3/15のNHKBSワールドニュース、ついにロシア国営テレビを放送するのをやめた。ロシア国内の報道がわからなくなったので、代わりに中立的なドイツZDFやアルジャジーラをさらに深く読み込む。 で、ドイツZDFとBBCを詳細に比較をしてみた。

 3/15のNHKBSワールドニュース、ついにロシア国営テレビを放送するのをやめた。六時からの部のZDFのあと、今までロシア国営テレビの定位置に、かわって、ウクライナ公共放送というのが入った。世界の風向きがこうなった今となっては、NHKの決定もやむなしかとは思う。ロシア国内の報道がわからなくなったので、中立的なドイツZDFやアルジャジーラをさらに深く読み込む必要がある。


 で、ドイツZDFの独自性を知るには、BBCと詳細に比較をすることが必要なんだよな。


 というわけで、午前五時からNHKBSワールドニュースでのBBCトップニュース、約10分と、午前六時からのドイツZDFトップニュース、約10分、構成や演出手法を、今日はちょっと詳細に追っていこうと思う。


 BBCの方はのポイントは、「市街の悲惨な状況」と「トップ、各国の交渉」を交互にテンポよく織り交ぜる、という構成、編集の仕方。


 理性的に考えるのが難しくなる「あ、酷いな、ウクライナのあっちでもこっちでも、ロシアの攻撃は市民を、市街をめちゃくちゃにしているな」という印象と、「だからアメリカやイギリスのトップは外交で大活躍しているな」という印象と「でも戦争は止まりそうにないから、これは戦争はしばらくは激化するな」という印象だけが残る。


 夜のリビウに立つ女性キャスターの映像、「四回目の交渉は成果なく終わった」という言葉から始まり、首都キエフの高層アパートへのミサイル攻撃のニュースへ。一面破壊されまだ煙を上げるアパートから老人が救助される。「これは悲劇だ。あいつは頭がおかしい」という男性、「それはプーチンのことだ」とナレーション。「こういう人でなしの連中が私たちのウクライナから消えるように」という中年女性。泥だらけのギターを抱え、破壊され尽くしたクルマを見上げる青年を映しながら「「生き残るということは大切なものをいくつか、そして自分の命を守ることです」という、文学的なナレーションが被さる。

 市民の被害を、視聴者の情緒に訴えるように、「おお、このギターを抱えた青年の絵、いいなあ」と言うことで、そこに、詩的なナレーションを被せる。こういうの、わざとらしくないけれど、BBCは上手い。そこから、「キエフはミサイル攻撃にはぜい弱だが、それでも防衛を考えるている」というナレーションとともに、てドニエプル川も防御線だとしつつ、キエフ防衛の作戦を検討する参謀へのインタビューに。「ロシア軍はこの街を包囲しようとしているが、敵は兵力が足りないとも言われており、この街では二万人に武器が供与され、街が要塞化されているため、攻撃すれば自分たちに大きな被害が出ることも分かっている」と答える幹部参謀たち。
 市民も武装したに市街戦に向けて、準備は整っている、という内容だ。BBC的には、停戦交渉よりも、市街戦を盛り上げていく、という方針は明確なんだな。そうやって取材しているうちも、トローリーバスがミサイルで破壊され、運転士が犠牲になったというニュースと映像。キエフがもう最前線になっていることを印象づける。


 続いて、マリオポリが破壊されつくせれている空撮動画と、静止画の地上の破壊され尽くした静止画。先日伝えた妊婦が運ばれる静止画、病院の動画。妊婦が死亡したというニュース。地下に避難している大勢の子供たち。そこに、赤十字の人の緊迫感ある現地からのレポート、記者のレポートが挿入される。最後、空撮の不安定な映像を映しつつ、マリオポリが戦略上重要な拠点であることを言ったうえで「人口50万のマリオポリは、悪夢から抜け出せません」と、また詩的なナレーション。
 静止画と動画、空撮の大きな「破壊しつくされた都市」の絵と、アップの子供や妊婦。
 このあたりの、映像の組み合わせも、もう抜群に上手い。BBCの、報道の質の高さと言うのは、群を抜いていると、改めて思う。正確だ、という意味ではなくて、人間の情緒をコントロールするという意味で。「プロパガンダ」というと、嘘をつくことだ、くらいの荒っぽい理解の人が多いと思うが、こういう、事実を組み合わせながら、映像とナレーションの押し引きで、人の情緒、理解をコントロールすることこそ、プロパガンダなんだよ。ロシアの単に嘘をついて、分かる人には「ああ、またテレビが嘘をついている」と感じさせるようなプロパガンダというのは、程度の低いものだ。BBCの、上質なドキュメンタリーのような、映像とナレーションで、ものの見方、感じ方を、ひとつの方向に限定していくことこそ、プロパガンダなんだよ。

