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柔道グランドスラム東京2023の内容と結果から、パリ五輪代表、すでに内定していた階級と、今大会にゆだねられた階級について、あれこれ考える。

柔道グランドスラム東京の結果と、パリ五輪代表についてあれこれ言いたいことをつらつら書いていく。専門的な話ばかりで長くなります。自分の記録のため。

パリ五輪代表については、①直前まで選考がもつれると、コンディションのピークを選考会に持っていかざるを得ず、本番で調子を落とす。②直前まで国際試合に出続けると、海外のライバルに手の内をさらすことになり、本番で不利になる。③代表になるためにはIJFの世界ランク(直近国際大会の格付けに結果で変動し、大会格付けにより付与されるポイントが異なる)上位者にしか資格がないため、急に国内で台頭した若手選手がいても代表に現実的に選べない。

ということから、今年の早い段階で多くの階級で代表を内定してしまっている。

ちなみに内定選手の世界ランクと、同階級の選ばれなかった日本人最上位選手の現在の、本大会前までの世界ランクを書いておく。

6月29日発表の内定選手

女子 48㎏級  角田 夏実(7位) 落選 古賀若菜(4位)
女子 52㎏級  阿部 詩 (6位) 落選 志々目愛(20位)
女子 70kg級  新添 左季(1位) 落選 田中志歩(16位)
男子 66kg級  阿部 一二三(12位)落選 田中竜馬(13位)丸山城志郎(16位)は引退を表明

8/23に追加の内定選手

女子 57㎏級   舟久保 遥香(3位) 落選 玉置桃(20位)
女子 78㎏超級  素根 輝(8位)  落選 富田若菜(7位)
男子 73㎏級   橋本 壮市(3位) 落選 大吉賢(35位)
男子 81㎏級   永瀬 貴規(13位) 落選 小原拳也(14位)

男子 90㎏級   村尾 三四郎(3位) 落選 増山香補(42位)

男子 100㎏超級 斉藤 立(5位) 落選 影浦心(10位) 太田彪雅(20位)

つまり、今大会まで決まっていなかったのは以下で、今大会での結果で決まることになっていた。(カッコ内? 大会前世界ランク)

男子60キロ以下 高藤(20位)か永山龍樹(3位)

男子100キロ以下 ウルフアロン(40位)か飯田健太郎(27位)/新井道大(43位)

女子63キロ以下級 高市未来(4位)か堀川恵(9位)か高木

女子78キロ級は 髙山莉加(10位) 濵田尚里(16位) 梅木真美(17位) 

 東京五輪金メダリストの高藤の世界ランクが20位、ウルフアロンが40位、濱田が16位であり、現在の実力でいえば、永山、飯田、高山の方が上である。特にこの男子100キロ級は飯田が世界ランクをこの後落とすと、出場権がなくなるのでは、という不安の階級である。

 柔道と言うのは怪我が多く選手生命が短いし、日本国内のレベルは異常に高く、次々に新しい有力選手が生まれてくるので、前大会の金メダリストを特別扱いするのは、基本的に大間違いなのである。阿部兄妹はかなり例外的な存在なのである。

 今大会、パリ五輪内定者の出場/欠場は当初選手判断に任されたか、スター選手ほとんど欠場でテレビ東京テレビ放送視聴率に不安が出たため、おそらくテレビ東京から全柔連に内定候補を出場させてほしい旨の要望があり、結果として、女子はそれでも欠場が多く(57㎏級舟久保70kg級新添78キロ超級素根)、出場した内定選手は48級角田と52キロ級阿部詩の二人。男子は全員が参加した。

参加した選手の結果は、

女子の角田、阿部詩、男子の阿部一二三、村尾三四郎か優勝、男子73の橋本が準優勝、ここまでは面目を保った。

男子81キロ級永瀬は3回戦敗退。そもそも日本人が最も苦戦する階級なので仕方がないともいえる。男子100キロ超級斎藤は準決勝敗退、三位決定戦はは負傷棄権で5位に終わった。

内定選手が欠場した階級では、女子57の玉置2回戦敗退、女子70キロ級は田中が二位、女子78超級は新鋭の新井万央が優勝。田中選手や新井選手は大健闘であったが、内定選手、新添・素根の内定を揺るがせようということはない。

 今大会に代表決定がゆだねられた階級では、男子60キロ級は大変に清々しい、納得の結果となった。
 すでにピークを過ぎているが、パリへの執念を見せる高藤が、準々決勝、先にポイントを取られてからの逆転勝ち、準決勝も日本の若手中村を下した。二試合とも、発表決まり技はともかく、実際の動きとしては相手の内股をものすごい反射神経で透かしての技ありでの勝ち、往年の高藤をほうふつとされるものでありつつ、やはり全体的な衰え、かつての「無敵の天才」感はないという内容。一方の永山は、今年のパリグランドスラム、アジア大会、マスターズ(フィギュアスケートのグランプリファイナルのような年間上位者だけを集めた大会)すべてに勝っており、現在の力では高藤より上。というか前回東京五輪の代表レースでも高藤を当初上回っていたのを、最後の方で逆転されて悔しい思いをしたのである。この二人が決勝で対戦し、ゴールデンスコアにはいってすぐ、永山が背負い投げで見事に技ありをとって代表を決めた。負けた高藤もがすがすがしい笑顔で永山を称えた。決勝まで勝ち残って、直接対決を実現した高藤も偉かったし、きちんと投げて決めた永山も偉かった。

