見出し画像

世界陸上5日目 大番狂わせ&謎の事件が起きていた男子1500mを中心に振り返る。

世界陸上5日目


 今日、トラック決勝、日本人が長いこと活躍できていないので日本では大きく扱われないが、世界的には人気が高い、特にイギリスなんかではいちばん人気がある1500m。(今大会、女子では田中選手が注目されているので扱いが大きくなったが、男子は出場もしていない。)


 この男子1500mでは、ものすごい番狂わせと、実は大きなトラブルがあった。決勝結果は以下のとおり

1位 GBR Jake WIGHTMAN 3:29.23 WL
2位 NOR Jakob INGEBRIGTSEN 3:29.47 SB
3位 ESP Mohamed KATIR 3:29.90 SB
4位 ESP Mario GARCÍA 3:30.20 PB
5位 GBR Josh KERR 3:30.60 SB
6位 KEN Timothy CHERUIYOT 3:30.69 SB
7位 KEN Abel KIPSANG 3:31.21
8位 ETH Teddese LEMI 3:32.98 SB

 ほぼノーマークだったイギリスのウィットマンが、今季世界最高記録で(世界記録にあと3秒という好記録で))優勝。どれくらいノーマークだったかというと、決勝残り半周でトップに出るまで、アナウンサーにも解説にも一度も名前を呼ばれなかった、もちろん事前のスタジオ、織田裕二さんにも一回も名前を呼ばれなかったくらいノーマークだった、といえば分かるでしょうか。


 TBS的には、いつもの通り過去実績主義、この種目では東京五輪金メダリスト インゲンブリクセン(ノルウェー)と、前回2019世界陸上金メダリスト チェルイト(ケニア)、今季世界ランク1位 キプサングの三人を、決勝直前、写真で紹介して織田さんも話していた。


準決勝を振り返ってみるに、


 準決勝では1組で最後の100mまでインゲブリクセンが1位、チェルイヨトが2位で、最後に力を抜いたので、最終着順はイギリスのカー、スペインのガルシアに抜かれているが、「余力を残すために力を抜いたせいで、やはりこの組ではインゲブリクセンとチェルイヨトが優勝候補」という評価をしたのも、あながち間違ってはいない。


 そう、この種目のイギリス人と言えば、カーが東京五輪銅メダリストで、今回優勝したウィットマンは東京五輪10位だったから、イギリス人に注目するにしてもウィットマンではなく、カーの方が自然だったわけだ。


 準決勝二組を走ったウィットマンは3位だったが、1位キプサングからは1秒遅れ、2位スペインのカティレについでのゴールだったので、このレースも「キプサング強い」が印象であって、誰もウィットマンには注目しなかった。


 こうして見ると、準決勝結果では、インゲブリクセン、チェルイヨト、キプサングという、TBS注目選手がたしかに強かったのだが、着順結果だけを見ると、イギリス人2人(ウィットマンとカ―)スペイン人が2人(カティルとガルシア)が、各組三位まで6人中4人を占めている。

決勝の結果、再度日本語で載せるが
優勝、イギリス  ウィットマン
2位 ノルウェー インゲブリクセン
3位 スペイン  カティル、
4位、スペイン ガルシア
5位 イギリス  カー
6位 ケニア チェルイヨト
7位 ケニア キプサング

 TBSが注目しなかったが、実はちゃんと準決勝では各組上位三人に入っていたイギリス勢スペイン勢がケニア勢を圧倒する形になった。


とはいえ。レース展開を振り返ろう。


 改めて見直して見ると、二週目からケニア勢2人が前に出たのを、インゲブリクセンが追い、三周に入るところで抜いてトップに出る。インゲブリクセンvsケニア勢という、TBS予想通りのシナリオでレースは進む。


