深夜24時、NHKの書き方では7日木曜午前0時)とか、配信で見てほしいです。

すでに信頼関係のある道傳さんとアタリさんが画面越しに、和やかに挨拶を交した後、アタリさんの著書「2030年ジャックアタリの未来予測」を映しながらも道傳さんのナレーション「アタリさん以前から世界大戦を引き起こす危機が、地球上にはいくつもあると警鐘を鳴らしてきました。」

インタビュー開始

道傳さん「ロシアのウクライナ侵攻についてあなたは6年前に著書で警鐘を鳴らしていました。世界大戦の危険についても言及していました。いま私たちが目撃しているのはあなたが恐れていた以上のことだと言えますか?」

アタリさん「未来を予測し 過去を振り返ろうとするとき、最悪の事態がいつでも起こりうるということを忘れてはなりません。歴史が悲劇を繰り返してきたように大惨事の可能性を排除してはならないのです。人類はこれまでにもたくさんの悲劇を繰り返してきました。ですから今回のことも起きる可能性はありました。そして今後起きうるさらにひどいシナリオを想定することも簡単なことです。例えばキーウ(キエフ)の全面爆撃が行われ国々も破壊される。でもNATOの範囲外だからと民主主義国家が動こうとしない。それによってクレムリンは西側諸国を弱腰だととらえるかもしれない。そして西側諸国は核兵器を使うだろうかと考えながらバルト三国を攻撃するかもしれない。それが中国に影響して「台湾にも同じことをしていいのでは」と思わせるかもしれません。そして中国が台湾に侵攻した場合、アメリカが核兵器を使用するのかどうか。アメリカが何もしなかった場合、今度は日本がアメリカには守ってもらえないと考えるようになる。そして日本も自衛のための核兵器の保有を主張するようになる。これらが今後起きうる最悪のシナリオです。」

道傳さん「プーチんが予測しきれなかったことの一つが、ロシア国内からの抵抗かもしれません。クレムリンの内情はどんな状況と言えますか?」

アタリさん「戦争が始まって以来起きていることは、明らかにロシアの利益に反しています。ロシアは長期にわたって孤立するようになり、ロシアは貧しくなる。破産するでしょう。ロシア国民は多くの富を失い、世界とのつながりも失うでしょう。つまりロシアにとって、よいことは何もないのです。」

道傳さん「この事態で地政学で大きく変わる可能性があると考えますか?」

アタリさん「地政学上の変化ではありません。これまでに存在していた“蛇の結び目”のクライマックスを迎えたと言えるでしょう。私たちの頭上には何千もの核兵器があります。ロシアは控えめに言っても民主主義の世界に仲間入りしたとは言えません。中国もです。全体主義の国々が、民主主義に向かわない限り、私たちは戦争の危機にあります。忘れてはならないのは、民主主義の国家間で戦争は一度も起きていないということです。しかし全体主義の国にとって、民主主義は脅威です。それが戦争を仕掛ける強い理由となります。民主主義の方がよいと国民に気付かせるから脅威なのです。」

道傳さん「ではその結び目を解くには何が必要でしょうか。」

アタリさん「ネガティブにならないこと。悲観的になりすぎないこと。弱気にならないこと。どんな交渉のチャンスも逃さないこと。そしてウクライなやロシアなどの国で抵抗する勇気ある人たちを支援すること。この状況下でリスクを負う夕刊ロシア人を歓迎すること。ロシアや中国の人たちの気持ちが変わるよう、できる限りのことをすること。私たちはてきではないことを気づかせ、民主主義の方がよいと思ってもらえるようにすること。」

道傳さん「あなたはずっと私たちがロシアやロシアの人々の味方になるべきだと主張してきました。今もそのようにお考えですか?」

アタリさん「はい、私はロシアはヨーロッパの一部であるべきだと思います。少なくとも領土の一部は。そして民主的なロシアはEUに歓迎されるべきと考えます。実際に私が欧州復興開発銀行の構想を思いついた当時、私も、西側諸国の多くも、ロシアを民主化へ導きたいと考えていました。そして私たちは最善を尽くしました。」

VTR、ベルリンの壁をハンマーで壊す市民。
道傳さんナレーション「1989年、ベルリンの壁が崩壊。東欧諸国が次々と市場経済に移行し、民主化に動き出します。」

若き日のアタリさんが、ミッテラン大統領と歩く姿

「アタリさんはフランス・ミッテラン大統領に東欧の復興や開発を支援する銀行の設立を提言。その後、初代総裁に就任し。崩壊へと向かうソビエトを巻き込みながら、新たなヨーロッパを構築しようと模索を続けました。

ゴルバチョフ大統領と握手する若きアタリ氏の写真。

インタビューに戻って

道傳さん「あなたが初代総裁となった欧州復興開発銀行(EBRD)設立の話が出ましたが、今回のような危機こそが、あなたが全力で防ごうとしたものだったのではないですか?