 女子63キロ級も、二番手につけていた堀川が、一番手高市に敗れ、敗者復活で三番手というか20の新鋭、まだ世界ランク67位の高木にも敗れた。一番手高市と高木の決勝となり、高市がしっかりと寝技で一本勝ちをしたので、これはすっきりと高市がパリ代表に内定するものと思われる。堀川はここのところいい柔道をしていたので残念だが、この大会では実力を出せなかった。

 困ったことになったのが、男子100キロ級と女子78キロ級。

まず、男子100キロ級

ランキングでは最上位の飯田健太郎が二回戦敗退。ウルフアロンが準々決勝で負けた上に、敗者復活初戦で負けて7位。どちらも柔道の内容が良くなかった。これに対し、若手の新井道大、この10月に世界ジュニアで優勝したばかりのまだ18歳。これが、2回戦

 新井道大、豪快な大外刈でアルマン・アダミアンは中立選手団つまりはロシアなんだと思うに勝った。このアダミアン、今年の世界選手権王者である。その勢いのまま決勝まで進み、惜しくも敗れたが準優勝。

 ウルフの柔道は五輪以降、明らかに不調で、とても代表には選べない。飯田健太郎も不安定な試合が多い。世界王者に勝った新井の若さと勢いに賭けて見たくなる。これはこの後の国際大会シリーズにこの三人を分散して派遣して、春の選抜体重別まで競わせることになるのだろうか。

 女子78キロ級も、東京五輪で圧倒的強さを誇った濱田が最近全く勝てず、今大会も三回戦と敗者復活一回戦で敗退。しかし残りの梅木と高山も敗者復活に回り、メダルまで届いたのは高山の銅メダル。梅木が5位、濱田は7位。もう一人参加していた杉村も5位。濱田は国内選手最下位となり、パリの目はもうない。高山でこのまま決めてしまうのか、高山と梅木でまだ競わせるのか。

 ということで、今大会でパリ五輪を内定、永山と高市は、今、いちばん強い選手がきれいに勝ったので文句なし。

 男子100キロと女子78キロはどうするんだろう。

 なのだがね。

 さらに、早々に内定を出してしまった階級でも、男子81とか100キロ級は、このまんまでいいのかなあと思う。永瀬はベテランすぎるなかで、東京五輪で金メダルも取っているし、若手にチャンスを与えた方がいいかなあと思うし。小原、藤原宗太郎、怪我のせいで世界ランクポイントが足りそうもない佐々木選手はもったいないなあと思う。

 100キロ超の斎藤立については、今の全日本監督の鈴木桂治監督が、斎藤立の父、故・斎藤仁さん国士舘大学監督・全日本監督につきっきりで鍛えてもらって五輪で金メダルを取ったということからの、「同じように自分が斎藤立を育てて金メダルを取らせたい」と言うような「感動ストーリー」がちょっと先行して焦って決めちゃったようなところは無いのだろうか。リネールに勝っているということでは、世界的にもごく少ない、影浦心選手がいるし、国際大会の成績でも太田選手はなかなか良い。しかも、世界の100キロ超級の流れは、影浦や太田くらいの体格の、背負いなど担ぎ技の柔道が優勢になりつつあり、リネールに勝つとしても、世界で金メダル争いをするとしても、もし本大会に好調のピークを持ってこられれば、影浦、太田にもチャンスはあると思うのだがなあ。メンタルとか、勝負強さ、みたいなことでも、斎藤立にはちょっと不安があるしなあ。(大学の団体対抗戦で、90キロ級の村尾三四郎に代表戦で負けた、なんていうこともあるし。)

 もちろん、体調とメンタルの調整がうまくいけば、斎藤立が怪物的に強いことは認めるが、しかし父、斎藤仁さんのような、芸術的な技術が、まだあるわけではないしなあ。(同時代に山下泰弘さんがいたのでその陰に隠れがちだが、技の華麗さ、切れ味、技術の多彩さでは、山下氏よりも上だったんじゃあないかと僕は個人的に思っている。内股、体落とし、どれも芸術的に美しかった。)

 鈴木監督は「i日本代表監督として、国士館出身をえこひいきするようなことは絶対しない」と明言しているし、そのことは心の底からの言葉だと思うけれど、恩師・故・斎藤仁さんの息子、斎藤立についてだけは、ちょっと、先走っちゃったような感じがするんだけれど、どうだろう。

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