 イギリス勢2人はそのすぐ後ろについているのだが、スペイン勢は集団中盤に埋もれていて全く目立たない。


 最後の一周まではインゲブリクセンがずっとトップを走り、ケニアの二人がその後ろにぴたりとついて追う。


 ラスト一周に入ったところで、インゲブリクセン先頭だが、イギリス二人、ケニア二人がすぐ後ろにいてトップ集団となる。

 バックストレートでウィットマンが出て、インゲブリクセンを抜く、そのまま最終コーナーでもわずかにウィットマンがリードしている。

 三位四位にはケニア勢2人が走っていたのだが、コーナーのイン側からスペイン カティルが上がってきて、コーナー最後のところで、コーナー内側からケニア チェルイヨトのことを腕で押しのけ突き飛ばして抜く。中距離らしい、格闘技的抜き方。面白い。


 最後の直線、トップ争いはウィットマンとインゲブリクセン、インゲブリクセンが接近はするが、ウィットマン、最後まで譲らず優勝。そのまま、「信じられない」という顔でトラックにうずくまる。

 時間をちょっと遡り、最終直線の三位以下争いを描写。失速するケニア勢2人をスペイン ガルシアが、そしてゴール直前ではイギリス カーがチェルイトを抜いて5位を確保。


 と、あまりにレース展開が面白かったので、タイムに注目していなかったのだが、本来、3分何十秒というタイムが表示されていなければいけない、ゴール横に置いてあるタイム電光掲示装置の表示が19:34:26 という謎の数字。なんだろう。優勝タイムが分からん。テレビテロップでもない。


 そう気づけば、画面右下に表示されているべき、レース中のタイムの表示がない。


 国際放送画面左側の、トップ選手との差を示すギャップ表示は出ているが。肝心のトップ選手タイムが出ない。出ていない。


 録画しながら見ていたので、追いかけ再生ですぐ確認すると、トップのウィットマン選手が最終コーナーを抜けて直線に入るところ、3:16.5までは、画面右下にタイム計時、薄紫の帯の上に、ちゃんと出ている。ここで突然タイム表示が消えてしまう。


 1500mの世界記録は3分26:00。コーナーを抜けたところからゴールまでは、トラック内周では80mくらいである。80mを10秒切るタイムで走ると世界記録、ぐらいのすごいタイムで来ていたのである。


 そういえば、昨日だっけ、女子1500m決勝も、最後のストレートまで、「世界記録が出ます、これは出ます」という超ハイペースのレースで、画面トラック上に「世界記録」「今季世界最高」の白い動く線がCGで合成されて一緒に走る、という放送だった。(よく水泳の大会で出てくるでしょう。世界記録の線が移動して、現実の選手が世界記録いけそうかどうかを見せるやつ。)


 で、もしかすると、国際映像を作るテレビチームが、この男子のレースもすごい好タイムなので、あれを出そうとして、操作を誤り、タイム表示まで消してしまうという痛恨のミスを犯したのかもしれない。


 いやしかし、会場ゴール脇の電光掲示板装置もタイムが出ていなかったから、何か「計時と表示」システム自体が、この瞬間、何かミスが起きていたのかも。


 今大会はセイコーの計時システムで、もちろん放送のスポンサーにもセイコーは入っているんじゃないかと思うのでスポンサー配慮で「計時、タイムが出ていません」とは、TBSアナウンサー、とっさの判断で言わなかったのかも。だとするとファインプレー。広告代理店的見解としては。


 そして、この1500mのとき、トラックでは「ウクライナ優勝候補選手のドラマ」をアナウンサーが絶叫し続ける女子走り高跳びが並行して行われていたために、1500mゴール直後に女子走り高跳びに放送は切り替わり、「男子1500m、優勝タイムが分からない」事件はうやむやのまま、放送は進んだのでした。


 実際、女子走り高跳びは、ウクライナのマフチクら2選手、オーストラリア パタソン、イタリアのヴァローティガラら、それだけではない、リトアニアの若手17歳ブルースや、もう一人のオーストラリアの終止、ニコニコの笑顔で競技していたオレスレイガーなど、見どころの多い好試合でした