アタリさん「ええ、私はEBRDのアイデアを思いついたことを誇りに思っています。当時のフランス大統領、フランソワ・ミッテランと共に設立のための活動を開始し、パリで協議を行い、速やかに協定を締結しました。アメリカがソ連のちのロシアと交渉することをよく思わない中で、私たちが押し切ったのです。アメリカはロシアを民主主義陣営に入れることに後ろ向きでした。この銀行では国際機関として初めて民主主義に関わる融資条件があり、民主化に向かっていない国には融資をすべきでないとされました。それにロシアも同意していました。」

道傳さん「私はヨーロッパに責任があると非難するつもりはありませんが、EBRDにはロシアなどの国の懸念や不満を受け止める役割もあったのではないですか?我々が現在直面しているようなリスクに発展する兆候は、当時ありましたか?」

アタリさん「そうですね。洞察力をもってすれば、我々はもっとできたはずです。EUに加盟したいというメッセージが20年前にクレムリンから届いたはずです。確かにあったはずです。クレムリンが加盟したいと言い続けていたなら、法の支配、腐敗政治からの脱却、完全な民主化への意欲を見せていたのなら、ヨーロッパはロシアを歓迎したでしょう。ロシアが民主化の方向へ進めば進むほど、ヨーロッパは受け入れやすくなったはずです。」
道傳さん「冷戦の終結が持続的な平和を意味したわけではないのに、人々の注目は中国など他のことに注がれるようになりました。まるでロシアは二番手の国であるかのようでした。」
ここでアタリさんが割って入る。
アタリさん「まず説明させてください。我々のやったことすべてが失敗だったわけではありません。というのも旧共産圏の国々の多くは民主化を果たし今やヨーロッパの一部となりました。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアなどの国々です。そしてなぜロシアが民主化できなかったのか?それはロシアが巨大な国だからです。ロシアでは支配階級の素行が悪く、西側諸国が介入しづらかったのです。またアメリカという国は常に敵を必要としています。中国はアメリカの敵とされていますが、私の考えでは、当初、中国は敵国と言う存在からはほど遠く、アメリカの敵にはなり得ませんでした。それでアメリカは危機に陥りました。少なくとも軍産複合体は聞きに陥りました。議会から予算を得るためには脅威がなければなりません。そこでロシアの存在が必要なのです。(米の)軍産複合体とクレムリンの過激派の中に利害が一致する人たちがいるのです。」
道傳さん、ナレーション。「アタリさんは自らのホームージで『ロシアの人々を歓迎しよう』という文章を公開しました。『いま起こっているのは前世紀からの冷戦の最後の残骸なのだ。私たちは最悪の事態を避けるために冷静さを保つべきだ。』」
道傳さん、アタリさんへのインタビューに戻り「冷戦の終結とソビエト崩壊について話してきましたが、現在我々が見ているのはポスト冷戦の終わりだと言えますか?」
アタリさん「いま私たちが見ているのは冷戦の最後の出来事だと思います。というのもポスト冷戦など実際は無かったのです。双方とも6000発もの核兵器を保有しています。そしてロシアは西側と同盟を結んだことはありません。冷戦は終わることは無かったのです。これは冷戦のクライマックスのひとつです。冷戦の終結はもう少し先のことなのかもしれません。」
道傳さん「冷戦が終わっていないとしたら、私たちは何に備えればいいのでしょうか?」
アタリさん「今回の悲劇を通して、人々が理解を深めることで、冷戦が終わりに向かうことを期待すべきです。冷戦では双方が負けて得るものはない。失うものばかりです。そしてそれは現代社会において大惨事を生みかねません。ですから最善のシナリオは、今回の危機で人々が、今度こそ冷戦を終わらせなくてはと気付くことです。そのためには、西側でもロシアでも、すべての人の行動の変革が必要です。」
道傳さん「それはどのようにしてできますか?」
アタリさん「ロシアの人たちに、これでは何も勝ち得ないことを理解させるのです。そして民主主義にシフトすることが最善策だと理解させるのです。彼らを侮辱したり悪者にせず、民主主義と市場経済が自分たちの利益になると説明するのです。」
道傳さん「それは、ほぼあなたの「利他主義」の哲学ですね。」
アタリさん「ええ、まさにそれです。『利己的な利他主義』と私が呼ぶものです。西側諸国にとってロシアに働きかけるのは自分のためにもなるそしてロシア人にとって民主主義に加わることは自分たちの利益にもなるのです。ロシアのオーケストラや音楽をボイコットするのは馬鹿げています。もっと歓迎して上演をして彼らを理解すべきです。もちろんクレムリンがバックにいる音楽家のことではありません。それ以外の音楽や演劇や文学を深く知るべきなのです。両手を広げ彼らと一緒に何かをするのです。」
道傳さん「わかりました。どうもありがとうございました。この困難な時期を乗り越えるためにいただいたお言葉を大切にしたいと思います。」
アタリさん「私が話したことをどうぞ役立ててください。」