 次いで、スタジオに戻って「ウクライナとロシアの四回目の交渉は結論が出ないまま終わり、15日に再開します」と、外交交渉のニュースに話題を転じて、中国とアメリカの高官がローマでの交渉を伝える。ロシアが中国に支援を要請しているというアメリカ情報機関の情報に対し、中国は否定しているが、もしそんなことがあれば中国への制裁につながる、とアメリカは警告。と女性キャスターが語る。

 というところから、また今度はハリコフの住宅街が破壊され尽くされている映像、ニュースへ。「ロシア軍の空爆でがれきの山に。少なくとも二人が死亡、さらに多くの人ががれきの山の下に。」というのをつなぎに使いながら。

「そのさなかウクライナとロシアの四回目の交渉が」とビデオ会議の様子を見せた後、ウクライナのポドリャク大統領顧問、自撮りコメント「われわれの立場は変わらず、平和と即時停戦、ロシア軍の全面撤退です。両国の関係を話し合えるのはその後です。」
 ロシア側にも要求があります。ラブロフ外相や報道官は「戦闘終結は、ウクライナはクリミア半島のロシア帰属を認め、NATOとEUに永遠に加入しないことが条件だ」と、会見の模様を伝えると、映像は国連に移り、「ロシアの外交官は西側への突飛な主張を繰り返しています」と、ロシアの国連大使が「ドンバスとルガンスクの状況を西側のメディアは恥知らずにも、ロシアの軍事作戦の結果だと吹聴しています」と「突飛な主張」と印象付けた上で、ゼレンスキー代表が、執務室に入るところからの映像に切り替え「もういちど申し上げます。飛行禁止区域を設けなければ、ロシアのミサイルがNATOに着弾するのは時間の問題です。」というゼレンスキー演説を「こうした要求をするのも当然でしょう」と肯定。「中国の役割はどうでしょう」として、ローマでの中国とアメリカの交渉映像に切り替えつつ「ロシア軍支援をすれば経済制裁をする」という米国川主張と「アメリカがフェイクニュースを伝えている」と相互に批判を応酬していることを伝える。
 BBC記者が「ロシアとウクライナの交渉について楽観的な見方も出ているが、額面通りに受け取る人はほとんどいません。」とし、
 最後に、ジョンソン首相の動向について「14日午後ラトビアの首相と会談、夜も北ヨーロッパの首脳と会談します。焦点は北ヨーロッパの防衛機用かです。」とした後、すぐにハリコフの破壊され尽くした街の映像、そこに小型迫撃砲弾が転がっている絵を象徴的に映しつつ「外交的な動きの一方、ウクライナでの戦闘は続き、人々はその代償を払わされているのです。」と締める。

 この後、一転、ウエストミンスターでコモンウェルスデイの礼拝が行われ、女王が欠席しつつ「試練の中で団結を」というメッセージを報じた。イギリス連邦がこの危機に団結している様を伝える。
 

 外交努力が多面的に行われているが、そう簡単には停戦交渉はまとまらない。背後にいる大国も動いているが、それでも戦闘は止まらず犠牲が出続ける。キエフでの市街戦は不可避、イギリスは非―心を一つに、この危機に立ち向かうのだ、いう気分が残る。


 BBCという放送局の実力を、こうやって詳細に分析すると感じるなあ。細かな、ほんの1~2秒の映像でも、その意味、印象効果を吟味して、つないでいるのだな。


というBBCのニュースの流れを踏まえて、ZDFと比較していこう。


 ドイツDFも、マリオポリでの産院の悲惨なエピソード、先日、担架で運ばれていた妊婦さんについて、医師が「帝王切開を試みたが赤ちゃんは死亡し、母親もその後助からなかった」と悲劇を伝える。

 マリオポリの爆撃の様子をドローン空撮、破壊された市街の映像に被せて「ゼレンスキー大統領はプーチン大統領との直接の会談を求めています。双方から交渉についての新たな話が出ました。」そして、ゼレンスキー大統領の、執務机に座っての会見映像「我が国代表団は明確な目標を持っています。」アナウンサーが「両大統領の会談で、人々はそれが実現することを待っています。しかし交渉は何の成果もなく中断されました。前線の状況にも変化はありません。」
 BBCでは言及の無かった「両大統領の直接会談」の可能性を、ZDFはまず語る。


 首都キエフの高層アパートのミサイル攻撃被害死者が出たこと。これもBBCと共通素材。街の外では市長の弟が怒りをこめて次のように話しました。「ミサイル攻撃を受けたバス、失われた命。これらの映像はロシアのウクライナに対する戦争の真実の姿です。プーチンの戦争はこういうものなのです」