 が。ここも「ウクライナの戦争の悲劇を乗り越え、マフチク優勝」という事前に期待するストーリーを盛り上げようとTBSアナウンサーが絶叫を繰り返すのがむしろ興を削ぎ、その「作ろうとするドラマ」をぶち壊すように、オーストラリアパタソンが優勝する、という「スポーツは、無理してドラマを作ろうとしても、それを裏切る形で、本当のドラマを作るのだ」ということを印象づける試合になりました。

 試合展開を、ただ素直に放送した方が、むしろウクライナの二人のけなげな健闘は印象に残ったの思うので。TBSアナウンサーには反省してほしいものである。しないと思うけど。


 スポーツは、「期待した有力スター選手が力を発揮せず敗退することもあり、その代わりに、長く無名で苦しんたベテランや、伸び盛りの若者など、注目の外にいた選手が、一気にスターに駆け上がる瞬間を目撃するという、本当の筋書きのないドラマが展開されるところがいいところ。


 なので、「作られたストーリー」「やたらと有力選手だけを強調する番組づくり」「競技以外の感動ストーリーを協議中に繰り返し絶叫すめる」のは、いいかげんやめてほしいなあ。


 その他競技でも、事前に書いた筋書きは裏切られ続けています。今日の実例。

 男子200m、準決勝。「100m金のカーリー vs前回王者ライルズ」という昨日の「TBS的筋書き」に、予選で織田裕二さんびっくりの18歳ナイトンが準決勝では注目選手に加わった。TBSも織田さん見解に乗っかったものと思われる。
 そして。カーリーが準決勝1組で全く不調で敗退。ドミニカのオガンドが19.91の好記録で一位通過。新しい注目選手。
 2組ライルズ、3組ナイトンは圧倒的。


TBSの当初書いた「カーリーvsナイルズ」の筋書きは消滅。「ライルズsナイトンvsオガンド」という決勝になりそうである。


 女子200m準決勝も、TBSが今大会の「超人」として、やたらとたくさん紹介VTRを作った流したジャマイカのトンプソン・ヘラ(東京五輪の100、200の二冠、前のリオでも二冠だからまあ当然と言えば当然なのだが)がシーズンベストを出しながら着順3位、タイムで辛くも決勝進出となった。ここまでの出来では、フレイザー・プライスの出来がいい。予選から、走りの伸びやかさが圧倒的。今大会の体調、走りの内容からすると、フレイザー・プライスだと思うなあ。


 もちろん地上波で見る普通のスポーツファンのために、分かりやすく注目選手を絞り込むのは、ある程度までは正しい。選手個性を覚えやすくすめために、ある程度、家族や生い立ちのエピソードなんかを紹介するのは必要だろう。


 しかし、競技が進んだら、競技内容自体にドラマがあるということを胸に刻んで、その競技内容、そこで演じられる「筋書きのないドラマ」「主役と思った選手が力を発揮できず、それを上回る、新しいスターが、あるいはそれまで脇役であった選手が最高の輝きを放つこと」も大いにありうるのだと、しっかりと見つめて、放送してほしいのだな。そのためには、織田裕二さんみたいに走り、跳び、投げるその姿自体の質、を見極める審美眼。それに感動できる「陸上についての目利き」が、アナウンサーにも必要なのだ。スポーツアナのやることは、くさい感動ドラマを捏ね上げて、自己満足なフレーズを事前準備して、あらかじめ予習したネタと、自作感動ポエムを絶叫連呼することではないのである。


 それにしても1500mのタイム表示がレース途中で消えてなくなり、会場ゴール脇掲示板でも表示されないミスについては、なんだったのだろうな。セイコー、どうなっているのだろう。国際放送チームのせいなのか、セイコーなのか。それともTBSなのか。いや、これはTBSではないぽいな。誰も気づいていないのか、気づかないふりでスルーしたのか。大人の事情なかんじがします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?