文字起こしおしまい。ここからちょっとだけ、僕の意見。

バイデン大統領のポーランドでの演説、「軍事的にロシア軍を徹底して叩き、経済制裁も徹底して加え、ロシアの中からプーチンを倒す勢力が出ることを支援し、ロシアの体制変換を図る」というのと、アタリさんの言ってることは、どこが同じで、どこが違うのでしょう。

アタリさんも、ロシアに「民主主義と市場経済への移行」をしてほしいと考えています。今のロシアは権威主義と、泥棒経済の国です。共産主義でも社会主義でもありませんが、いずれにせよ権威主義専制政治の国です。そして、ロシアの、体制に抵抗する人を応援しようと言っているわけです。

しかし、「アメリカは、プーチンだけでなく、ロシアと言う国全体を敵と考え、ロシアの人びとを見下し、敵視し」という姿勢が、どうしても前面に出ます。ロシアのあらゆるものを憎み、ボイコットするのかぜ正義だ、という態度に出てしまいます。

むずかしいのは、ロシア国民の大半が、プーチンを支持していることです。プーチンを支持している国民のことを、手を広げて受け入れる、ということができるのでしょうか。

やはり、ひとまず、プーチンとも会話をする。プーチンの不満にも耳を傾ける。プーチンの態度が和らがないことには、ロシアの国民に、西側の情報が伝わらない。西側との、国民、市民レベルでの交流が深まらない。

ほんとうに、直接殺し合いをする戦争と言うのは愚かなことで、その憎しみは、二世代三世代を経ないと、薄れていきません。日本と韓国の間で、「韓流ドラマ」「K-pop」を、上も下もなく素直に楽しめる世代が登場するまで、戦後70年かかった。政治が教育で憎しみを継続させようとしても、それとは関係なく、日本と韓国、日本と中国の間で、人が交流し、互いの文化を楽しむ人がそれなりの比率で増えていくのに、それくらいの年数がかかった。

ロシアに対するウクライナの人の嫌悪、憎しみと言うのは、それくらいの世代をかけて解決しなければいけない傷を、今回残したと思います。

そうであったとしても、「これ以上憎しみを増幅させない」「ロシアの人の被害者意識、西側から蔑まれ仲間外れにされた屈辱感」をやわらげ、仲間だ、味方だという態度で包摂していくしか、「最悪の事態を避ける」道はない。

アタリさんの国フランスの、今の大統領マクロンが、プーチンとの対話を諦めていない。バイデンとは明らかに違う態度でプーチンと交渉している。

ずっと一貫して言っていますが、今、正気を保ってこの事態に当たっている世界のリーダーは、マクロンだと思う。

「ロシア国民は包摂するが、プーチンは●●す。」というのがバイデンだとすると、その態度だと、ロシア国民の心が離れちゃう、包摂されたがらない、ということだと思う。

民主主義国家のリーダーは、戦争でひどい戦いをせざるを得ない中でも、プーチンのことも、ロシア国民のことも、「戦争のあとの世界のことを考えて、仲間として生きていく未来を考えて、話し合う態度があるのだ」という態度でいないといけない。そこを諦めちゃいけない。ということを、アタリさんの話を聞きながら思ったわけだ。

なかなか難しい話で、僕も全部すんなり呑み込めているわけではないけれど、アタリさんとマクロンさんをつなぐ線の上にしか、この戦争から、なんとかみんなが生きていける未来は生まれてこないと思うのだな。そこに、日本も参加してほしいのだな。「ロシアは敵だ、プーチンは悪魔だ、もっと武器だ」のバイデンの腰ぎんちゃくではなくて。


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