 次が、ZDFがBBCと違う点。すかさず、
「東部の親ロシア派の街の一つ、ドネツクも同様の状況です。複数の通信社がこの映像を配信しました。」と、燃え盛る民間の自動車を消防隊が消火している。壊れた建物から老人が運び出される映像に被せ「親ロシア派の武装勢力は、ウクライナ軍のミサイルにより、少なくとも20人が死亡した、と声明を出しました。これに対しウクライナは、14日はドネツクへの攻撃は行っていないと否定しました。両者の主張は対立しています。」ナレーションとともに、路上の死体が映し出される。
 ZDFは、ウクライナ側の被害を時間をかけて報じるものの、親ロシア派の街ではウクライナの攻撃で市民が死んでいるという事実も「主張は対立している」としながらも、「複数の通信社が伝えている」と、信ぴょう性はあるとして、伝えている。中立公正であろうという姿勢が、BBCとは異なるのである。

 ここでスタジオに戻り、「ウクライナ第三の都市、オデッサの状況を見てみましょう」と、地図を前にして、100万都市であること、黒海に面した港湾都市で、産業貿易の上でも、ウクライナ海軍の本拠であることでも重要であることを説明した上で、取材映像に。市民が、バリケードを築いていること、市民が組織的に働いていること、若い市民が「ここに最後まで留まる」と決意を語る。子供のいる家族は街を出たが、若者の多くは残って戦う選択をしていることを伝え「次にロシアの戦車に囲まれるのはこの街かもしれません」と締めくくる。


 次、外交のニュースになるのだが、BBCでは全く伝えていない、ドイツ・ショルツ首相がトルコ訪問し、エルドアン大統領と会見したニュースを詳しく伝えた。ドイツとトルコがここ最近あまり関係が良くなかったが、トルコはロシア、ウクライナ両国と友好関係にあること、トルコがNATOに属しながらも経済制裁には参加していないことにはショルツ氏はコメントせず、武器供与していることを賞賛した。
ショルツ首相「できるかぎり早く停戦を実現しなければならない、と言う点で完全に一致しました。これ以上、人々の命が危険にさらされてはなりません。危険地域から市民が脱出できる安全な回廊がなくてはなりません」と、戦闘より停戦、人道回廊と、市民の人命優先であるという演説。

 エルドアン大統領は、トルコはアンタリアでの外相会談を取り持ったことなど、トルコの役割を強調。ショルツ首相は、トルコとの間に人権問題もあるものの、停戦に向けて協力関係を強化するとしてこのニュースはおしまい。
 次に、ガソリン価格の高騰の問題に話題を転じる。野党CDUの「減税」策と、与党政権の「値引き策」の対立という、国内政争として、ガソリン高騰について報じている。
 最後は、軍事政策の変化として、軍予算が大幅に増額されたことで、主力戦闘機、もう540年も使っているトルネードから、日本でも採用が決まった最新型F35ステルスの導入が、ウクライナ紛争をきっかけに決まった、というニュース。


 イギリスBBCとドイツZDFの報道が、どれほど違うか。感じてもらえただろうか。


 BBCのニュースは、「ウクライナ、キエフで市街戦」「外交努力にもかかわらず、悲惨な犠牲、市街での市民での被害が拡大」「これはもう戦うしかない」という気分を、短い映像、戦闘被害のニュースと外交のニュースを細切れにコラージュしながら、そういう情緒を盛り上げる構成になっているわけだ。


 一方のドイツは、「ロシアのやり方はひどい。ウクライナ市民にひどい被害が広がっている」「しかし親ロシア派の街では、親ロシア派市民も、同じように浮くくらいなの攻撃で被害を受けている」「外交努力は、大統領同士の会談での停戦へ」という目標を目指しているが、なかなか難しい」「その中で、オデッサにまで進行が及ぶかもしれない」「ドイツはトルコと、停戦に向けた協力を進めている」「ドイツ国内では、ガソリンが上がってそれが政争のテーマにもなっている」「戦闘機も新型導入がやっときまったが、配備されるのはもうちょいと先だね」という、淡々といくつものニュースが積み重なって、この戦争が、ドイツの市民生活やドイツに与える影響を。いろんな側面で伝えるよ、というスタンス。散文的で公正公平さへの配慮が目立つ。

 ドイツDFを見ないで、BBCだけを見ていると、公正公平なニュースを見ているつもりで、「キエフ市街戦やむなし、戦闘にむけて、心を一つにがんばろう」という戦闘肯定的情緒が、盛り上がるようにできているのである。

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